【読書】組織になじませる力
4月から新入社員を迎えたという会社も多いのではないでしょうか。
しかし、GWが明けて早くも離職者が出てしまった…という声もちらほらお伺いします。人手不足の中、新卒も中途もかつてないほど辞めやすい環境になっており、注目されているのが「オンボーディング」という考え方です。
本書ははじめての「オンボーディング」の教科書と帯にあるとおり、新卒・中途で新たに組織に入ってきた新人をどうすれば組織になじませることができるのか体系的にまとめてあります。
ちなみに、新人の定着、戦力化は専門的には「組織社会化」というそうで、著者の尾形先生はこの分野で今、注目されている研究者ではないかと思います。
人が組織に「居続けたい」、「ここで頑張ろう」というのは、その組織という社会の中に適合している状態です。
それは、たとえば、社内の同僚との仲間意識やつながりができているということも一つですし、個人が目指したいキャリアを会社が理解してくれている、そして、今後会社が目指す方向性の中で、自分の活躍の場があるとイメージできているということなどもあると思います。
あるいは、何か困った時に、上司や先輩、同期などに助けを求められるということも一つの要素かもしれません。
このように、組織社会化にはどんな要素が必要かを探求し、有効なアプローチとして以下3つを提示しています。
①情報を与えるインフォーム行動
新たに入社した社員に仕事をスムーズにできるように情報や道具を与えることです。背中を見て学べと放置したり、中途採用だからと遠慮してかかわらないなどがあると、前提条件となる知識が提供されずにミスや失敗につながります。トレーニングの機会や内容が適切かを検証することもよいでしょう。
②迎え入れるウェルカム行動
組織の一員として交流ができる機会を提供することです。信頼関係構築のためのイベントや、1on1などの機会を整備ができているかを検討します。
③導くガイド行動トランジション(これまでと違う文脈に入ることによるリアリティショックを乗り越え、新たな文化に適応する)をサポートできるよう、適切なメンターを提供することです。必ずしも上司というわけではなく、組織としてふさわしい配置が求められると思います。
たとえ、業務を行う上で十分な知識やスキルを持っている方であっても、いくつかのチャレンジが必要になってきます。
組織の暗黙のルールの理解、必要に応じてこれまでの自分のルールを捨てて学び直すこと(アンラーニング)、中途社員であれば、前職ではこうだからといったような意識の排除、そして新たな環境で周囲が信頼できる、ここにいるとやりがいを実感できるといったこと等、いくつかの条件をクリアしていくことがあります。
採用した後は現場の上司に育成を一任し、定着しなかったら、「本人のやる気」や「能力」といった個人の問題、あるいは「給与待遇を上げないとダメだよね」といった単純な要因に帰結させ、対策を講じずに終わるということが、ままあるのではないでしょうか。
一歩進めて、定着できないという状態を体系的に捉え、自社が取りうる具体的な打ち手を検討していくことが、現在は必要な時代になってきたと言えるでしょう。
本書では①~③の行動に対応した各種具体的施策例も紹介されています。
離職が増える中で、会社が教育を諦めると、そこで働く個人も「どうせ転職するからなじむ必要はない」とお互いにドライな関係になっていきがちですが、それは、会社と個人双方にとって望ましくない状態ではないでしょうか。
社員をなじませ、活躍させる力は、会社の組織力として一つの資産になりえると考えています。
ぜひ本書を手に取ってみていただければと思います。