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胎児の記憶を思い出すロスコルーム・DIC川村記念美術館
閉館のニュースを聞いて、平日なのに人が群がっていた。
東京駅からの直通高速バスは長蛇の列で、乗るのを諦めて、東京駅から電車で最寄駅まで向かい、無料送迎バスルートに変更です。
私はパニック発作があるので、バスはなかなかの鬼門なのだけど、高速バスはトイレ設備があったりして逃げ場があるのでなんとかなる。だからそれで行きたかった&無料送迎バスに20分乗れるか自信なかったので、できれば高速バスに乗りたかった……
が、諦めた。
行くのをやめようかとも思ったけど、ここでいかないともう一生いかないだろうから、覚悟を決めて電車に乗った。
不安な感じではあったけれど、なんとか美術館に到着した。
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このなにもなさ!
田舎、なにもない。
なのに、そこにレンブラントだのシャガールだの、ロスコ専用ルームなどがあるというのは、なかなかのあれだ……
私はアメリカの抽象表現主義はあんまり好みじゃないんだけど、見ておかねばなので。(キュビズムは別にそれほど好きじゃないけど見ておかねばというノリと同じ)
なんとかバスを降りて、炎天下で窓口に並んでチケットを買う。
丁寧な案内だが、スマートさに欠ける。無駄に丁寧。
丁寧だけど、ほしい情報はよくわからない。でもスタッフの人たちはみんな真面目で丁寧。
そしてとにかく、とにかく広くて、手入れが行き届いた庭園!!
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遠ーくに、ヘンリー・ムーア。
この芝生の真ん中にぽつーんと大きな彫刻を置くのは、余白の大きさこそ作品に必要なものなんだなってわからせがある。
近くまで歩いてみたけど、だんだん近寄っていくこと自体の楽しさがあります。ヘンリー・ムーアを囲んで運動会という変な図が思い浮かんでくる。
庭園はとてもきれいだったけど、相変わらずの猛暑酷暑で命に関わりそうだったから、スーッと美術館の中へ。
こちらの美術館は、作品の撮影禁止。
ホールの天井がとても素晴らしい装飾なのに、それも撮影禁止だから、なんだかちょっとがっかりな気持ちもあるのだけど、仕方ないです。個人が運営している施設は、運営側の意思を尊重する。公共のものとの線引きはある程度必要です。
あとで気づいたけど音声ガイド借りればよかった。が、ないならないでも、そこそこわかる感じになってきている。ここ数年の鍛錬のたまものである。
説明されなくてもまあまあ理解して、それとは別に自分の感性で楽しむことも両立する。美術館はさらに楽しくなる。
建物の贅沢さは、派手ではあるけど、なんかこじんまりした可愛らしさが感じられる。
瀟洒だけど、セレブぶりきれない。どことなく素朴な気配。
田舎のお金持ちの家に生まれたかわいい女の子が、蝶よ花よで育ってそのまま奥様になって、おばあちゃまになりました、みたいなおっとりした雰囲気。
文化的素養はズバ抜けているのに、競争心がなく虚栄心も内輪向けなかわいらしさ(妹のなんとかちゃんの方が素敵なお帽子だったの、あれに負けたくないわ!みたいな、外から見てるとマジでなんの害もない感じ)。
そんな人の良さ。
でもコスト感覚ゼロだし、ケアされて当たり前だと思ってる生粋のお嬢様だから、関わりたくないと思ってるお友達もけっこういそう、みたいな人物像です。
建物に人物像とは。
さて、作品につきましては…
まず、とにかく有名でポピュラーで、みんな知ってる系のモネやルノアール、ピカソ、シャガールあたりを真っ先に出して、溢れるウェルカム感。
シャガールの大きな作品「ダビデ王の夢」はとてもよくて、2周して見ました。シャガールらしいモチーフとシャガールトーンのレインボーな色合い、ちまちました小品ではなくドーンと。
藤田嗣治作品も、フランスの女性らしいふわっとしてゆるい曲線的な白い肌の女性の肖像画で、フジタの描く女らしさがたっぷり感じられる。
あと、ブラックの小さい作品がとてもおしゃれでよかったです。
そして、別格レンブラント。
帽子をかぶった男の肖像が、それだけ専用のスペースに飾ってある。
小ぶりの作品なのでとても近くで見れて、レンブラントの凄さが一目でわかる。
特に黒い服なのに、水玉模様のリボンのような異素材があきらかに正確に表現されている。写真のよう。写真だって黒づくめの服のニュアンスなんか映らない。でもレンブラントは描ける。
顔立ちと表情から、人となりと共に肖像画としての威厳が漂う。盛って描いてるわけだけど、盛りが絶妙というか、リアリティが損なわれず威厳と美しさが描き出されてる。スフマートな雰囲気の滑らかさのある顔の肌と、荒いタッチの襟レースの質感のギャップ。荒いタッチがなぜが精密な写実に繋がる超絶技巧。
