れいゆ大學⑧ 《放課後》鷲巣巌は赤木しげるに会えたのか?
※この大學は、数奇な運命を生きてきた《れいゆ》が、世界を読み解き、ゆかいな光を放つ、ほんとうの大學(小学校の可能性あり)です。
れいゆ大學⑧ 《放課後》鷲巣巌は赤木しげるに会えたのか?
福本伸行の「アカギ 〜闇に降り立った天才〜」は、赤木しげるという無頼の天才、伝説の博徒の13歳から20歳までの戦歴が描かれた、心理描写やユーモアにおいて突出した漫画である。物語の途中までが深夜テレビアニメにもなった。
彼はもともと、同じく福本伸行の漫画である「天 〜天和通りの快男児」の登場人物であり、そちらでは歳をとり闇世界に君臨したあとの姿が描かれる。
何人かとの勝負のあと、鷲巣巌という怪人が赤木しげるの宿敵として登場する。
鷲巣巌。
戦前には警察官僚で、日本が敗戦したとき刑罰を受けることを見通し、警察を辞職。自己の損得のために冷静さと狡猾さを遺憾無く発揮。戦時中に国家権力の側の、しかも上層部にいながら、そのような行動を取った者はなかなかいない。
戦後には当時は草分けであったコンサルタント会社を設立し、かつての政治家や経済人などのコネクションや裏情報を武器に、複数の企業の相談役で莫大な富を得ていく。
しかし、彼は満ち足りなかった。
彼はいわゆる実在のフィクサーや隠居人たちのように、家庭を持ってはいない。愛人もいなければ色事もしない。自民党の相談役でもなければ、慈善事業にも関わらない。
着物を着て盆栽でも愛でているような身分のはずだが、彼の服装といったらまるで王家の衣装のようなオーダーメイドの詰襟である。髪もフサフサであり、血気盛んで禍々しい。
彼は社会的な成功者なのに、何も持っていないのだ。
彼が行き着いたのは、勝負相手から血液を抜く殺人麻雀だった。
何人もの若い博徒を秘密裡に殺めていき、部下に命じて、人目につきづらい場所に埋めさせる。スリルを感じているのだ。
他者の命を使ったリストカット!
自己肯定感は永久に得られない!
どんなに政財界に威光を放つ権力者で、元警察官僚であっても、人殺しを何度もしていたら、司法の手からは逃れられない。
海外に逃亡する手立てができた頃、懲りない鷲巣巌は最後のひと勝負をする。その相手が赤木しげるだった。
無我の境地のアカギと、自我にまみれたワシヅ。
何もかも違う二人なのに、赤木は好き嫌いや善悪を超えた神の目で、鷲巣という鬼を見つめる。
赤木は言う。お前と俺は似ている、と。
赤木は生死の極限に置かれながら、生きている実感を生まれて初めて得られたことを、鷲巣に感謝さえする。
そして、赤木に最大限の嫉妬を燃やす鷲巣。
普通、嫉妬というのは第三者にすることが多いが、自己愛が肥大した鷲巣は、目の前の赤木に嫉妬する。
脳科学者、心理カウンセラーらは言う。
自己犠牲タイプと自己愛タイプは惹かれ合うが、自己犠牲タイプが物理的に傷つき、自己愛タイプは一方的な執着しかできない。だから自己犠牲タイプは自己愛タイプから離れるべきだと。
ナザレのイエスをイスカリオテのユダが執着の中で裏切った2000年前よりも、さらに構造は複雑になっている。
プロテストソングと自意識を歌う中川五郎が、高田渡に対して抱く感情は自己愛に過ぎないが、高田渡もまた自身への執着を喜んでしまった。高田渡の無我への孤高なる想いに対して、周りの一部の連中は甘えていたのだ。
あるいは、大森靖子の「さっちゃんのセクシーカレー」に対して、平賀さち枝が「せいこちゃんのエゴイスティックグラタン」という歌を歌っていたら何が起こっていたのか。
しかし、鷲巣は赤木に恋をしている。
鷲巣は権力者の隠居なのに、家庭も待たず、色っぽい遊びも知らない。子分を従え、若者相手に殺人麻雀をしている。
赤木の空虚さとは異質だが、鷲巣もまた空虚である。
無一物で傷だらけの赤木に対して、物質的な恵みを享受してもなおグ〜キュルル〜と腹を空かした鷲巣!
鷲巣は赤木に顔を赤らめて嫉妬し、赤木は鷲巣と会って生きている実感を得た。
それは危険な恋。
勝負のルール上は赤木が勝ち、しかし報酬である鷲巣の莫大な札束を赤木は受け取らず去っていく。
意識不明から舞い戻った鷲巣は、そのような赤木の振る舞いを知って激昂し、興奮。海外逃亡をやめ、部下たちを引き連れ、さすらう赤木を探す旅に出る。
石川県は御川。やくざの賭場でのひと悶着。赤木がその地を立ち去ったあと、一足遅れで鷲巣は現れる。
鷲巣はやくざたちに対して啖呵を切る。そのとき初めて、赤木への好意をそのままの言葉で露骨に見せるのだった。赤木を殺していいのは私だけ。
赤木もまた、あんな奴はもうこりごりと言いながら、その日の宿として何となく降りた駅が鷲巣ヶ谷駅という名前だった。
《温泉に浸かっている鷲巣》を想像してしまう赤木しげる。そして「アカギ」は終了する。
1968年、昭和43年。学生運動とアングラ文化。ザ・フォーク・クルセダーズの「帰ってきたヨッパライ」が流れていた頃、ある闇世界の物語は幕を閉じた。
では、そのあと、鷲巣巌は赤木しげるに会えたのか??
その後の鷲巣年表
1970年3月15日。大阪万博が開幕。鷲巣、太陽の塔によじのぼって、愛を叫ぶ。(cv: 古谷徹)
1970年11月25日。三島事件が起きる。鷲巣、三島由紀夫を自分に少し似ていると感じつつも、興味は示さず。(cv: 古谷徹)
1973年6月14日。渋谷パルコが開店。鷲巣、パルコの前で愛を叫ぶ。(cv: 古谷徹)
1976年9月21日。「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が連載開始。鷲巣、著作権の買い取りに失敗。(cv: 古谷徹)
1977年12月21日。デイリーヤマザキが創業。鷲巣、買収に失敗。(cv: 古谷徹)
1979年4月7日。「機動戦士ガンダム」が放送開始。鷲巣、テレビに釘付けになる。(cv: 古谷徹)
「はは〜ん、どこかで聞いたような声じゃのう〜」(cv: 津嘉山正種)
そして、80年代へ…。
まだ会えていない!
おしまい♡
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