国際リニアコライダー計画について
ここでは、日本のサイエンスにおける超巨大プロジェクトであるILC計画について説明します。
ILC計画を理解するには、専門的な知識(電子、陽電子、ヒッグス粒子など)が必要であり、一般の人が理解するには大変です。なので、素粒子物理学に関する一般書を読まないといけません。
今回はその知識がなくてもいいように、ILC計画の概要をなるべくわかりやすく説明をします。
ILCとは何か
国際リニアコライダー( International Linear Collider、ILC)は、世界最高エネルギーまで、電子とその反粒子である陽電子を正反対の方向からそれぞれ直線状に加速して正面衝突させ、そこで起こる素粒子反応を研究する実験装置であります。
その実験装置を「加速器」と言い、電磁波などを使って粒子にエネルギーを与える事で粒子を加速しエネルギーを高める装置の総称です。
粒子の加速には電気の力(電場)を用います。
ILCは対面する2つの線形加速器で構成されています。
実際に稼働すると、このようになります。
リニアコライダーのリニアとは線形(直線)という意味であり、コライダーとは加速した粒子同士をぶつけるタイプの加速器である衝突型加速器を意味します。
つまり直線状の衝突型加速器というわけです。
円形にした場合、カーブのたびに粒子に加えたエネルギーの一部を失ってしまうので、直線がいいのです。
また、ここで使われる加速器では絶対零度に近い温度で運用します。
そうすることで、超伝導状態にさせることにより電気抵抗を0にすることができ、電力損失や加熱が発生しなくなります。
すると、加速器の中心にある検出器の中で衝突するまで、加速しながら粒子にエネルギー(マイクロ波)を与える事ができます。(ILC加速器の技術)
本格運用時には、電子と陽電子のビームが1秒間に約7,000回、250ギガ電子ボルト(GeV)の重心系衝突エネルギーで衝突し、大量の新たな粒子が生成され、それらの粒子はILCの測定器で捉えられ、記録されます。
それぞれのビームには、人間の髪の毛よりもはるかに小さい領域に200億の電子または陽電子が集中しています。
このことにより、粒子の衝突頻度(ルミノシティ)は非常に高くなります。
この高いルミノシティと、衝突する粒子から起こる相互作用により、ILCはヒッグス粒子などの性質を詳細に測定するための豊富なデータを取得します。
また、暗黒物質や標準理論を超えた新しい理論(超対称性理論や余剰次元理論など)のような物理学の新しい領域にもアプローチができます。
このようなILCの実験は、究極の自然法則と宇宙の始まりの謎の解明をしていきます。
運用開始後、アップグレードを含め30〜50年間にわたり実験が続けられる予定です。
ILCによって期待されること
科学分野
ILCによって電子と陽電子を光速に近い速度まで加速し、正面衝突させます。
すると電子と陽電子は消滅し、宇宙創成1兆分の1秒後の「エネルギーのかたまり」が生み出されるとされています。
つまり、ビッグバンの再現を意味します。
そしてそこから「ヒッグス粒子」をはじめとしてさまざまな「粒子」が発生し、これまで誰も再現したことのない現象が現れるとされます。
その粒子を観測することにより、どのようにして宇宙が生まれ、物質が生まれたのか、という人類が長年抱いてきた謎の解明に挑むことができるとされます。
技術分野
基礎研究により技術が発展し、それによって世界の経済と文化を変えたことを人類は歴史の中で学んでいます。
またILCは、最先端技術が結集した超精密システムであり、超伝導技術のような多くの最先端技術が必要になり、それは、科学と産業の両方に多くの応用技術を生み出すであろうとされます。
その応用範囲は広く、医療・生命科学から新機能の材料・部品の創出、情報・通信、計量・計測、環境・エネルギー分野までにわたると考えられています。
また、何らかの産業イノベーションが創出される可能性があるとされています。
ILC計画で日本にもたらされること
これまでの素粒子物理学の研究は、現代の産業、暮らしを支える様々なテクノロジーが生まれています。
例えば、電子の発見が電子工学を、量子力学が生命科学・ナノテクノロジー・ITを生み出しています。
またX線やPETなどの医療診断装置や粒子線治療も生み出しています。
加速器のつくる放射光は、創薬・材料設計・分析の必須の基盤となり、電子線滅菌装置は医療・食品衛生を根底から支えています。
インターネット社会を創ったウェブWWWも素粒子の研究から発明されたものです。
このように、素粒子物理の研究から派生する分野は幅広いのです。
ILCの建設・運用により、長期的に関連産業分野の企業立地が促進されることで、新たな雇用・人材育成機会が創出されることが期待できるとされています。
そうすることで、中小企業をはじめ、地域の企業が競争力をつけることによって、高い成長力を持った、先端科学技術産業の集積が加速化する事とされています。
これは、ものづくり大国・日本の再生に向けた、次世代の科学技術・産業の「土台」作りとなります。
野村総合研究所資料による推計では、ILCの建設段階から運用段階に至る30年間で、全国ベースで約25万人分の雇用機会が創出されるとされています。
建設コスト
ILCは北上山地に建設する事が決まっています。
全長20キロという大きさに加え、施設の安全性を担保するためにも、建設から完成まで10年かかり、総工費は7355〜8033億円と試算されています。
そのうち、日本は半分近くの3750〜4096億円を負担するとしています。
つまり、1年で375〜409億円の税金が投入される計算です。
この他にも完成したら、ILCの運転に年間200億円程度かかるとされています。
出典
国際リニアコライダー計画(https://aaa-sentan.org/ILC/ )
LIC-国際リニアコライダー(https://www2.kek.jp/ilc/ja/ )
マイナビニュース(https://news.mynavi.jp/article/ilc-3/ )
なお『会長 島耕作』の国際リニアコライダー(ILC)編が「モーニング」1月24日発売号(2019年刊)から掲載されたようなので、コミックスで読むことができるかもしれません。