カルロス・サインツとフェルナンド・アロンソ
わたしがモータースポーツを観始めた頃から現役で活躍しているドライバーが何人かいる。当時若手だったドライバーは20年後も40代なのでわからなくもないが、その頃からベテランと呼ばれていたドライバーが現在も現役だったりすると、時の流れがよくわからなくなるのだ。
WRCのセバスチャン・ローブ、DTMのマティアス・エクストロームは分野こそ変わったものの、現在も現役でトップクラスを走っている。特にWRCで9度ドライバーズタイトルを獲得したセバスチャン・ローブはWRCにスポット参戦をすると、今でも現役ドライバーたちに負けないスピードを見せ、たまに優勝してしまうから凄い。2022年のモンテカルロはセバスチャン・オジェのトラブルがあったとはいえ、新規定のマシンをいきなり乗りこなしてしまった。
そんなセバスチャン・ローブを育てたともいえるドライバーが、カルロス・サインツである。“エル・マタドール(闘牛士)”の愛称で知られるスペイン人だ。WRCでは1990年と1992年に2度ドライバーズタイトルを獲得したうえに、ダカール・ラリーで4度総合優勝を飾った。なお、WRCは2004年に引退したが、還暦を越えた現在もラリードライバーとしては現役である。
サインツはスペシャリストたちの時代を過去のものにした。かつてのWRCのトップドライバーたちは、グラベル(未舗装路)のスペシャリスト、ターマック(舗装路)のスペシャリスト、スノーのスペシャリストのように、それぞれの強みを持つドライバーが多かった。だからこそ、ワークスドライバーたちの他に、路面ごとのスペシャリストが起用されていたのである。だが、サインツはどの路面でも速かった。カルロス・サインツが登場した後、トミ・マキネン、セバスチャン・ローブ、セバスチャン・オジェらのように、オールラウンダーたちの時代が到来した。
サインツはトヨタ、スバル、フォードでワークスドライバーとして活躍した後、シトロエンへ移籍。2003年にセバスチャン・ローブとチームメイトになり、最初はターマックにすこぶる強かったローブとシトロエン・クサラを歴代最強のドライバーとマシンに育て上げた。その後のローブの活躍は前述の通りである。
2004年にサインツがWRCの現役を引退した後、F1にスペイン人の新星が現れた。2005年、2006年のF1世界チャンピオン、フェルナンド・アロンソだ。
2001年にミナルディからデビューし、ルノー時代にはあのミハエル・シューマッハを直接対決で倒した。マクラーレン、フェラーリ、アストンマーティンと渡り歩き、現在も現役F1ドライバーとして一線級の力を持ち続けている。アロンソの凄さはサーキットであればどんなカテゴリーにおいても一定以上のパフォーマンスを発揮できるところで、F1の他に、ル・マン24時間レースでも優勝している。
サインツとアロンソの共通点は、なんといっても「勝利への渇望」だ。
勝つためにはなんだってする、ドライバーとしてマシンに乗り続けている限りは、0.01秒でも速く走るために最善を尽くす、目の前のドライバーには絶対に負けない。サインツのセッティングへのこだわりはもはや伝説になっているが、2021年のハンガリーでルイス・ハミルトンを何十周にわたってブロックし続けた時のように、アロンソの衰えない闘争心も同じく伝説といえるだろう。
この二人のベテランが第一線で走り続けるからこそ、よりモータースポーツがおもしろくなる。
アロンソは2026年までアストンマーティンと契約を更新し、マクラーレン時代以来となるホンダとタッグを組む。サインツはおそらく身体が動く限りは現役を続けるはずだ。
わたしは若手ドライバーたちも大好きだが、やはりベテランの円熟味にも同じように注目していきたいと考えている。なんといっても、経験に裏打ちされた安定感と、若手時代からなんら変わらない情熱は最大の魅力であるし、すべての人々にとっての手本といえる存在だから。
ふたりは、今も表彰台の中央に登る姿が本当に似合うのだ。
2024.4.13
坂岡 優
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