原告が憲法13条違反と憲法22条1項違反の主張を追加

 2024年9月9日に東京地裁(衣斐瑞穂裁判長)で開かれた「記者クラブいらない訴訟」第7回口頭弁論。原告ら(三宅勝久、寺澤有)は「原告ら準備書面(4)」で、「本件妨害行為は憲法13条(個人の尊重)と憲法22条1項(職業選択・営業の自由)にも違反する」との主張を追加した。「本件妨害行為」とは、「鹿児島県知事が公人の義務として開く記者会見に、原告らがフリーランスの権利として参加しようとしたところ、被告ら(共同通信社、前田晋吾氏、久納宏之氏)が威力をもって妨害したこと」をいう。

 また、「原告ら準備書面(4)」では、本件妨害行為が被告らの悪意でなされたことについても、当時の被告らの言動や事実経過をふり返り主張している。

 以下、「原告ら準備書面(4)」から上記の主張に関する部分を全文掲載する(「甲○」と表記されているのは原告らが提出している証拠の番号、「乙○」と表記されているのは被告らが提出している証拠の番号)。

【1】本件妨害行為は憲法13条に違反すること

 従前、原告は「鹿児島県知事が公人の義務として開く記者会見に、原告らがフリーランスの権利として参加しようとしたところ、被告らが威力をもって妨害したこと(以下、本件妨害行為)は、憲法14条1項に違反し、かつ、憲法21条1項に違反する」と主張してきた。

 これに、「本件妨害行為は憲法13条に違反する」との主張も追加する。その理由は下記のとおりである。

(1)本件妨害行為のさなか、原告寺澤有、同三宅勝久と被告前田晋吾共同通信社鹿児島支局長(当時)との間で、以下のやりとりがあった(甲1「カメラを止めるな! 7月28日(前編)」、2:45:54~)

寺澤 支局長にね、ちょっと、ちょっと、今、あの、こちらのかたのね、(被告)久納(宏之)さんの、まあ、名誉もあるから、ちょっと、改めて、こう、今、(YouTubeのライブ配信で)映ってるからきくんだけど、なんで、この(久納の)署名記事が、こんな少ない(久納が共同通信社に入社して以来、署名記事は10本しかなく、過去半年以内には1本しかない=甲23)んですか。

前田 ああ、それは、通信社っていうシステムだからです。

寺澤 だって、なんか、(久納が)「(署名記事を)書いても、(新聞に)載らない」とかって言ってたけど(「原告ら準備書面(3)」6ページの(5)を参照)。

前田 たとえば、毎日新聞だったら……。

寺澤 いやいや、「(署名記事を)書いても、(新聞に)載らない」って言ってたんだけど。

前田 署名が載らない(無署名記事として新聞に載る)。

寺澤 「署名が載らない(無署名記事として新聞に載る)」と言ってんの?

前田 そうです。

寺澤 ああ、いやいや、自分(久納)が(署名)記事書いても、それは(新聞に)載らないって、自分(久納)の書いた(署名)記事、ボツにされちゃうっていう意味だ(と思)った。そしたら、それ(もともと署名記事は書いていないという意味)だったら、そんとき言おうと思ったことだけど、だって、我々、フリー(ランス)だって、署名で(記事を)書いてる人なんか、三宅さんとか私とか、まあ、(訴外)畠山(理仁)さんも、今、(署名で記事を)書いてるけど、畠山さんだって、昔は署名で(記事を)書いてなかったと思うけど、それは、だから、それなりに(記者なりフリーランスなりとして)年数経たないと、(署名記事が新聞や雑誌に掲載されるように)ならなかったりするわけですよ。あるいは、まあ、ボクは、たまたま運がよかったから、昔から(署名で記事を)書いてるけど。だから、それ、おかしいでしょ。そういった、じゃあ、署名で(記事を)書いてないようなね、だけど、週刊誌には毎週記事書いてるよって人、(鹿児島県知事の記者会見に参加するためには)どうすんですか、じゃあ。だって、共同通信だって、(記者が書く記事は)署名(記事)じゃないんでしょ。

