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2025年、知っておくべきサステナビリティ①:ミレニアル世代+Z世代が生産人口の過半数に
ミレニアル世代+Z世代が過半数に躍り出る
2025年、日本の生産人口の過半を、また、世界の生産人口の75%をミレニアル世代+Z世代が占めるようになる、と予測されてきましたが、いよいよその2025年の幕が開けました。
(注:MRI, 2020, "「ミレニアル世代」が変える働くことの意味 "、Workers Report, 2020, "日本のミレニアル世代・Z世代が持つ「仕事・働き方」の価値観5つ"、出雲 充, 2020, サステイナブルな資本主義を実現する、若者・ミレニアル世代、など)
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新しい価値観をもつミレニアル世代とZ世代が、購買力・購買意欲の高いセグメントの過半数を日本でも占めるようになります。世界では、過半数どころか75%。オールド世代が支配的だったビジネスが、新しい価値観に適応し続けることができるのか、私たちの適応力が試される時代が幕開けします。
サステナビリティだから売れる、ということはない
ミレニアル世代とZ世代はサステナビリティに関心が高く、企業はサステナビリティに対応しなくては、新しい市場を取り逃す、というような主張も多くみられます。確かに、調査を行ってみると、多くの調査で、ミレニアル世代とZ世代がサステナビリティにより高い関心を示しているという結果が見られます。
しかし、だからといって彼らが、「サステナブルな商品だったら無条件に買う」という訳ではありません。サステナビリティに関心が高くても、手間がかかったり、めんどくさいと感じるようなことを、「環境・社会のため」にやり続けることができる人はごく一握りです。
例えば、ここ数年、使用済みの空ボトル、衣服、歯ブラシなど日用品を回収し、リサイクルする、サーキュラー化のパイロットプロジェクトを多くの企業が実施しています。しかし、数年たって、「儲からない」結果となり、「そろそろ打ち止めにしたいけど、大きく打ち出しちゃったので、CSRとして続けるしかない」というような声も聞かれるようになりました。
これらがうまくいかない大きな理由の一つは、これらの取組が、消費者の努力や手間に依存する仕組みであり、基本的に「めんどくさい」ということにあります。面倒を比較的厭わない日本文化の中ですら、消費者の自主性と努力に依存する回収率は、思わしくありません。例えば、日本における牛乳などの紙パックの回収率は30%前後といわれています(PETは例外です)。
「めんどくさい」を乗り越える
消費者はめんどくさがって協力してくれないけれど(そしてお金も払ってくれないけれど)、企業は色々なところから圧力を受けて、コストをかけて様々な取り組みを進めざるを得ない状況に追い込まれています。
サステナビリティへの意識が高くない消費者や、意識はあってもめんどくさがりの消費者も自然とサステナブルな行動に移行させ、企業としても、そこから利益を得るためには、どうしたらよいのでしょう?
そのためには、ビジネスモデルの転換や、イノベーティブな商品アイディアを通じて、「簡単・便利×サステナブル」というように、消費者にとってのメリットとサステナビリティの掛け算となるような商品やサービスを提供する必要があります。そこで、イノベーティブなアイディアで「簡単・便利×サステナブル」を切り口に急成長しているシンガポールのA社の事例をご紹介したいと思います。
2021年に設立されたA社は、洗剤や歯磨き粉などの製造メーカーで、使い捨てプラスチックの削減とカーボンフットプリントの低減を目指し、革新的な製品を開発しています。
日本では、お風呂場の掃除用洗剤など、詰め替え用のパックが普及しています。「お得」で、かつ、「液体洗剤のボトルのプラスチックを減らす」、つまり「コスパ×サステナブル」という切り口で、とても良いアイディアに思われますが、実際には、詰め替えというような面倒なことに手間をかけてくれる国民は、日本人を除いて、そう多くはいません。さらに「詰め替えのほうが、コスパが良い」というキャッチフレーズが響くような消費者、すなわち、「単位容量当たりの価格」を瞬時に計算し、単価の安い商品を選択する、というような基礎能力の高い消費者からなる市場もそう多くはないのです。「コスパがよくて環境に良いリフィル・パック」は世界の多くの国で、消費者の「めんどくさい」という壁を乗り越えるのに十分ではないのです。
そこでA社が考えたのは、「洗剤の成分を錠剤に加工、紙包装で販売。消費者は、この錠剤を自宅でボトルに入れて水に溶解して洗剤を作る」というソリューションです。日本では、入れ歯洗浄剤で同じような錠剤型洗浄剤が売られていますね。これを、洗濯洗剤や、風呂場用洗剤に応用したのです。
