オレグラッセを夜にこぼして
閉園まであと1時間足らずのテーマパークの夜空いっぱいに花が咲いていた。
お気に入りのワンピースを着て、いつものように大好きな彼のお家までの道、散っていった花火から道中へと視線をうつすと、前にいた二人組の女性が声をかけてくれた。
どうやら売り切れてしまったカチューシャに気づいたようで、実物が見れたと楽しそうだ。
そのカチューシャに合わせてきたんやね、と私のワンピースに気づいた彼女が関西訛りの声音で話す。
胸元を縁取ったフリルと真ん中で結んだリボン。可愛らしいわ、と、買ったばかりのワンピースのそれらを褒められたのが嬉しくて、私もついつい話が弾む。
歳上だろう彼女達の話は楽しくて、会いたかった彼に会えたのを嬉しそうにしているのを見て、私も嬉しくなった。
その日、彼女と連絡先を交換して、足早に帰っていく後ろ姿を見送った。
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あっという間に季節が過ぎて、浴衣でいるのも寒くなってきた夏の終わり。私は彼女とお気に入りのレストランで向かい合っていた。
彼女にとって久しぶりのテーマパークなのに、あいにくの曇り空、それでも会うと私の名を呼んで駆け寄ってきてくれた。
近況報告をしながら、私は彼女に白い袋を渡した。赤いリボンを結び、リボンにはあの日彼女が褒めてくれた、私の大好きなブランドのお店のタグ。
彼女は驚きながら、ゆっくりとリボンをほどき、中のワンピースを取り出した。
私は気に入ってくれているのかと緊張の思いを必死に隠しながら、彼女にひとつだけお願いをした。
「明日、一緒に色違いで着て、パークで写真撮りましょう……!」
彼女が照れながらも微笑んで頷いた。
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彼女が褒めてくれたワンピースがクローゼットからひさしぶりに顔を出した。
出会ってから3年過ぎた秋の始まり。まだ太陽が主役を陣取り、なかなか長袖を着るには早いかもしれない。
それでもその隣にかかったワンピースが太陽に負けずと背中を押す。胸元を縁取ったフリルと真ん中で結んだリボンは同じなのに、柔らかい雲がかかった夜空を切り取ったワンピース。ワイン色した長袖のそれとは違い、半袖をしたワンピースは大人っぽさを主張する。
世間では国内でも行き来が難しく生きにくくなった世界で、彼女ともなかなか会えていなかった。それでも、久しぶりに連絡をとる口実には十分ではないか。
スマホからメッセージツールを開き、久しぶりに彼女にメッセージを送った。そこには、2着並んだワンピースの写真を添えられていた。