首都大学野球連盟から関東地区大学野球選手権に出場する「日本体育大学」「筑波大学」「帝京大学」について

 今年もこの季節がやってきた。
 
 毎年、関東地区にある五つの連盟から秋季リーグ戦の上位2チーム、計10チームが集まって行われるのが「横浜市長杯争奪 関東地区大学野球選手権大会」だ。ただでさえ長い名前だが、この大会で優勝、準優勝したチームは「明治神宮野球大会」へ出場できることから、さらに「明治神宮野球大会出場決定戦」という文字も加わる。
 
 よって、今年のこの大会の正式名称は、
 
横浜市長杯争奪 第20回関東地区大学野球選手権大会 兼 第55回明治神宮野球大会出場決定戦
 
である。声に出して読んでみて欲しい。私は途中で噛んだ。
 
 ちなみに、この大会について話すときは「横浜市長杯」「市長杯」「関東大会」など、人によって使う略称が異なる。私の場合は、相手が使う略称に合わせて会話をするようにしているが、どれを使ってもだいたい伝わるので、好きな略称を使うことをおススメする。
 
 それから、今年は第20回の記念大会ということで、各連盟から出場できるチームが秋季リーグ戦の上位3チームとなり、いつもより多い計15チームで戦うことになる。5日間でトーナメント戦が行われるため、準々決勝は4試合が1日で行われ、準決勝と決勝は同日に行われるという。
 
 出場するみなさんも勝ち進むほどハードな日程になると思うが、全14試合を観戦したい大学野球ファンにとっても、かなりハードな5日間になるだろう。体調管理をしっかりして、楽しく完走して欲しい。
 
 私はこの大会に参加する五連盟の中で、「首都大学野球連盟」のリーグ戦に多く足を運んで取材をしている。今回、首都大学野球連盟からこの大会に出場するのは、秋季リーグ戦で優勝した「日本体育大学」、2位の「筑波大学」、3位の「帝京大学」だ。
 
 この3チームについて少し紹介したい。本当は、リーグ戦に出場した全選手を紹介したい気持ちでいっぱいだが、長くて読みにくくなってしまうのと、書けば書くほど私の気力と体力も削れていき、5日間を乗り切れなくなってしまうので、厳選して数人ずつ紹介する。


日本体育大学(11/5 15:00 関東学院大学戦)

 3年連続8回目の出場となる日体大。昨年秋は、この大会で準優勝し、明治神宮大会に出場。そして、全国ベスト4という成績を残した。今年はそれ以上の景色を見られるか。
 
 投手陣でこの秋一番の功労者と言えば、篠原颯斗投手(3年・池田)だ。2年春から登板しており期待も大きかった篠原だが、故障などもあり今までシーズンを通して投げたことはなかった。夏の投げ込みで速球のコーントロールが磨かれ、スプリットの精度も増して迎えた今季は、全11試合のうち6試合に登板、45回1/3を投げ4勝0敗、防御率0.40という結果を残した。優勝を決めた城西大2回戦では初完投、初完封を成し遂げ、先発投手としての実力を見せつけた。最優秀投手、ベストナインと二冠に輝いた右腕の投球に、ぜひ注目してほしい。
 
 そして、どんな場面もどんとこいの伊藤大稀投手(3年・智辯和歌山)は、この秋の最高殊勲選手となった。184センチの体を大きく使ったダイナミックな投球が持ち味だが、しゃべり方は優しく、繊細そうな印象を受ける。四球が少ないことは強みのひとつ。見ているこちらが心配になるくらい、先発、ロングリリーフ、ものすごくピンチな場面、など毎回違ったシチュエーションで登板しているが、本人はどんな場面でも大丈夫とのこと。強心臓のタフガイが、今大会ではどんな場面で投げるのか楽しみだ。
 
 先日のドラフト会議でオリックスから2位指名を受けた寺西成騎投手(4年・星稜)は、8月にマイコプラズマ肺炎にかかり、その後は指のマメがつぶれるという不運に見舞われ、リーグ戦に出遅れた。復帰後、久しぶりに取材をさせてもらったが、しゃべり方や雰囲気が以前より柔らかく感じ、いい経験を積み重ねているように見えた。150キロ近いストレートと140キロ前後のフォークで三振を取る印象が強い右腕。故障やリハビリでつらい時期も長かったと思うが、大学野球最後のシーズン、最高の置き土産を残していって欲しい。
 
 昨秋の全国ベスト4は、箱山優投手(4年・日体大柏)の粘り強いピッチングなくしてはたどり着けなかった。右肩のうしろに故障を抱えたまま自分の仕事をまっとうした箱山は、冬から春にかけて数ヵ月に渡る調整を余儀なくされ、復帰後も思うような結果は出なかった。だが、この秋のリーグ戦最後の登板は、ここ最近で一番いい内容だったように思う。そのままの状態で今大会を迎えていれば、また力強い投球が見られるだろう。
 
