マット・マートンから始まる夢
2009年末、赤星憲広さんが怪我の影響で引退を発表した時、「来年の阪神タイガースは誰がセンターを守るんだろうなあ……」と子どもながらに漠然と不安を感じていました。浅井選手か、平野選手か、もしくは新人や若手選手の誰かになるのかと、野球ゲームを遊びながら色々と考えたものです。
たしか、年明けどころか、すぐでしたよね。ロッキーズ傘下でプレイしていたマット・マートン選手の獲得が発表されたのは。
当時、阪神タイガースは毎年のように右打ちの外野手を補強していました。ニューヨーク・ヤンキースから獲得したシェーン・スペンサー選手に始まり、ルー・フォード選手、ケビン・メンチ選手と、推定年俸1億円から2億円くらいの、メジャーでそこそこ実績のある選手がやってきては帰国を繰り返していたのです。
特にフォード選手とメンチ選手はすぐにスタメンから外れ、いつの間にか一軍のベンチからもいなくなっていたこともあり、正直、マートン選手も最初は危険な香りがしていました。子どもながらに、「この選手はそもそも打ってくれるのだろうか……」「センターが守れるような良い選手が来てくれるのだろうか……」と不安を抱いていたわけです。(赤星さんがあまりにも偉大過ぎたのもありますよね)
ただ、シーズンが始まると、打つわ打つわ。2015年に秋山選手が更新するまでは歴代最多となる214安打を記録し、不安だったセンターの守備もそつなくこなす、まさに阪神タイガースの補強ポイントをがっちりと埋める選手がそこにはいました。真面目ですし、打てなくなってもすぐに打つようになりましたし、とんでもない選手が来たとワクワクしました。
2010年は打撃陣がとにかく強力だったので、平野恵一選手とともに、一番と二番で高い出塁率を持っていることが本当に心強かったんです。鳥谷敬選手に繋げば、走者のいる状態でホームランが期待できる選手に回せていましたから。投手力や守備陣に不安があり、あと少しのところで優勝できなかったのが残念でしたが、マートン選手をリード・オフ・マンに据えた強力打撃陣には夢を見ました。
2000年代後半の阪神のバッターで活躍した助っ人でいえば、アンディ・シーツ選手、クレイグ・ブラゼル選手がいますが、彼らはそれぞれ広島、西武に所属していた経験があるので、新しく獲得した選手でここまで活躍するのはそれこそトーマス・オマリー選手以来だったのではないでしょうか。
翌年以降はレフトやライトを守ることが多くなり、意外と気性が荒い点や危険なスライディングなどが問題視されたこともありましたが、複数年にわたって活躍してくれましたし、同じ年に加入したランディ・メッセンジャー選手と並んで、ファンの人気や信頼は絶大でした。特に2014年は助っ人選手たちが全員絶好調という凄まじい年でした。
高年俸を理由に2015年末に退団し、その後はアメリカで自身の活動を続けていますが、来日する度に話題になり、人気YouTuberの動画に出演するなど、今でも人気は健在です。
最近はメジャーからやってきた実績のある選手や、プロスペクトと呼ばれる将来を期待された選手でも活躍が難しく、中日ドラゴンズのドミニカ人選手の獲得や複数球団によるキューバ人選手の発掘などを発端に、オリックス・バファローズのレアンドロ・セデーニョ選手のように20代前半の選手を獲得する流れも生まれつつあり、助っ人選手の事情もかつてとは変わってきているそう。
マートン選手はシカゴ・カブスですでにある程度実績のあった選手でしたが、これからはヨーロッパやアフリカなど、今までにない市場から一芸に長けた選手をじっくり育てることが当たり前の時代になるかもしれませんね。
個人的には、2010年は横浜ベイスターズが独立リーグから獲得したブレッド・ハーパー選手の活躍が忘れられません。
2023.8.4
坂岡 優