前田 まあ、今回、今の、その、(青潮会主催の記者会見に関する)規約(乙4)が署名入りの(記事)を求めてたとして……。

乙4

寺澤 (実際に)求めてんでしょ、だって。

前田 今は求めてます。じゃあ、今、仮に、そういう規約がありますと。で、フリーランスでやってるかたが、毎週毎週、たとえば、『週刊文春』に書いてるかたが、(鹿児島県知事の記者会見に)参加できないんじゃないかという場合は、やっぱ、これから、そこを改めるような方向で話をしますよ。

寺澤 だって、たとえばね、私が……。

前田 今回は、たまたま間に合わなかったし……。

寺澤 だって、だって、「間に合わなかった」って言ったって……。

前田 寺澤さんに、その、ご指摘いただいたことによってですよ、その……、その……、フリー(ランス)、参加できないような条件があるってことが、今、わかったわけですから。

寺澤 いや、だって、共同通信はね……。

前田 (規約を)改正する……。

寺澤 だから、あの、署名で(記事を)書かないシステムだっていうことなんですよね。ちょっと、私、さっき取り違えて、自分(久納)が署名記事の原稿出しても(新聞に)載らないって意味かと思っちゃったから、ちょっと、(久納のことを)「無能」言っちゃって、それは悪かったけど。だけど、もともと、(共同通信社の記者が書くのは)署名の原稿じゃないっていうことなんですよね。だから、それでいえば、たとえば、『週刊文春』『(週刊)現代』とかの記者だって、そうですよ。毎週、(記事を)書いてても(署名記事ではない)。

前田 その(現在の)規約は、その(現在の)規約は、寺澤さんが指摘するとおり、ちょっと、あの、そういう人を排除する条件になってしまってるので……。

寺澤 (実際に)排除してますよ。

前田 今、現在では、ちょっと……。ボクは、あの、基本的立場は、「(記者会見は)オープンにするべきだ」って言ってるし、今回の(鹿児島県政記者)クラブ(青潮会)の総会とかの、あたっても、「共同通信の考えは、基本的には、(記者会見は)オープンで、(フリーランスに)質問もしてもらうようにしなさい」っていう指示してるわけですよ。で、ただ、そういう、なんていうかな、盲点というか、ところは、今、ご指摘いただいたので、今後、また現場で話し合って、あの、そういうかたがいらっしゃるんなら、たとえば、その、記事だけ送ってもらうっていうことだって……。

寺澤 だって、そしたら、「署名(記事)じゃない」って言うじゃないですか。「これ、本当にあなたが書いたんですか」って話になったりとか。

前田 だから、それ、悪意でやってるわけじゃないですから。

寺澤 いや、だって、これ、悪意でしょ。この妨げ(本件妨害行為)は。

(前田が「悪意でやってるわけじゃない」と言うので、寺澤は塩田康一鹿児島県知事の記者会見が開かれている大会議室に入ろうとする)

寺澤 ちょっと、ちょっと、(大会議室に)入れてくださいよ。なんで? なんで、入れ(てくれないのか)。なんで、こ(ういうことをするの)。なんで、手出すの。ちょっと。なんで? なんで?(前田、久納は本件妨害行為を継続する)。

前田 寺澤さんからしたら、「おかしい」とおっしゃるかもしれないですけど、ボクたち、社会人(からすれば、おかしくない)。

寺澤 いや、どっちが(社会人といえるのか)。いや、もう、ありえないと思うけど、これ。だってね、自分たち共同通信は「署名で(記事を)書くシステムじゃない」って言っときながら、なんで、我々、フリーランスに一方的に署名で……。

