シンガポールに帰りたい #1
「会いたい人に会いに行くといいよ。」
約2ヶ月間の有休消化期間を前にした私に、苦手だった元上司が言った。その言葉は、ぼーっと生きてきた私を強く突き動かした。
8年間勤めていた会社を、私は辞めることにしていた。多分、そんなにめちゃくちゃには悪い会社ではなかったけど、会社のやり方についていけず、どんどんしんどくなっていった。心はどんどんズタボロに。
「ここにずっといる将来がイメージできない」と、ついに辞めることした。
私の業務の引き継ぎは、私よりも業務年数の長い人へ。あれこれ伝えることも多くなく、淡々と残り少ない勤務期間をこなしていた。
8年間って、あっという間だったし、あっけないなぁなんて思いながら、これからどう生きていくかをぼーっと考えていた。
会社を辞めるにあたって、社長やお世話になった人、仲が良かった人達と、会ったり飲みに行く機会がたくさんあった。そんな時間をとってくれる人がいることは、本当に幸せだったし、感謝しかなかった。
そんな中、4年程お世話になった元上司と会った。
悪い人ではないんだけれども、私の中でどうしても苦手意識が取れない人だった。理解できないことが多くて、部下だった頃はとても苦労したのを覚えている。
彼は、「有休消化の間は、何するの?」と言った。
「結構時間あるので、のんびりしますかねぇ。次の仕事も考えないといけないし・・」とか、当たり障りない返答をしたら、彼は言った。
「せっかくたくさん時間があるんだからさ、会いたい人に会いにいくといいよ。こんなにまとまった時間ってそうそうないし!絶対、その方がいい!」
すごく、熱い口調で力説した。普段から熱くて、正直暑苦しいなぁと思っていたけど、この時は何故か、その熱さが私の心に響いてきた。
ずっと仕事ばかりしていて、確かに会いたい人には会ってこなかった。数少ない友達は、遠くにいて会いにいく時間がなかったし、地元の友達でさえ会う時間を作っていなかった。みんな、私のことを覚えているのかな、なんて思うくらい。
「会いたい人か・・・・あ、あの子・・・」
ふと、私の頭に浮かんできたのは、シンガポール人の友人・Sallyのことだった。