【読書】現実はいつも対話から生まれる
ケネス・ガーゲンとメアリー・ガーゲン夫妻による社会構成主義の解説書。
帯には以下の文章があります。
たとえば、組織には日々満足し、やりがいを感じて働いている人もいれば、割に合わない、不満だと思っている人もいる。
同じ職場で同じ業務を担当していても、人によって違う受け止め方になるのはなぜか。私たちはそれぞれが自分の現実を生きているからです。
他にも同じ地域に対しての見方として、以下のような例も紹介されています。
・進歩から取り残されている
・伝統を守っている
受け止め方の違いは、同じ状況をどこから見るか、その人が何を大事にしているかの影響を受けます。
社会構成主義とは、すべての真実は、ある特定の文脈が共有されている中で、真実となるものであり、絶対的な真実ではないという立場に立ちます。
この考え方を、組織の中でのコミュニケーションにもあてはめてみると、私たちの普段のコミュニケーション一つひとつが、双方で文脈が共有されることで、はじめて意味を持つことに気づきます。
たとえば、「やあ、おはよう」とAさんが声かけをして、その場の誰も反応しなかったとしたら。
Aさんの声掛けは、その場で「挨拶」として成立せず、ただ「おはよう」という音が空をさまよっただけということになります。
一方で、「やあ、おはよう」とAさんが声掛けをして、それにBさんが「おはようございます」と返したとき、そのときはじめて「挨拶がされた」という意味が関係の中で成立します。
このように、意味は、個人の考えとして頭にある状態、あるいはそれが言葉として発せられたときではなく、関係者の中で共有されたときにはじめて生まれるとします。
この考え方は、組織でビジョンを共有すること、方針戦略を推進すること、営業場面等々、コミュニケーションが一方通行ではなく、本当に腹落ちされている、一緒に目指せる状態になっている、など成立している状態とはどういうことかを考える上で、とても有益なものになります。
ビジョンや方針・戦略は伝える、浸透させるものではありません。それでは(Aさんが「やあ、おはよう」と言っているだけで終わってしまうのと同じく)社員との間で意味が成立しないことになります。
方針・戦略に息を吹きこむには、意味が共有されなければなりません。
そうなると、伝達ではなく、対話をもちいて双方の意見を交換し、その中で意味を生み出していくことが必要になるというわけです。
さらに、本書では、ひとたびその意味が社会や関係者の中で合意されると、私たちは、自分自身をそのように「構成」するようになると言っています。
例として、うつ病や精神疾患の例が挙げられています。これらの疾患は今では医療の世界で科学的信ぴょう性を得て、一つの疾患として診断されるものになっていますが、近年、疾患として特定されていない以前は、注意力散漫であるとか、気分の落ち込みと捉えられていたということになります。
ひとたび「疾患である」こと(意味)が社会的に合意、共有されたことで、かかわる人々は、「〇〇の薬を飲んで休んでください。」「しばらく休職して回復に努めてもらおう」と合意された意味にふさわしく振舞うようになりますし、本人もうつ病の患者であるという自覚をもち、その文脈の中で振舞うということになっていきます。
このように、関係者の中で、共通の意味が共有されるということは、(良くも悪くも)関係者の動きを規定し、一人ひとりがその前提のもとで自分を構成(ふるまう)するようになるということです。
これは、組織のビジョンや目標でも同じです。意味が共有されれば、自律的に組織はそのビジョンや目標に向けて主体的に動くようになる、ということです。
翻って、今の自組織を考えた時に、組織のビジョンや目標の”意味”が関係者の中で共有・合意されているでしょうか。建前の言葉は伝達されていても、共有はされておらず、本音では一人ひとりが違うイメージをもって、日々を送っている、皆が本音では違うものをみている、などがあると、推進されていくことが難しくなってきます。
社会構成主義は、現在の組織開発、コーチング、研修などの基盤となる背景理論の一つではないでしょうか。各種取り組みを効果的にするために、理解を深めておくことととても役に立つ理論だと思います。
ご興味ある方はぜひ手にとっていただきたいです。