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シンガポールの永住権を申請しました

私は2014年にシンガポールに移住し、今年で9年目になりました。現在はソフトウェアエンジニアとして、日系のベンチャー企業で働いています。私は就労ビザでシンガポールに滞在していますが、色々考えた結果、永住権(Permanent Resident以下、PR)を取得したいと思い、去年2021年にPRの申請をしました。今回はPRを申請した経緯とその結果について話そうと思います。


就労ビザについて

まず、PRの前に、シンガポールの就労ビザについて話します。シンガポールで就労ビザを取るためには、学歴、給与、年齢などが重要です。就労ビザにはいくつかの種類が存在しますが、日本人がシンガポールで働こうと思ったときに関係するのは、ほとんどの場合はEmployment Passか、S Passのどちらかになります。

Employment Pass

これは専門職、管理職、経営者などのためのビザです。自分は現在このビザで働いています。MOM(労働省)のWebサイトには最低賃金が$5,000と書いてあります(2022年9月に$4,500から引き上げられました)。ここに書いてある最低賃金は世界のトップ大学卒業の新卒1年目の年齢の場合で、学歴と年齢によって実際にその人が必要な最低賃金が変わってきます。学歴が下がるにつれて、かつ、年齢が上がるにつれて最低賃金が上がります。MOMが自己診断ツールを公開しており、それによると、例えば、$5,000では東大卒22歳は通りますが、東大卒24歳、早稲田卒22歳は共に$5,000では通りませんでした。自分の場合、某国立大学大学院卒35歳で調べたところ、最低$8,300以上は必要なようです。Employment Passは企業がいくらでも出せるわけではないですが、次に紹介するS Passと違い明確な人数の制限はありません。

S Pass

これは中程度の技能者向けビザで、MOMのWebサイトには最低賃金が$3,000と書いてあります(こちらも2022年9月に$2,500から引き上げらました)。S Passは最低賃金はEmployment Passと比べてかなり低いですが、クオータという大きな問題があります。S Passは会社ごとにシンガポール人の数によって枠の数が決まっており、それ以上の人数を雇用することができません。これはシンガポール人の雇用を守るためです。業種によってこの数は異なりますが、だいたいシンガポール人の数の10-20%です。S Passで働くにはここの枠を皆で取り合うため、かなり競争が激しくなります。

私がシンガポールに来たばかりの頃は、うろ覚えですがEmployment Passの最低賃金が$4,000くらいだった気がします。Employment Pass、S Pass共に基準は年々厳しくなっています。

永住権について

シンガポールの永住権(Permanent Resident、PR)を持つと、シンガポール国民が持っている様々な優遇の一部を受けることができます。PR取得条件の明確な基準は公開されていませんが、次の要素などが重要だと言われています。

  • 年齢

  • 居住年数

  • 学歴

  • 職種

  • 収入

  • 家族にシンガポール人、PR保持者がいるか

  • 社会貢献

他の国の永住権の申請ではIELTSやTOEFL等の語学力に関する証明を必要とするところは多いと思いますが、シンガポールでは語学力の証明は必要ありません。

申請資格

シンガポールのPRの申請資格にはいくつかあり、ICA(入国管理局)のページによると、以下の項目のどれかに当てはまる場合に、PRの申請資格があります。自分の場合は、Employment Passを保有しているため、PRを申請することができます。