前田 だから、その項目については……。

寺澤 だから、そういう、そういう規約だから、私は、(前田が)「自分で署名記事出せば、入れた(寺澤が事前に青潮会へ署名記事を提出していれば、塩田知事の記者会見に参加できた)」って言うけども(「原告ら準備書面(3)」7ページの(7)の【場面1】を参照)、そういう不当な規約だから、この、自分だけね、じゃあ、その不当な規約を認めてね、あの、そうやって、(事前に青潮会へ署名記事を)出して、(自分だけ記者会見に)入るのがイヤだから、こうやって、今、言ってるんでしょう。あなたがたの規約は明らかに不当なんだから。

前田 今、ここで言うんじゃなくて、1週間前に、そういう、言えばいいじゃないですか。

寺澤 だって、1週間前になって、あなたがた、(規約を改正して、フリーランスが)質問できるようにしたっていうふうに、(そういう)ことでしょう?

前田 寺澤さんのいちばんの関心事なわけでしょう。その、記者クラブ問題……。

寺澤 だから、そんなのは(そういうことであれば)、当然ね、「質問できるようにした」っていうんだから、その前段階のね、もっとね、前近代的なね、だって、「質問できるようにした」っていうことは、オブザーバーっていう、(記者会見に)出てもいいけど、オブザーバーだよ、質問できないよっていう、そういう古いことは、もうやめたってことでしょう。

前田 そうそう。

寺澤 それより、さらに古い規約(こと)をいってるわけですよ。参加要件の話は。署名記事だとかね。今、言ったように、そういう週刊誌の記者とかはね……。

[被告は「青潮会は、フリーランスの記者から青潮会主催の記者会見への参加の要望を受けたことを契機として、2012年3月、青潮会に加盟していない記者が青潮会主催の記者会見に参加できる要件について『青潮会主催の記者会見に関する規約』(乙2)を作成した。その際、内容については、総務省の会見規約(乙3)を参考にした」と主張する(「被告準備書面1」2ページの2を参照)。しかし、2012年3月より以前に、フリーランスやネットメディアが「総務省の会見規約は不当である」と抗議し、最初に、「総務省記者クラブ加盟社及び上記AからFの中に掲げる企業・団体が発行する媒体に定期的に記事等を提供する者」という参加要件が、事実上、廃止されて、希望者なら誰でも参加できるようになり、続いて、「フリーランスは動画撮影禁止」「ネットメディアの記者はオブザーバーで、質問禁止」(ただし、もともとフリーランスは質問できた)という禁止項目も廃止された=甲17、甲18の1~2、甲19の1~3、甲20の1~2、甲24]

前田 ご指摘を真摯に受け止めさせていただいてます。

寺澤 だから、役所がね、あの、そういう、たとえば、『週刊文春』とか、『(週刊)新潮』でもいいけど、そういうところ(週刊誌)に、毎週記事書いてても、コイツら、署名で(記事を)書いてないだろと。だから、こういうヤツら、(記者会見から)排除するには、(記者会見の参加要件で)「署名記事」ってすりゃいいじゃないかっていって作ってね、(フリーランスを)排除するために作ったね、規約を、なんで、そう、やる(持ち出す)んですかっての。それで、「(記者会見の)オープンを目指してます」はおかしいでしょう。

前田 その、オープンになるほう、一足飛びに、すべてが、その、寺澤さんが望むような100%の解にはならないかもしれないけれども、前向きに、前向きに、やって……。

寺澤 「前向きに」って、これ、どこが前向き……。

三宅 なんで、その、署名記事を、なぜ、(参加要件に)入れたんですか。

寺澤 そうですよ。だって、共同通信(の記者も署名記事を書いていない)。

前田 それは、(青潮会の規約を)作ったときは、たぶん、その、中央省庁の、あれ(規約)を、あの、持ってきて、あれなん(参考にしたん)でしょ。

三宅 (参加要件に署名記事を入れた)趣旨は、趣旨はなんなの?

