仕事の達人から学ぶ。【稲盛和夫】京セラ名誉会長
日本を代表する経営者。
昭和34年、27歳の時に京セラを設立。
その後KDDIを創業し、4.9兆円を超える大企業に育て上げ、倒産したJALの会長に就任すると、僅か2年8ヶ月で再上場へと導く。
中小企業経営者の勉強会「盛和塾」の塾長を務め、1万2000人以上の経営者から師と仰がれている。
そして、日本発の国際賞「京都賞」を52歳のときに創設し、人類社会に多大な貢献をもたらした人物の顕彰を続けている。
稲盛さんの多岐にわたる活動に通底しているもの。それは「利他の心」。
地元の鹿児島大学卒業後、松風工業という碍子を製造する会社に入社。
毎月のように給料は一週間ほど遅れる、赤字会社だった。
最初の頃は不満をもって働いていて、辞めたいと自衛隊の試験を受けたことも。
そして合格。
だが、入隊手続きをするための戸籍謄本を実家の兄が送らず「ようやく入れてもらった会社なのに、何のご恩返しもしないで半年で辞めるとは何事か」と、反対してくれた。
稲盛さんはその兄がいたからこそ、今日の自分があると言っている。
自衛隊に行くのをあきらめてからは、自分の逆境を悲観することなく、たった一度しかない貴重な人生をとにかく必死に生きていこうと思い直し、配属された研究室で、何とか松風工業を再建するために努力した。
一生懸命、研究に没頭していくと徐々に仕事が楽しくなって研究漬けの生活に。
そして、新しいファインセラミックスの開発に成功し、入社から1年半後には松下電子工業のテレビの部品に使われる。
「自分は素晴らしい会社で素晴らしい仕事をしているんだと、無理にでも思うようにし、脇目も振らず必死に研究に邁進したことで、仕事を好きになり、会社を好きになっていきました。それが一般的には不可能と思えるようなことをできるようになったベースだと思います。
自分が望んでいる道を選ぶことができなかった人がいたとしても、いまある目の前の仕事に脇目も振らず、全身全霊を懸けることによって、必ずや新しい世界が展開していくことを理解してほしい。
ですから、不平不満を漏らさず、いま自分がやらなければならない仕事に一生懸命打ち込んでいただきたい。それが人生を輝かしいものにしていく唯一の方法と言っても過言ではありません。」
そんな稲盛さん、松風工業を辞め京セラを設立することになったのは、それまで何かと面倒を見てくれていた上司の青山さんが新社長と馬が合わず、閑職に追いやられ、代わりにセラミックについて何もご存じない方が新しく技術部長に着任したことが一つの引き金だったと。
稲盛さんが新しい依頼を受け一生懸命向きあい四苦八苦しているところに新任の技術部長から、「それは君では無理だよ。うちには京都大学を出た優秀な技術屋がいくらでもいるんだから、君は手を引け」と言われ、大変プライドを傷つけられたことがあり
「どうぞそうしてください。私はきょう限りで辞めますから」と会社を辞めることに。
沢山の方に引き止められたそうですが
後に稲盛さんを可愛がっていた青山さんが知人のところに「優秀な稲盛くんが会社を辞めたいと言っているんだけども、もったいないので、お金を出して会社をつくってくれないか」と頼んでくださり、京セラができたそうです。
◆稲盛さんの人生観
「人のため世のために尽くすことが、人間としての最高の行為である」
『京都賞』ができた理由は、ここからきているようです。
「今日まで私を育んでくれた社会のためにご恩返しをしたい。」
「人知れず努力を払い、人類の科学・文明・精神的深化の面で著しく貢献した人を顕彰する賞が少なかった。そのような方々を讃えることで、人類社会の発展に少しでも貢献したい。」
そのような思いから始めたとのこと。
京都賞の理念の中に、「京都賞を受賞される資格者は、謙虚にして人一倍の努力を払い、道を究める努力をし、己を知り、そのため偉大なものに対し敬虔なる心を持ち合わせる人でなければなりません」という一文がある。
一道をひたむきに歩んでこられた人の言葉は万人の心に響くものがあると。
京都賞を受賞された方々のお話しにも触れてみたいなと思いました。
◆受賞者に共通する点
「皆さん一様におっしゃるのは、画期的な発明や発見に至るプロセスにおいて、人知れず努力を重ねているさなか、あるいはふと急速をとっている時や寝ている夢の中で、まるで神様の啓示の如く、創造的な閃きを与えられる瞬間があるということ。
この宇宙には知恵の蔵、真理の蔵というものがあって、純粋な情熱を傾けて一心不乱に取り組むその真摯な努力に対して、神様は知恵の蔵の扉を開き、一筋の光明が差すように、困難や障害を克服するヒントを授けてくれるのではないかと思います。」
◆働くことの大切さ
「働くということは、生きていく糧を得るためのものだというのが一般的ですけれども。そうではなくて、自分の人間性を高めていくためになくてはならないもの」
◆人生で一番大事なもの
「一つは、どんな環境にあろうとも真面目に一生懸命生きること。
もう一つは、人間は常に『自分がよくなりたい』という思いを本能として持っていますけれども、やはり利他の心、皆を幸せにしてあげたいということを強く自分に意識して、それを心の中に描いて生きていくこと。」