つまり、レンブラントである。
近くでじっくり見つめられる距離感がとてもよかった。
私の嫌いなジャクソン・ポロックもしっかり見れた。
小ぶりな作品で、大作より視点が散らない分、彼のセンスのヤバさが把握しやすい気がした。
なんで嫌いなのかというと、ポロックの作風や技法のみを真似て、それを「カッコいい」と持ち上げるおじさんたち(なぜがポロックは50代以上のおじさんたちが熱烈に好む)のおセンスのなさが嫌いというのが正確なところなのですが、作品に漂う麻薬と酒とセックス依存症っぽい気配が、そこにはない異臭を連想させるのがちょっとイヤ。臭そう。
ただ、確かに爆裂に評価されているだけあって、偶然性に頼ったドロッピングが「これで完成」という形で着地してるところは、訳がわからないわからほどの凄さだと思う。まじセンス。
真似っこたちは技法は真似てもセンスはコピーできなかったことがあきらか。だから、世に溢れかえるポロック風作品は、センスの無さが際立ってしまうのに、表面的な技法だけをみて「カッコいい」って言えちゃう人の感覚を薄〜く軽蔑してしまう。
そんな流れで、ロスコも、いまいちどうかなみたいな感じがある。
アメリカの作家への警戒心。特に抽象表現主義あたりのへの警戒心。
でもとにかくこの美術館の最大の自慢でもあるロスコルーム。見てみないことには始まらない。
ロスコルームは、照明や壁などにロスコ本人の細かい注文があって、それをかなり忠実に再現したということらしい。(日本に作品が来る時にはもうご本人は亡くなった後だったらしいけれど、管理者や遺族から忠実に内容を引き継いだということみたい)
絵というより、空間がロスコ。
あまりアメリカの作家に詳しくないけど、海外ドラマで美術品窃盗団が「ダラスのフェルメール?」「いやセキュリティが厳しい」「クーンズの彫刻?」「重すぎる」「わかった……スミレ」「御名答」という会話で、ロスコだなーってわかる程度。
逆に言うとそのくらい、見とかないといけない作家でもある。
ということで、行ってみたのですが……。
薄暗い。
大きな絵が、どれも赤黒くて、部屋自体は広すぎず天井も高すぎず、絵の大きさと暗さのせいか、押し詰まったような、鬱屈した感じ。
この感じ、どこかで。
子宮の中だ。
血と肉が、別の肉を生成し、その肉塊が初めてなんらかの知覚を得た時。この世に生まれている全員が経験した知覚。
気持ち悪い。
気がついたら私は私として成形が始まっていて、知らぬ間に肉を与えられ、時が来たら肉塊ではなく、とある生き物として空気を吸って何かを食べて生きていかなくてはならなくなった。
極めて理不尽なことだ。
その、理不尽に与えられた感覚器官が未熟な状態で最初に認識していた世界に、ロスコルームはそっくりだった。
そんな記憶はないが、ないのにその部屋にいると思い出す。
赤黒い世界は光が当たった時だけ見える。いや、見えていたのではないかもしれないが、見えるという感覚で捉えてもいい気がする。
そこにいて、否応なくそこから追い出された。
(私は帝王切開で生まれた)
とても嫌な場所。
勝手に私を作り、勝手に追い出した、赤黒い部屋。
ロスコはそういう目的でこの空間を作ったわけではないのかもしれないし、全然別の効果を求めて(例えば人々の内面にある闘争への本能的な嫌悪だとか、なんでもこじつけられる)いたのかもしれないけれど、私には胎児の頃の感覚に引き戻されほどのパワーがあった。
この生々しい嫌悪感が、アメリカで高く評価されてる芸術作品によくある。と、個人的には感じている。
それをそのまま新鮮に空輸して、千葉で観る。
悪くない経験であった。
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しかしですね、閉店ラッシュ的な混み方をしていて、レストランは200分待ち、茶席も長蛇の列。もちろん入れません。
ショップは臨時休業(片方は開いてたのでいくつか買い物ができました)。
送迎バスも飽和気味であてもなく不安なまま炎天下で待つ、みたいな、なかなかハードな感じです。
ラストコールを聞いて慌てて見に行く愚か者、私です。
パニック発作でたどり着けなそうなアクセスなんだもん……
あとそんなアメリカの作家は好みじゃないから…
でも見に行けてよかったです。ほんとに。みんな早く行って。
もしかしたら、運営方針・経営方針が変更になるかもしれないし。(可能な限り、よい方向へ)
アートは生活に混ぜたらいけない、という、厳然たるファインアートの空気に打たれてこい。それが学び。みたいな気持ちです。
とても勉強になりました。
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2024年9月末まで、署名活動をしているようです。
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