寺澤 それは、だから、(訴外)有村(眞由美)さんの記事(甲10の「鹿児島県、記者会見からフリーランス排除を規約化か」と題する記事)にも書いてあるけど、総務省の(規約)をそのまま持ってきたって書いて……。

前田 だから、それはそうでしょう。どっかから、参考にして、やっぱり、その、なんていうか……。先ほどの、寺澤さんがおっしゃった、その、たとえば、「共同通信の、この4月に入った(入社した)記者なら(記者でも)、(記者会見に参加して)いいのか」って。それはいいと思いますよ。

寺澤 あっ、そうなんですか(笑)。

前田 組織と、営々と築いてきた、その、看板を背負ってやってるので。その、それと、あの、フリー(ランス)でやってらっしゃるかたが、その、フリー(ランス)で、きちんとしたジャーナリスト活動をやってらっしゃるかどうかっていうのは(違う)。

 被告前田は、「フリー(ランス)、参加できないような条件があるってことが、今、わかった」「そういう人(フリーランス)を排除する条件になってしまってる」などと、「青潮会主催の記者会見に関する規約」の不当性を認めている。社会通念上、自分の落ち度で相手に不利益を与えた場合、直ちに、それを回復する対応をとるのが当然だ。しかし、被告前田、同久納は、「わかりました。今回は、事前に青潮会へ署名記事を提出していないフリーランスにも、塩田知事の記者会見に参加していただき、次回以降の記者会見については、改めて協議させてください」などという必要最小限の対応をとることもなく、本件妨害行為を継続したのである。これは、被告らが原告らに対し、当初から不利益を与える(塩田知事の記者会見を取材・報道させない)目的で本件妨害行為に及んでいた証左だ。被告らが原告らに対し、悪意を持っていたことも明白である。なお、被告らの悪意については、詳しく後述する。

 本件妨害行為は、被告らの原告らに対する差別意識に起因している(「原告ら準備書面(3)」の「2 本件妨害行為は憲法14条1項に違反し、共同不法行為が成立すること」を参照)。と同時に、被告らに個人を尊重する意識がないことにも起因している。

 上記のやりとりで、被告前田は「寺澤さんからしたら、『おかしい』とおっしゃるかもしれないですけど、ボクたち、社会人(からすれば、おかしくない)」と発言している。これは、「寺澤のような役所や会社に所属するわけではなく、なんなら所属したくても所属できず、『フリーランス』などと称している者は、社会人(一人前)とは認めない」という意味合いの発言である。この発言に個人を尊重する意識はみじんも感じられない。

 さらに、被告前田は「先ほどの、寺澤さんがおっしゃった、その、たとえば、『共同通信の、この4月に入った(入社した)記者なら(記者でも)、(記者会見に参加して)いいのか』って。それはいいと思いますよ。組織と、営々と築いてきた、その、看板を背負ってやってるので。その、それと、あの、フリー(ランス)でやってらっしゃるかたが、その、フリー(ランス)で、きちんとしたジャーナリスト活動をやってらっしゃるかどうかっていうのは(違う)」とも発言している。これも前記の発言と同様、役所や会社に所属している者は無条件で一人前として扱い、「フリーランス」などと称している者は基本的に半人前として扱うという意味合いの発言だ。この発言にも個人を尊重する意識はみじんも感じられないのである。

 被告前田が「先ほどの、寺澤さんがおっしゃった」と取り上げているのは、以下のやりとりで原告寺澤が発言したものだ(甲1「カメラを止めるな! 7月28日(前編)」、2:25:44~)

寺澤 だから、なんで、自分たちのね、クリアできない条件をつけてくるわけ(被告久納が共同通信社に入社して以来、署名記事は10本しかなく、過去半年以内には1本しかないにもかかわらず、どうして、青潮会は、フリーランスが鹿児島県知事の記者会見に参加する場合、「過去半年以内に2回の署名記事」という条件をつけてくるのか)。これ、どういうことですか。

三宅 踏み込みすぎ。

(訴外)男性記者 いや、たとえば、共同通信っていうのは、ある意味、共同通信という大きな署名としてあるわけですよ。

三宅 だから(一般社団法人日本新聞協会会員社などが発行する媒体に無署名記事を定期的に提供しているだけでは不可だから)、署名(記事)、だから、個人署名(記事)と(青潮会の規約で)いってるんじゃないんですか。

寺澤 (失笑しながら)ちょっと、ムチャクチャ言う……。共同通信って、署名?

