10度目の優勝 〜 ふたりの“セブ”の時代
93回目となったラリー・モンテカルロはセバスチャン・オジェの優勝で幕を下ろしました。
今季からヒョンデへ移籍したアドリアン・フルモーも移籍初戦で3位表彰台と頑張りましたが、オジェの強さはやはり別格でした。同じトヨタではエルフィン・エバンスが2位表彰台と奮戦しましたが、勝田貴元、サミ・パヤリの両選手は残念な結果に終わってしまいました。
2022年にラリー1規定が始まった時もフォード・プーマ ラリー1でセバスチャン・ローブが勝利し、当時47歳ながらもその年からパートタイム参戦となったオジェとともに現役ドライバーたちをかき回す姿が衝撃を与えましたが、2度もこの分厚すぎる壁を破ったティエリー・ヌービルを除くと、このセバスチャンたちの強さは揺るぎません。
オジェが引退し、オット・タナック、カッレ・ロバンペラ、ティエリー・ヌービルがチャンピオンになった今、選手権のセバスチャン時代は一応の終わりを迎えましたが、ラリー・モンテカルロに限っては、まだまだ終わりが来る気配すらなく、この先もしばらくはヌービルを挟みながら、続いていきそうな予感さえします。セバスチャン時代が終わった後も、60代になったローブがしれっと勝っても驚きませんし、オジェは仮にフル参戦をしたら未だにチャンピオン候補の最右翼ですから、彼らの実力がいかに同世代の強者たちと比較してもずば抜けているかを証明していますよね。
というよりも、素人がゲームで恐る恐る走ってもミスするほどに難しい雪と凍結のコンディションを、あたかも当たり前のように駆け抜けてしまうふたりはあまりにも凄すぎます。言うまでもなく、他のラリードライバーたちも化け物なんですよ。みなさんが普段はスタッドレスタイヤを装着して丁寧に走る道を、時には100キロを超えるスピードで駆け抜けていく。今日の勝田さんのように、ひとつのミスが命取りになりますし、スピードを怖がっているようだと勝負になりません。ラリーって、そんな競技。そういったプロフェッショナルたちの中でも、きちんと得意と不得意があって、わりと大きな差が開くのもおもしろいのです。
今季のプログラムが発表されていないダニ・ソルド、アンドレアス・ミケルセンもラリーを観始めた頃から活躍している選手たちですが、ずっと追いかけてきた選手が今も最前線で活躍していると、「わたしも頑張らなきゃ!」と奮い立たされますね。F1もフェルナンド・アロンソが45歳を目前に奮闘していますが、ラリー界でもベテランたちが存在感を示し続けています。
ここ最近はどのカテゴリーでも若手ドライバーたちが台頭し、世代交代が続いています。それでも、やっぱりベテランたちの存在は選手権を面白くしますし、オジェやローブに限らず、ジル・パニッツィやジャンフランコ・クニコのような特定のイベントやコンディションで「地元のスペシャリスト!」みたいなドライバーが颯爽と上位を走る光景は堪らないものがあります。
話が逸れましたが、10年間トップカテゴリーで走り続けること自体が偉業なのに、シトロエン、フォルクスワーゲン、フォード、トヨタと各チームを渡り歩きながら8回もドライバーズタイトルを獲得し、同じラリーで10回も勝ってしまうセバスチャン・オジェという鬼才。そんな彼が、今後も優勝争いに絡み、「パートタイムなのにチャンピオン」という異様な光景が生まれることを、わたしは願ったり、願わなかったりしているわけです。(願わないのは現役ドライバーたちのため……)
今年もWRCの季節がやってきました。わたしのラリー熱がかつてないほど高まっている今、コロナ禍で一度は断念したフィンランド遠征にチャレンジするため、ちょっとずつ準備を進めていこうと思っています。
2025.1.27
坂岡 優