 野手陣に関しては、なかなか得点に結びつかない場面が多く、勝っても1点差、2点差のロースコアゲームという苦しい試合が続いていた。「らしさ」が出たのは最終週の城西大戦だった。もともと層が厚く、レギュラーメンバーの誰かが調子を落としても、調子のいい選手を代わりに抜擢すればその選手が活躍するようなチームなので、うまく繋がれば爆発力もある。初スタメンの角谷飛雅内野手(2年・星稜)が活躍した城西大1回戦では、15安打10得点と打線が大爆発した。
 
 優勝を決めた城西大2回戦では、秋から主将となった黒川怜遠外野手(3年・星稜)が先制の2点本塁打を打ち、これが決勝打となった。黒川はリーグ戦の途中で大腸憩室炎になり一週間の入院を余儀なくされたが、勝てば優勝の城西大戦で復帰。見事に自分のバットで優勝を決めた。バッターボックスに入ってからのルーティーンは、楽天にいる兄・黒川史陽内野手の影響だそうだ。
 
 リーグ戦終盤に四番を打っていた南大輔内野手(4年・花咲徳栄)は、安定した成績を残した。打率.333はリーグ7位、本塁打も1本放ち、指名打者でベストナインにも選ばれた。無駄な力が入っていないスイングで、軽く外野に打球を運ぶ様子を見ていると、打撃センスの良さを感じる。リーグ戦の状態のまま今大会に臨めれば、かなり期待ができる。ちなみに日体大ではもうひとり、鈴木斗偉内野手(2年・山梨学院)が三塁手でベストナインを受賞している。
 
 古城隆利監督も言っていたが、門馬功内野手(3年・東海大相模)と酒井成真外野手(2年・東海大菅生)が本来の力を出せれば、もっと打線が生きてくる。一番から九番まで能力の高い選手ばかりなのに紹介しきれないのは残念だが、今大会でも打線の爆発が見たい。

筑波大学(11/5 12:15 横浜商科大学戦)

 3年連続8回目の出場。筑波大は、春から秋にかけての成長が幅広いチームだ。一般的に言う「スポーツ推薦」で野球部に入れるのは3人ということもあり、それ以外の選手は普通に受験をして(指定校推薦などもあるが)筑波大に入学する。そのため、一浪、二浪して入学した選手もいる。
 
 川村卓監督も「うちは他のチームのように野球の能力の高い選手が多いわけではないので、とにかくみんなで力を合わせて勝たなければなりません」とよく言っている。試合を観ていると、一般入部の中にも高い野球の能力を持っている選手は結構いるように見えるが、確かにチーム全体の強みを挙げるとすれば「野球の能力」というより「考える能力」のような気はする。
 
 先日、岡城快生外野手(3年・岡山一宮)を取材したときも、それを感じた。この記事は岡城の特集ではないので細かくは書かないが、質問に対してわかりやすい説明とプラスアルファの返答までしてくれて、常に頭の中が整理されているのだなと感じた。そんな岡城は身体能力も高い選手で、バネのように打って走って守る。どのプレーも一見の価値ありだが、リーグ戦終盤に打ちまくり、打率をリーグ2位の.405まで上げ、外野手としてベストナインを獲得したバッティングは特に注目してほしい。
 
 スタメンに4年生が少ない中で、主将の永戸涼世内野手(4年・八千代松陰)はよくチームをまとめてきたと思う。印象的だったのは、帝京大1回戦、タイブレークまでもつれた延長10回に打ったサヨナラ打だ。この試合まで1勝4敗で勝ち点がなかった筑波大にとって、苦しい試合を主将の一打で制したことは、とても大きなことだっただろう。その後、勝ちを重ね、結果的にリーグ2位となった。
 
 もうひとり注目選手を挙げようと思ったが、改めて見てみると打撃のいい選手がたくさんいてひとりに決めきれなかった。そこで守備に目を向けてみると、宮澤圭汰内野手(2年・花巻東)が昨秋のこの大会で好守を連発し、スタンドがざわついたことを思い出した。昨秋はエラーもしてしまったが、今大会も思い切りのいいプレーを見せてスタンドを沸かせてほしい。
 
 また、筑波大は打順の組み替えが多いチームなので、今大会どんな打順を組んでくるかは予想ができない。楽しみのひとつとしたい。
 
 投手では、友廣陸投手(1年・北陸)が柱のひとりだ。リーグ戦では7試合45回1/3を投げて、防御率1.79という成績。変化球が多彩で、コントロールも良い。一年生とは思えないほどの落ち着きで、淡々と投げ込む。川村監督は「一年生にあまり負担はかけたくないんですけど……」と言うが、これだけ安定した投球をしていれば頼らざるを得ないだろう。今大会も期待したい。
 