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消費者からみると、「重たい液体洗剤を買って、運ぶ手間を省ける」「こぼれないように気を付けながらリフィルする手間も省ける」ことになり、加えて、ボトルやリフィル・パックに使用されているプラスチックとともに、液体を輸送する際に排出されるCO2を大幅に削減することができるのです。
現地に住む友人によると、同社の製品は、「便利で、かつ、環境問題にも関心の高い」シンガポールの若年層を中心に、売り上げを伸ばし始めているといいます。
「便利」から「好き」「かっこいい」へ
さらに、PwCの調査(「社会を変える内なる変化 サステナビリティに関する消費者調査2023」)によると、サステナブルな行動や消費を行う際には、節約や利便性、健康といった機能的価値だけでなく、「かっこいい」「憧れ」といった情緒的価値も重要視されているといいます。特に若年層では、サステナブルな消費行動が自己表現やステータスの一部として捉えられる傾向があり、これが購買行動に影響を与えているというのです。
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こうした情緒的側面を重視する戦略をとっているのが日本の小売りB社です。筆者は、同社社長との対談の機会を得ましたが、その際に、同社社長が消費の際にサステナビリティを重視する「意識高い系」の消費者はせいぜい1割程度であり、残りの多くの人に働きかけるには、「理屈」や「意識の高さ」ではなく、情緒的なものが必要だと述べていたのが非常に印象的でした。
「サステナビリティ」というと、「我慢しないといけない、つらい、めんどくさい」などのイメージが付きまといがちですが、A社もB社も、こうしたネガティブなイメージを払拭し、「便利、簡単、好き、かっこいい」など、機能性、情緒性の両面から「ポジティブ×サステナブル」の掛け算領域をうまく特定し、成功している事例と言えるでしょう
真摯な価値観を、消費者と共有する
「情緒的価値」に訴えるためには、小手先の施策を繰り返しても、かえって反感を買ってしまいます。片手では環境に悪い事業をたくさん手掛け、社員を酷使したうえで、反対の手でサステナビリティを一部手掛ける、というようなやり方では、若い世代の共感を得るブランドを築くことは難しいでしょう。若い世代は、こうした「偽善」「欺瞞」にとても敏感です。
サステナビリティ経営やパーパス経営が流行し、多くの会社がパーパスやマテリアリティの特定に力を入れていますが、どこまで独自性があるパーパスやマテリアリティを発信できているでしょうか?どの企業も「社会課題解決」を掲げ、「自社とステークホルダーからの期待」を縦軸横軸にとった一様なマテリアリティ特定を行っているようにも見受けられます。コマーシャルも一様に「脱炭素社会」や「SDGs」が並び、いったいどの会社のCMなのか、一見しただけでは区別がつかない、というような状況も散見されます。そのうえ、こうした発信を行う企業の、実際の事業ポートフォリオをよく見てみると、「社会課題解決」事業はごくわずかで、ほとんどが従来型のビジネスであるとするならば、逆に「ウォッシュ」と呼ばれ、マイナスイメージにつながることすらあり得るのです。
横並びのパーパスや、教科書通りのマテリアリティは、もはや新しい世代の消費者に訴える要素とはなりえません。他社ではなく、他でもないわが社が提供したい価値観は何なのか?その思いの真剣度を、新しくマジョリティとなっていくミレニアルやZ世代はしっかりと見極めようとしています。見透かされない、本当の価値観を消費者と共有すること、それが新しい時代において、求められているのではないか、と思います。
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筆者紹介:
民間企業や世界銀行、外資系コンサルティングファームなどで、25年間、サステナビリティ・ビジネス、Good Growthを国内外で推進。環境にも社会にも良い事業で、ちゃんと儲ける、新しい資本主義のあり方を実践。経営xサステナビリティx哲学の融合を目指す。
2024年8月からエンゲージメント投資ファンドにてChief Sustainability Officerを務める。著書に『必然としてのサーキュラービジネス 「利益」と「環境」を両立させる究極のSX』、共著に『SXの時代 究極の生き残り戦略としてのサステナビリティ経営』『2030年のSX戦略 課題解決と利益を両立させる次世代サステナビリティ経営の要諦』(いずれも日経BP)。
東京大学哲学科卒業、東京大学哲学修士課程修了。