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少女漫画の続編戦略:過去IP の再活性化

昨今、昭和や平成の時代の作品に再注目するアプローチが増えています。
これは、成長したファン層の購買力を軸に、IPの長期的価値を最大化する戦略と考えられます。今回は、少女漫画の続編展開にフォーカスして、分析してみます。

続編展開の傾向分析

人気少女漫画が一定期間を経て続編を展開するパターンは、一つの手法として確立されています。
以下に、10-20 年近く間隔を空けて続編が展開された事例をまとめてみました。

wikipediaより著者作成

少女漫画の読者層を10歳前後と想定すると、読者は20代〜30代となったタイミングと考えられます。

GALS! の事例分析

GALS! は、この戦略の成功例として考えられます。
1999年から2002年まで「りぼん」で連載された本作は、17年の時を経て2019年に続編の「GALS!!」が連載開始されました(2022年に連載終了)。この続編決定に至る経緯に注目してみると、数々の過去IPに熱狂的ファンが眠っており、似た事例が生まれる可能性を感じます。

GALS! 続編決定の経緯

きっかけは「ニッポン制服百年史」

2019年、弥生美術館で「ニッポン制服百年史」という展覧会が開催されています。これは、ポップカルチャ―として海外からも注目も集める日本の学生服にフォーカスしたもので、多くの作家が参加しており、ここにGALS!の作者である藤井みほなさんも参加していました。

藤井みほな先生の2019年描き下ろし作品の「GALS!」ポストカードセット

twitterアカウント開設(2019年3月)

展示の準備をすすめる中で、藤井さんは大量のカラー原稿を発見したそうで、せっかくならとtwitterアカウントを開設したところ、大反響となりました。

▼初の画像あり投稿

▼トレンド入りするなど

109とのコラボが決定(2019年4月)

twitterの活動とその反響を見たSIBUYA109からの依頼で、SIBUYA109の40周年記念の書き下ろし漫画が発表されました。

続編連載がスタート(2019年11月)

作者も思わぬ当時のファンの熱狂が明らかになり、2019年11月から続編連載がスタートしました。

▼当時のインタビュー

「投稿し始めた初日は、全然気付かれなくてフォロワー4人とかだったんですけど(笑)、翌日の夜に突然「藤井みほな」と「GALS!」がトレンド入りして。私のことを覚えている人なんて100人くらい? と思っていたので、本当にびっくりしました。」
「本当にたくさんの方が盛り上がってくださったのがうれしくて、何かお礼はしたかったんです。スピンオフ的な短編漫画を描いて、コミケとかで手売りしようと思ってました(笑)」
「勝手にやるわけにもいかないし、権利の関係もあるから一応相談しておこうと連載当時の編集担当「とみっち」に相談したら、「もう一度集英社で描かないか?」と言ってくださって。」

引用:「ずーっと109が大好きなんだよね」伝説のギャル漫画『GALS!』藤井みほなさんの変わらぬ渋谷愛【楽しい大人の暮らし方】

続編開始を発表すると、ツイートは5.6万いいね/4.1万リツイートを獲得し、後にコミックスが発売されると事前重版が決定する大反響となります。

マンガMeeの反響を確認すると、当時を懐かしむファンの声が多く、当時の読者である30代前後の女性からの反響が大きいことが予想されます。

グローバル展開の影響

また、GALS!の人気は日本国内にとどまらず、海外でも大きな反響を呼んでいます。2004年から翻訳版が展開されている韓国では、2023年6月にアパレルブランドとのコラボレーション企画が実施されたりと、続編の連載終了後も愛されるIPとなっています。

IP再活性化の成功要因分析

GALS!の事例から、IP再活性化の成功要因を以下のように分析できます。

  1. 読者の成長に合わせたタイミング

    • りぼんの読者層(主に小学校高学年)が20年近く経過し、社会人となったタイミングと一致

    • この世代は、デジタルネイティブでありながら、紙の漫画で育った最後の世代

  2. 「お宝」の発掘とSNSの効果的活用

    • 当時のカラー原稿が、ファンの懐かしさを刺激

    • 作者のTwitterアカウント開設が、潜在的なファン層の再覚醒を促進

  3. 新作としての続編公開

    • 単なる再販や復刻版ではなく、新たなストーリー展開を提供

    • 新作公開により、過去作品への関心も高まり、相乗効果を創出

  4. グローバル市場への展開

    • 韓国アパレルブランドとのコラボ等、海外ファンも巻き込んだ取組み

    • 日本のガールズカルチャーへの海外関心の高まりとタイミングが合致

今後の展望

このような成功事例は、出版業界に影響を与える可能性があります。

過去作品の再評価

過去作品を単なる在庫ではなく、潜在的な金鉱として見直す動きが加速する可能性があります。特に、デジタル化によって、過去作品の再販コストが大幅に低下したことも、この傾向を後押しすると考えられます。

アーカイブの重要性

GALS!の事例で見られたように、過去の原稿や資料が新たな価値を生み出す可能性があります。出版社やクリエイターは、過去の作品関連資料のアーカイブを公開をすることで、新たな価値を創出することができます。

ライセンスビジネス戦略の再構築

20年前では、漫画やアニメがこんなにも街にあふれることはありませんでした。現代では、漫画やアニメは、グッズや広告だけでなく、GALS!のファッションブランドとのコラボレーションなどのように、より多角的な展開がされるようになりました。特に、原作のファン層が大人になったことを考慮した、大人向けの展開が注目されています。

結論:IPの長期的価値と再活性化の可能性

GALS!の成功事例は、漫画IPの長期的価値と再活性化の可能性といえます。新規IPを創出することにこだわらず、特定の年齢層が過去に熱中したIPに注目することで、新たなビジネスチャンスを見出せる可能性があります。
過去のIPを単に再利用するのではなく、現代の技術やグローバル市場の特性を活かしながら、新たな価値を創造していく視点が重要となると考えられます。


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