一般人アートバーゼルへ行く■3日目①ヨーロッパで見るバスキアほどの贅沢、または本物のルソージャングル
空気が美味しい、という言い回しをよく聞く。最近はあまり言わないかも。でもその昔はよく言った。
高い山などで、「空気が澄んでて美味しい」というのだ。
私は山育ちなのでいまいち空気のおいしさなど感じたことはなかった。
味覚で表現するようなことか?と思っていた。
しかし。
バイエラー財団美術館にて、初めてバスキアを見た時に、とにかく空気がおいしかった。
とても空気がおいしかった。
バーゼル滞在2日目は、ドイツの半地下から最寄り駅に行って、そこから電車でバーゼルに向かう。9分。1両しか電車が来ない。結構満員で、香水の匂いがする。ヨーロッパ。
そしてピンクヘアのアジア人。
バーゼルに入ったら、案内人と合流して、トラムに乗り換えてバイエラー財団へ。
トラムは案内人がバーゼル市内に泊まったことで、旅行者に無料で配られるトラム無料券(バーゼルカード)と、アートバーゼルのチケットにおまけでついてくる一日トラム乗り放題券があるということで、その日は切符を買う事はなく、来たトラムにすぐに乗った。
バーゼルから、20分もしないくらいで、バイエラー財団美術館についた。
今回はアートバーゼルにあわせてバスキア展をやっているという。
ヨーロッパで見るバスキア。
アメリカのアーティストであるバスキアを、ヨーロッパで、スイスのアートバーゼルのタイミングに合わせて開催されるバイエラー財団美術館で見る。
初めてのバスキア体験において、これ以上あるだろうか。
最高。
なにもかも最高。
空間と、作品と、そこに関わる人たち。
ゴミゴミしたアメリカでバスキアを見るのが正しい気もするけれど、ヨーロッパでおきれいに展示されたバスキアが私のバスキア初対面(ちなみに前日にアートバーゼルでも見ていた)。
その箱の空気は、たとえようもなくおいしい空気だった。
おいしい空気ってあるんだ、と思った。
高額取引される代表的なアーティストであるバスキア作品。
作品の好みはどうかと聞かれたら、まだ咀嚼できないことはある。でも人気があって世界的に評価の高いことは知ってる。
ティファニーがビジュアルイメージを刷新してビヨンセ夫妻とティファニーブルーを使ったバスキアのでっかいビジュアルを出した時は「俺らアメリカのジュエラーだから!」という強い主張が見て取れとてもよかった。
つまり、バスキアはアメリカ(主としてニューヨーク)らしさでもある。
いつか見たいとも思っていたが、積極的に見に行くことは考えてなかった。
でも、偶然、バイエラー美術館で出会った。
そのシチュエーションも最高だったし、「ヨーロッパでアメリカのバスキアをたくさん見る」のは、クラクラするほど贅沢だった。
日本からノコノコやってきた人間が偶然それを見た、ということも含めて、最高だった。
自然光が程よく入る展示室。
アメリカのバスキアをヨーロッパで見る。
アートバーゼル開催期間中の大型企画展。
すべてに金がかかっていて、多くの人の尽力があり、この空間があるのがわかる。
最高。
こんな最高な空気はあるだろうか。
ひたすら「空気がおいしい」「空気がおいしい」と連呼するので、案内人が爆笑していた。
こんな美味しい空気を吸える日がくるなんて。
初めてバスキアを見たのがヨーロッパ。
最高。
なんて空気が美味しい。
バイエラー財団美術館はレンゾ・ピアノという銀座のエルメスビルも手掛けた人の建物という事でも有名。小さくまとまった庭も含めてとてもよい。
他にも現代アート系の展示がたくさんあったけど、後で書きます。
常設は、モネの睡蓮の絵を左手の壁にばーんとかけて、真正面に本物の睡蓮が咲く池が見えるガラス壁。
モネも、水色の池にかわいい赤やピンクの花が浮かぶ様子ではなく、後年・晩年の目が不自由になってからの絵をかけるところが、にくい。
わかりやすい睡蓮ではないのだ。
そしてもうひとつ、バイエラーで見たかったのがルソー。
ルソーのジャングルでライオンにかじられている可哀想な変な生き物の絵を楽しみにしていたけど、実物をみたらテンション爆上げ。
「あっ、ほらここにある」と言われてこの絵を指さされて、「きゃーー♡」ってなった。想像の何倍もでっかい!
これは実物じゃないと、わかんない。
この可愛さというか、下手くそ具合の奇跡のバランスというか、ほんとにキュート♡
噛まれてる動物、ちょっと泣いてるし。ちょっとでいいのか?
血ィ出てるのに、もっと泣いた方がよくないか?
もー、とってもかわいい。
あるのは知ってたけど、実物の大きさといい、変さといい、びっくりした。
ほんとかわいかった。
どうしてこんな絵を描いたんだ。全部ヘン!
全然残酷な場面に見えない。かわいい。
Wikipediaにルソーの書いた説明文というか詩が載っていた。
泣いてたのは、カモシカだったの……。嘘つけ。
実物を見ると、印刷や動画は全部ウソだったんだって思う。
人をだまそうとする嘘(間違いや偽物)じゃないんだけど、本物じゃないんだって。
本物を見ると、今まで見ていたものが嘘だとわかってしまう。
嘘も「いずれ本物や真実へつながる」という意味で必要なもので、それをたどってここまで来たのだから、その嘘が大事な事はわかるけど、本物の前にそれらがすべて霞んでいくあの体感は、感動でもあるし、なにかすべてが否定されたような荒んだ気持ちにもなる。
でもそれを覆い尽くすほど、この絵はかわいかったです。
妙な(おそらくは遠近感や写実性という絵画技術の壊滅的下手くそ加減と、「ジャングル行ったことあるし!」と思い込んでいる虚言癖と、それでも何十年も描き込んでいるキャリアからくる変な熟達度との奇跡のマリアージュによる)幻想的な雰囲気と、こんな動物いないよ、でも泣いてるしかわいそう、みたいな妙なキャラ感(ゆるキャラと言ってもいい)が呼び起こす共感性みたいなものと、それらが相まって感じられる物語のような「テクスチャ」とでもいうのでしょうか。
印刷などの100倍、本物はくる。
あまりに私がはしゃいで記念撮影までするから、なんか他の人も乗せられたのか撮影してた。
ヨーロッパのバスキア、本物のルソーのジャングル。
あと庭の水あしらいというか、池の作りが良かったです。睡蓮の池のほか、裏庭は緩やかなすり鉢状で、この妙なうさぎみたいなのがいる池。
口から水出てる。
カエルやネオンブルーの糸トンボなんかが飛び交っていて、芝生のところも小さな花がたくさん咲いている。
よだれをたらすマッチョなうさぎ、のようにみえるけれども。
案内人が「ヨーロッパは本当の贅沢を知っているわけですよ」といい、私はずっと「空気がおいしい」と言っていた。
すぐ裏手は畑というか、牛がいた。
日本だと牛小屋があってこの贅沢美術館があるというのはなかなか考えにくい状況かもなと帰国してから思った。
ちなみにここまでで3日目の1/3くらいです。
この日はとにかく内容が濃かったので、分けて書きます。
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つよく生きていきたい。