男性記者 共同通信っていう、ね、ある意味では、マスコミ、マスメディアっていう認識はありますよ。

寺澤 いやいや、だから、そんなかにいたら、あの、無能な記者でも、いいんですか。今年、大学卒業したばっかの記者でも。三宅さんみたいに、30年やってきたね、あの、記者よりも。今年卒業して、4月に卒業して、今、7月に、まあ、鹿児島支局、最初(の勤務先で)来ました。で、その記者は(鹿児島県知事の記者会見に参加して)いいけど、三宅さんはダメだっていう、そういう不合理な話になるんですか。

男性記者 それが、どこが不合理だっていうのかわかんない。

 以上のやりとりから、被告前田、同久納以外の青潮会会員社の記者も、役所や会社に所属している者は無条件で一人前として扱い、「フリーランス」などと称している者は基本的に半人前として扱うという、個人を尊重する意識がみじんもないことは明白である。

(2)2024年7月1日に開かれた第6回口頭弁論で、被告代理人は「当日、記者会見に来た者は、フリーハンド(発言ママ)で入れなさいというのが原告の主張なのか」と質問し、原告代理人は「取材をするために来た者、いわゆるジャーナリストは」と答えた。

 前述のように、総務省の記者会見では、青潮会が「青潮会主催の記者会見に関する規約」を作成した2012年3月より以前に、フリーランスやネットメディアがフリーに参加し、質問や動画撮影を含め、フリーに取材できるようになっていた。

 しかるに、現時点で被告代理人が上記のような発言をしているということは、いまだに、被告らが、役所や会社に所属している者は無条件で一人前として扱い、「フリーランス」などと称している者は基本的に半人前として扱うという、個人を尊重する意識をみじんも持っていないことを示している。

(3)第6回口頭弁論が開かれた2日後の7月3日、最高裁判所大法廷は「優生保護法の不妊手術に関する規定は憲法13条及び14条1項に違反する」との判決を言い渡した(甲56)

「原告ら準備書面(3)」5ページで述べているとおり、2023年6月28日、東京高等裁判所は「憲法14条1項は『差別されない権利』を保障する」との判決を言い渡した(甲52)。同判決22ページでは、以下のように判示されている。

「憲法13条は、すべて国民は個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する権利を有することを、憲法14条1項は、すべて国民は法の下に平等であることをそれぞれ定めており、その趣旨等に鑑みると、人は誰しも、不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送ることができる人格的な利益を有するのであって、これは法的に保護された利益であるというべきである」

(4)(1)から(3)までの事情を踏まえれば、本件妨害行為が憲法13条及び14条1項に違反するのは明白であり、これらを合わせて主張するほうが実情と理屈にかなっている。 

【2】本件妨害行為は憲法22条1項に違反すること

 今回、「本件妨害行為は憲法22条1項に違反する」との主張も追加する。その理由は下記のとおりである。

(1)「記者会見に参加する」というのは、取材・報道に携わる者にとって、初歩的、基本的な活動といえる。

 前出のやりとりで、被告前田は「先ほどの、寺澤さんがおっしゃった、その、たとえば、『共同通信の、この4月に入った(入社した)記者なら(記者でも)、(記者会見に参加して)いいのか』って。それはいいと思いますよ」と発言している。実際、通信社や新聞社、テレビ局は新入社員の記者を、まず中央省庁や都道府県庁、都道府県警、主要な市役所の記者クラブに配属し、記者会見に参加させることでOJT(on-the-job training)を行っている。

 一方、本件妨害行為を見ても明らかなように、記者クラブに配属されている記者以外の取材者が、役所の記者会見に参加するのは不可能か極めて困難である。取材・報道を職業としようとする者が、「役所の記者会見に参加する」という初歩的、基本的な活動を行うためには、通信社や新聞社、テレビ局に入社することが必須となる。