  • シンガポール人またはPR保有者の配偶者

  • シンガポール人またはPR保有者の未成年独身の子供

  • 高齢のシンガポール人の親

  • Employment Pass又はS Passの保有者

  • シンガポールの学生

  • シンガポールの外国人投資家

メリット

金銭的な優遇を受けられる
PRを持っていると色々な場面で金銭的な優遇が受けられます。特にシンガポールでは学費、医療費、家賃の3つがとにかく高いです。これらのうち学費、医療費が安くなるため、金銭的には大きなメリットです。また、後述するように、HDB(公団住宅)を購入できるようになり、こちらを買ってしまえば毎年のように上がり続ける高い家賃をずっと払い続ける必要もなくなります。
例えば、CNAのこちらの記事によると、2022年の公立中学校(Secondary School)の学費は外国人の場合、月$1,600と書いてあります。これだけ見ても高いですが、問題は毎年値上がりし続けていることです。この調子では、私の息子が中学に行くころには月$3,000を超えている可能性も十分あるでしょう。
私の場合は子供が好きなので将来3人くらい欲しいと思っていますが、この調子で3人を大学まで行かせるとなるとかなり大変です。PRを持っていると学費が4分の1ほどになり、シンガポール国民の場合はほとんど無料に近い価格になります。

HDB(公団住宅)を購入できる
シンガポールにはHDBという公団住宅があり、シンガポール国民の8割ほどがそこで暮らしています。外国人は基本的にHDBを購入することはできませんが、永住権を持ち数年経つと購入することができるようになります。外国人でもコンドミニアム(民間の高級住宅)は購入可能なようですが、HDBに比べて値段がかなり高くなります。

CPFに加入できる
CPFという日本でいう年金のような制度に加入することができます。日本の年金との大きな違いは、現役世代が将来の世代の面倒をみる「賦課方式」ではなく、将来の年金を自分で積み立てて運用する「積立方式」ということです。雇用主から17%、自分の給与から20%引かれるため、毎月給与の37%ほどが積み立てられます。銀行口座のように残高がいつでも確認できるので、日本のように将来いくら貰えるかという心配をする必要がなくなります。毎月の手取りは減りますが、利回りも2.5%以上を政府が保証していてかなり高く、将来的にかなりお得です。

就職が有利になる
上記で就労ビザについて話した通り、就労ビザには様々な制限があり、多くの企業はシンガポール人・PR保有者を優先的に欲しており、PRを持っているか持っていないかで就職できる企業はかなり変わってきます。
また、就労ビザは会社に紐づくため、会社を辞めた場合に、すぐにシンガポールを退去する必要がありますが、永住権を持っていればその心配はなく、ゆっくりと次の企業を探すことができます。

副業が可能になる
就労ビザは会社に紐づくため、その会社以外で働くことが禁止されています。PRは個人に紐づくため、複数の会社で働くことが可能になります。

デメリット

兵役の義務
PRを保有する親から生まれた第2世代の男性は兵役義務が生じます。私の場合は、私には兵役義務は無いですが、私の息子には生じます。

永住権の更新
シンガポールの永住権は5年ごとに更新が必要になります(正確には更新が必要なのは永住権ではなく再入国許可証ですが話を簡単にするため)。就労ビザでの労働実績が認められて永住権が取得できた場合は、更新時にもこれらの情報が審査されます。したがって、シンガポールに住んでいなかった場合、更新が認められないことがあります。これは、永住権を保持し続けるためには、基本的にシンガポールで働き続けなければならないことを意味します。

カジノの入場料
シンガポール人・PR保有者がシンガポールのカジノに行く場合は、入場料$100を払う必要があります。就労ビザで働く外国人の場合は無料です。

永住権を申請した理由

将来の計画が立てやすい

前に述べた通り、就労ビザの基準は年々厳しくなっています。5年後、10年後、20年後、将来ずっと就労ビザを取り続けられる保証はありません。私には子供がいますが、国際結婚ということもあり家庭内では基本的に英語で話しているため、妻も子供も日本語がほとんど話せません。したがって、仮にシンガポールにいられなくなった場合に、日本に戻るという選択は、子供が大きくなればなるほどハードルが高くなるでしょう。いつまでも今後どうなるかわからない状況で子育てをするのは、特に子供にとって健全ではありません。

