The Who「Tommy」(1969)
この作品が今から50年以上前の1969年の作品ということに驚いてしまいます。60年代後半から70年代にかけて、ロックは急速に変化を遂げ、多様化していきます。そしてザ・フーもその音楽を様式美化させ、ロックオペラであるトミーを完成させるのです。
当時はザ・フーはどう思われていたのでしょう。モッズを代表する荒くれモノといったイメージだったのでしょうか? しかしこのトミーは他のバンドとは明らかに一線を画す内容となってます。好き嫌いは別にして、多くの形式的な音楽評論家連中も唸らせたのではないでしょうか。
そういう私もこのトミーはちょっと苦手だった時期もあります。もっとハードなザ・フーであってほしい、様式美など追求しないでほしい・・・。でもこれらの楽曲も、ライヴでは物凄くハードに演奏してますし、よく聴くと1曲1曲のクオリティが高いんですよね。それから意外とポップ。やはりピートの作曲能力恐るべし、といったところでしょう。
本作はピート・タウンゼンドが幼少時代の経験をベースに組み立てたもので、1975年には映画化もされてます。
如何にもロックオペラのオープニング風な①「Overture」は、後に出てくるそれぞれのメロディを組み合わせたようなナンバーで、素晴らしいメロディが溢れ出てくるような感じです。ピートのギターって本当に多彩ですね。
私が大好きなナンバーは⑤「Sparks」。
スタジオ録音ではサイケなギターの逆回転らしきサウンドがトリップ感を煽ります。ヘビーな、如何にもフーらしいインストナンバー。このライブ映像をアップしておきますが、ライブではピートは相変わらず腕をグルグル回してますし、ギターを後ろで弾いたり、暴れまくってます。
そしてそれを上回るパワーを発揮しているのがキースのドラム。彼のこのライブのドラムセットにはハイハットがありません(多分)。ハイハットのような小さい音でリズムを刻む概念が彼にはなかったのでしょうね。それにしてもスゴイパワーのドラムです。
⑦「Christmas」もいいですね。
スタジオ録音では可愛らしいコーラスが入ってますが、ライブではそんなヤワなものはカットされ、キースがひたすらヘビーなバスドラを叩いてます。
ピートのヘタウマ・ヴォーカルもかっこいい!
⑪「Do You Think It's Alright?」や⑭「There's a Doctor」等、随所に織り込まれた小作品はビートルズっぽいポップスで、またエンディング前の1曲「Tommy's Holiday Camp」はキースが歌っている風変わりな曲。これらも捨てがたい(笑)。
「Tommy's Holiday Camp」ではなんとライブ映像がありました。これもライブでやるとは・・・。
本作中、一番有名な曲は⑬「Pinball Wizard」でしょう。これはスリリングでかっこいい名曲。これこそライブ向きな1曲でしょうね。何の説明も不要でしょう。
本作、最後の「We're Not Gonna Take It」はエイティーズファンはTwisted Sisterのヒット曲を連想してしまうタイトルですが、もちろん同名異曲です。
最後までポップですね。
60年代に発表されたとは思えないほど、今聴いても新鮮な一枚。そしてピートの素晴らしきメロディメーカー振りにあらためて驚かされました。