 原告らは大学で講義や講演を行ったり、署名記事や著書が多数あったりすることなどから、ときどき、取材・報道を職業としようとする若者から相談を受ける。「自分は専門分野があるので、それを取材・報道するフリーランスになりたい」というものだ。

 しかし、フリーランスとしてキャリアをスタートさせれば、取材・報道の初歩的、基本的な活動である「役所の記者会見に参加する」ことができない。被告らがフリーランスを記者会見から排除するための小道具として作成している「青潮会主催の記者会見に関する規約」を参照しても、このような若者が記者会見に参加する余地はまったくない。

 取材・報道の初歩的、基本的な活動を行う場を奪っておきながら、「フリーランスとして実績を積み、日本新聞協会会員社などが発行する媒体に、過去半年以内に2回の署名記事を提供していれば、記者会見に参加することを認める」というのは無理難題である。そもそも、記者会見は記事を書くために参加するものだから、記者会見に参加するために記事を書かなければならなくなるような条件は本末転倒だ。

 ゆえに、原告らは実情を説明したうえで、「不本意と思うが、通信社や新聞社、テレビ局に入社するしかない」と答える。すると、結局、若者たちは取材・報道を職業とすることを断念してしまうのである。

 こうして、たとえば、裁判所の記者会見でいえば、司法試験に合格するほどの知識がある若いフリーランスの姿はなく、法学部の学生でも知っているような法律用語や刑事訴訟・民事訴訟の手続きについて質問する通信社や新聞社、テレビ局の新入社員の記者が跋扈(ばっこ)している。

(2)元共同通信社ジャカルタ支局長、元同志社大学社会学部メディア学科教授の浅野健一氏は、著書『記者クラブ解体新書』(甲57)で、「記者クラブは、アパルトヘイト、人種差別主義、全体主義などと同様に、民主的な社会から根絶しなければならない悪習である」(209ページ)と主張している。そして、「青潮会主催の記者会見に関する規約」のようなフリーランスを記者会見から排除する目的で作成された記者クラブの規約について、「『実績のある』記者でも、駆け出しの時は『実績』はなかったはずだ。記者クラブに入れない表現者が、どうやって実績を積めというのか」(53ページ)、「現在のように、報道界の一集団でしかない日本新聞協会の定めた新聞倫理綱領を遵守できる記者とか、新聞協会加盟社の媒体に記事を書いたことがあるかどうかで、『会見』参加の資格の有無を判断しているのは違法、不当であり、直ちに廃止しなければならない」(202ページ)と批判している。

(3)長年、原告らは、通信社や新聞社、テレビ局の記者たちから、「フリーランスになると、役所の記者会見にすら参加できなくなる。だから、会社を辞めることができない」という声を聞いてきた。

 近年、おそらく、いちばん有名な新聞記者の望月衣塑子氏は、ネットメディア『東京ウーマン』のインタビュー(甲58)で、「フリーランスになろうとは思いませんか?」と質問されて、次のように答えている。

「今の状況だとフリーになった途端にあの場にいれられなくなります。個人で名前が売れたところで、官邸会見は簡単に行けるものではないです。やはりこれは東京新聞の名刺の力だと感じます」

 望月氏が上記の発言をしている現状で、通信社や新聞社、テレビ局の記者の誰が、「役所の記者会見」という取材・報道の初歩的、基本的な活動を行う場を奪われることを覚悟でフリーランスになれるのか。

 付言すると、望月氏は、「記者クラブの制度自体についてはいかがでしょうか」という質問に対し、「私自身は防衛記者クラブ、司法記者クラブに長く所属していましたし、地方だと県警クラブにいました。会見に出て細かく聞けたのは、そこのクラブに属していたからです。そういう意味では自分も恩恵を受けて書いてきた身なので全否定することはできませんが、それが外の人から見た時にどうなのかと思うところはあります。クラブ制度の本来の趣旨、権力に対峙する、という点に則ってやらないと、外から見ると特権的で、国民の知る権利を代弁していないという印象を与えてしまうと思います」などと答えている。