金銭面

私がシンガポールに来たばかりの頃は独身であったため、月$750の郊外のシェアハウスに住み、食事はフードコートなどで1食$4〜7くらいで済ませていました。今よりも物価が安かったというのもありますが、生活費は東京で一人暮らしをしていた頃よりも安かったかもしれません。
しかし、年齢が上がり、結婚して子供ができると生活水準は上げざる負えなくなります。特に前に述べた通り、学費、医療費、家賃などはかなりかかります。また物価の上がり方も日本では考えられないくらい速いので、将来ずっとこの物価の上昇についていけるかも考慮する必要がります。家族を持ちながら外国人としてシンガポールで暮らすのはかなりお金がかなりかかります。

子供の教育

シンガポールはアジアの中でも教育水準が高いことは有名です。更に様々な人種が存在するため、様々な文化、言語に触れることができるのも良いところです。シンガポールの人種は中華系76%、マレー系15%、インド系7%ほどと言われおり、公用語は英語、中国語、マレー語、タミル語の4つがあります。公立学校では授業は基本的に英語で行われますが、母語の授業があり、中国語、マレー語、タミル語の中から選択することができます。現在私の息子は幼稚園の年少の年齢ですが、来年から徐々に母語の授業が始まります。

就職

前に述べたとおり、就労ビザには制限があり、多くの企業はシンガポール人・PR保有者を優先的に欲しており、PRを持っているか持っていないかで就職できる企業はかなり変わってきます。私の場合、ソフトウェアエンジニアは需要が高いので、今のところPRがなくても仕事が全く見つからないことはあまりないと思っています。しかし、例えば、今専業主婦である私の妻が将来働こうと思ったときに、彼女が就職するのは大変でしょう。

過ごしやすい環境

年中気温が一定で暖かく、年中半袖、ハーフパンツ、サンダルで過ごせるのはすごく快適です。台風や地震などの自然災害がないのも良いところです。日本の四季が好きで物足りないと言う人もいますが、私の場合は寒いのは苦手で、春は花粉症に悩まされ、季節の変わり目で毎回風邪を引いていた日本にいた頃と比べて、かなり快適に過ごせています。
食に関しても、多くの日本の有名レストランチェーンがシンガポールに進出しており、和食のレストランは至るところにあります。自分はスシロー、サイゼリヤ、やよい軒あたりはよく行きます。ローカルのスーパーでも日本食のコーナーがあるところは多く、中には納豆を売っているところもあります。また、最近はドンキがシンガポールで増えており、こちらではドンキは日本のスーパー的な立ち位置で基本的に何でも手に入るため、日本食に関してほぼ困らない状態です。

結果

ICA(入国管理局)のページには「通常は4-6ヶ月くらいで結果が出るが、それ以上かかる場合もある」と書いてありましたが、私の場合は約14ヶ月ほど待ちましたがリジェクトされました。かなり難しいとは聞いていましたが、残念でした。

今後

私の周りで最近PRの申請に通った人、落ちた人を観察している限り、正直基準はよく分かりません。ただ、落ちている人が圧倒的に多いので、難しいことは確かです。ポイント制のように基準が明確にあるわけではないので、自分があとどれくらい足りていないかが全く分からないのが辛いところです。おそらく将来何度申請しても通らない可能性も大いにあるでしょう。
私の知り合いに、子供が4人いて長い間家族でPRを申請し続けても承認されず、大学の学費が高いので一番上の子供が大学に行く前に諦めて家族で母国に帰った人がいます。私もシンガポールに住み続けると同じ道を辿る可能性もあるでしょう。
今生活に余裕がないという訳ではないですが、将来PRがもらえる保証がない中で、家族でシンガポールで暮らし続けるのはリスクが高く、この国を出るのであれば子供がまだ小さいうちの方が良いでしょう。
これらのことを踏まえて、シンガポールは暮らしやすく永住したい国ではありますが、このままこの国で暮らし続けるのが本当に良いのか考えています。今後どうするかはまだ決めていません。もうしばらく様子をみてもう一度チャレンジするか、日本に帰るか、別の第三国に行くか、それとも単身赴任になるか、色々な選択肢はありますが、近い将来にこの選択をする必要があります。家族の意見も聞きながら、一番良いと思う選択をしようと思います。

参照


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