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「たかが戯言、されど戯言」なのだ

「ねえ、かりんちゃん。2人でラジオをやってみない?」

そんなことをほのちゃんが唐突に言い出したのは2年半前の冬のことだ。私たちが社会に出て、3年が経とうとしていた。

ほのちゃんとは大学時代に知り合っていたものの、大人数での飲み会でたまに顔を合わせる程度で、とびきり仲が良いわけではなかった。

けれど、この提案を持ちかけられる1か月前に、私はなぜか無性にほのちゃんと旅行に行きたくなり、いきなり2人旅を提案したのだ。

私は普段、あまり自分から人を遊びに誘う性格ではない。だから飲み会やランチならまだしも、誰かに2人旅を持ちかけることなんて、後にも先にもあの一度きりだ。

今思えば、直感的に後々こうなることがわかっていたのかもしれない…なんてスピったことを言ってみる。


誘われたら断らないお人好しなほのちゃんは、私の急な誘いをさらりとOKしてくれた。

2人で遊んだことすらほとんど無いのに、気付けば私たちは、黄色や橙色など美味しそうに色づいた山々を背に、新潟行きの鈍行列車に揺られていた。

何時間も2人きりで話をしたのは、それが初めてだった。

初めてだったはずなのに、話しても話しても話が尽きない不思議な感覚を、今でも昨日のことのように思い出す。

内容は全然覚えてないけれど、たぶん、昨日観たテレビの話、彼氏との悩み、仕事で起こったエピソードなど、誰かに聞かせる程でもない他愛のない話ばかりだったと思う。

20代の女の子であれば、誰しも友達と話しているであろう会話。特別なものは何ひとつない。

だけど私は、なんだか久しぶりに、知ったかぶりや背のびをせずに等身大で話せた気がして、すごく心地よかった。

その感覚があったからか、その旅行から程なくして、ほのちゃんから「ラジオをやらない?」と誘われても、私はあまり驚かなかった。

もしかしたらどこかでなんとなく、わかっていたのかもしれない。お互いがお互いにとって、すごく話しやすい相手であることを。

「え、やる」
私は半ば食い気味に二つ返事で承諾し、すぐに番組をスタートした。


それから2年半、私たちは毎週欠かすことなく(正確には2回くらいだけ欠かした)、他愛もないゆるいお喋りをずっと続けている。

改めて振り返ると、なんだか不思議な気分になる。


「スタバの端っこでゆるゆる話す女子トークを盗み聴きできる」というコンセプトで、テーマも決めずに好き勝手に喋ることが、いつしか私たちのかけがえのないライフワークになっていった。

初めはただのお喋りだった…はずが。
いつしか元カレがゲストに出て、ゴリゴリのラップバトルが始まって、ソーサーと呼ばれるリスナーたちとの関係が深まって、ゆとたわ大戦が始まって…。配信内容はどんどんエスカレートしていった。

最近では、古株リスナーの1人が第7世代の人気芸人だったことが発覚したり、外国人リスナーや小学生リスナーが登場したりと、始めた時には想像もつかなかった広がりを見せている。

「2年半なんてほんの数年前じゃないか」と思う人もいるだろう。それでも、podcastの世界の2年半は、激変だったと言っても過言ではないと思う。

今でこそ音声配信が流行し、podcastという言葉にも耳馴染みがあるが、私たちが配信し始めた当初は全くそんなことなかった。

Spotifyやラジオトークなどのプラットフォームもなく、ランキング上位に台頭しているのはpodcast歴10年レベルのベテラン番組か英会話番組ばかり。女性2人でやっているトーク番組なんてほとんど無かった。

だからなおさら、ゆとたわを聴いてくれている人がいる今の状況に、私たち自身が驚きを隠せないでいる。



ただのOLの気の抜けた会話を、なんでこんなにたくさんの人が、聴いてくれるんだろう?

最近、そんなことをよく考える。

私たちの話は専門家のラジオのように知識が得られるわけでもないし、お笑い芸人のようにお茶の間を爆笑の渦に巻き込めるわけでもないのだ。(たまにほのちゃんが偶然、大爆笑ホームランを打つこともあるので、例外はあるけれど)

その答えはいまだに出ていない。けれど、なんとなくわかるような気もする。

もしかしたらみんな、日常の中で、ちょっとだけ気を抜きたいんじゃないだろうか。

忙しなく生きていれば誰だって、「こうあるべき」という理想や「やらなきゃならない」義務など、窮屈な感情にやられる時がある。真面目であればあるほど、そういう気持ちになってしまうものだ。

そんな時、ふっと力を抜いて何も考えずいられる瞬間、ゆるりと笑える空間が大事になったりする。

もしかしたら私たちの他愛もない日常会話は、そういうほのぼのタイムを作るときに、ちょっとだけ役立っているのかもしれない。(そうだったらいいな、という願いも込めて(笑))


私の座右の銘は「迷ったら面白い方を選ぶ」こと。これはゆとたわを始めた初期の頃、番組内で発表した。(ちなみにほのちゃんの座右の銘は「1day 1try」。まさかの英語。)

今のところ、この座右の銘には背くことなく、私たちゆとりっ娘がお送りする、生産性のない戯言は、日に日に面白い方へ転がっていっている気がする。

もしこの文章を読んだ人で今、新しいことを始めるのに二の足を踏んでいる人がいたら、まずは怖がらずに一歩踏み出して見てほしい。

少なくとも私とほのちゃんは、ゆとたわを始めて人生が変わった。そして今もなお、変わり続けている。

スタバの端っこでお喋りを続けているだけなのに、見たことないような光景がじわじわ広がるこの感覚、一緒に味わいましょう!


ゆとりっ娘たちのたわごと かりん
2020.5.22

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