 もうひとりの柱は、一井日向汰投手(4年・武蔵野北)だ。春は先発だったが、秋は主にリリーフでチームに貢献した。春以上に投球内容が良くなり、さらに頼れる投手となった。11試合32回1/3で防御率は1.11、リーグ2位の成績だ。この秋は取材機会がなく、夏にどんな練習をしてきたのか気になるところだが聞けていない。今大会は先発するのか、リリーフなのか。
 
 そして、現状が気になるのは国本航河投手(3年・名古屋)だ。この投手が最高のパフォーマンスができれば、筑波大はもっと上を目指せる。昨年155キロを計測して話題になったが、能力が高すぎて今の体がそれについていけず、故障をしてしまうことがあるという。まだ線が細い印象ではあるが、トレーニングでいい方向にいっているとのことで、思う存分能力を発揮できる日が来ることを願っている。今大会、国本が投げるのかにも注目したい。
 
 昨秋は、準々決勝で上武大に惜しくも1点差で負けてしまったが、今年はそこを越えていきたい。

帝京大学(11/6 12:15 白鷗大学戦)

 10年ぶり4回目の出場。リーグ戦、最後の最後に東海大に勝ち、今大会の出場を決めた。
 
 春は2部から1部に昇格して即優勝という、首都大学野球リーグ初の偉業を達成した。ディフェンディングチャンピオンとして迎えた秋のリーグ戦は、まさかの連敗スタートだったが、それでも粘り強く戦い続けた。唐澤良一監督は、選手一人ひとりのことをよく把握している。
 
 多くの試合で一番を任せていた島野圭太内野手(3年・履正社)に関しては、練習への取り組みや野球勘の良さなどを評価しており、試合中の島野のプレーには信頼を置く。この秋、そんな島野がホームスチールを成功させた。データ班が収集した相手投手のデータ、三塁コーチの後押し、いろいろな要素があってのことだが、島野は練習したこともない、もちろん試合でもしたことのないホームスチールを決め、それが決勝点となり帝京大は桜美林大に勝った。トーナメント戦では、勝負をかけなければいけない場面も出てくる。島野の野球勘は発揮されるのか。
 
 春の首位打者である彦坂藍斗外野手(3年・享栄)の打撃が、リーグ戦終盤に上向いてきたことも、今大会に向けて明るい材料だろう。この秋はヒットが出ない試合もあったが、四球で多く出塁していたところはさすがだ。だが、やはり彦坂にはフェンス直撃の長打が似合う。横浜スタジアムで暴れて欲しいところだ。
 
 中山鳳外野手(1年・宇都宮工)の足は、ぜひ見て欲しい。細かいタイムなどは把握していないが、見ただけで速いのがわかる。リーグ最終戦で打った中前適時打以外、中山が打ったすべてのヒットが内野安打だったのも面白い。今季遊撃手として出場していた宮城塁内野手(3年・山口桜ケ丘)は、打率.355でリーグ5位、池田竜己捕手(3年・宇部鴻城)は捕手でベストナインを取った。1イニングにまとめて大量得点を取ることがよくあるのも、帝京大の特徴かもしれない。
 
 投手の柱はまちがいなく榮龍騰投手(4年・津田学園)だ。春のリーグ戦は最優秀殊勲選手と最優秀投手の二冠、大学選手権の関西学院大戦では8回3失点10奪三振と好投した。この秋も日体大を完封した榮だったが、打ち込まれた試合もあり、結果的に防御率は3.30だった。それでももちろん、リーグを代表する左腕のひとりであることは間違いない。榮といえばスライダーのイメージが強いが、どの球種でもストライクが取れる。相当調子が悪くない限り、安心して見ていられる安定感も武器のひとつだろう。
 
 久野陽真投手(3年・岡山学芸館)、功刀聖人投手(3年・宇都宮工)など、帝京大にはいい投手が多くいるが、気になるのは左腕の宮田率生投手(3年・和歌山商)だ。春はリーグ戦で登板せずにいきなり大学選手権の準々決勝で先発登板、その前の登板は確か昨秋、2部で優勝したあとに行われた明治学院大との入替戦だったと思う。そして、今季は最終カードの東海大戦で先発し、6回無失点の好投。いつも突然現れる宮田が気になって仕方ない。しかもこの秋はストレートが140キロ中盤と、以前より速くなっている気がする。まだ取材をさせてもらったことがないので謎の多い投手だが、今大会で登板するかどうか注目したい。
 
 
 以上、首都大学野球連盟から関東大会に出場する3チームのご紹介でした。
 
 それではみなさん、ハマスタでお会いしましょう!

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