(4)被告らは、「通信社や新聞社、テレビ局の記者は、たとえ新入社員であっても、『役所の記者会見』という取材・報道の初歩的、基本的な活動を行う場に参加し、実績を積んでいる。一方、フリーランスは『役所の記者会見』に参加するのは不可能か極めて困難であるため、取材・報道の初歩的、基本的な活動を行う能力があるかすら疑わしい」と考えている。だからこそ、原告らが、「原告ら準備書面(3)」と本書面で指摘するような憲法13条、憲法14条1項、憲法21条1項に違反する言動をくり返しているのである。

(5)(1)から(4)までの事情を踏まえれば、本件妨害行為が憲法22条1項に違反するのは明白であり、これは本件妨害行為の憲法13条違反、憲法14条1項違反、憲法21条1項違反とも密接に関連する。

 裁判所が本件妨害行為の憲法22条1項違反を判示することは、取材・報道を職業としようとする者、現役のフリーランス、現役の通信社や新聞社、テレビ局の記者、それぞれの自由や権利を保障するばかりでなく、取材・報道の自由と国民の知る権利を保障することとなる。 

【3】本件妨害行為は被告らの悪意でなされたこと

(1)2011年11月以降、フリーランスの訴外有村眞由美は鹿児島県と青潮会に対し、フリーランスが鹿児島県知事の記者会見に参加して質問できるよう要求してきた。しかし、鹿児島県と青潮会は責任の所在を押しつけ合ったり、回答を引き延ばしたりしてきた(甲10甲22の1~2)。

 このような役所と記者クラブの対応は記者クラブ加盟社以外の者に要求をあきらめさせるための常套手段である。総務省の記者会見で、ネットメディアが質問できるよう要求したときも、フリーランスが動画撮影できるよう要求したときも、総務省と記者クラブは同様の対応をとってきた(甲17、甲18の1~2、甲19の1~3、甲20の1~2)。前出の『記者クラブ解体新書』でも、巻頭、たとえ話で説明されている。

〈仮に東京都内の公立図書館に「東京六大学」学生だけが使える「六大学学生クラブ」という看板を掲げた図書室があるとしよう。六大学に入っていない上智大学、青山学院大学や国際基督教大学などの学生が「税金で賄われている公立図書館が特定の大学の学生だけに便宜供与するのはおかしい」と図書館長に抗議する。ところが、図書館長は「長い歴史があってこうなっている。その部屋の運営はすべて六大学クラブに任せているから、クレームがあるならクラブ側に文句を言ってほしい」と回答する。上智大生らはクラブヘ出向くが、「今月のクラブ幹事」と称する早大生が現れ、「伝統ある公立図書館との合意で使っている。文句があるなら役所に言ってくれ」と言って姿を消す〉(5ページ)

(2)2020年7月の鹿児島県知事選挙のさい、訴外有村は、候補者であった伊藤祐一郎前知事(当時)、三反園訓現知事(同)、塩田康一氏(同選挙で当選し、現知事)を取材し、それぞれから「知事の記者会見でフリーランスの質問を認める」旨のコメントを引き出して、ネットで速報した(甲49の1~4、甲50の1~2、甲51の1~7)。

 しかし、7月12日に塩田氏の当選が決まったあとも、青潮会は「知事の記者会見でフリーランスの質問は認めない」との姿勢を変えなかった(「被告準備書面1」3~4)。上記の『記者クラブ解体新書』のたとえ話でいえば、庁舎管理権を持つ公立図書館長が「東京六大学」学生以外の学生にも図書室の利用を認めたにもかかわらず、「六大学学生クラブ」が「図書室の運営は自分たちが任されている」と主張し、自分たち以外の学生の利用を拒否し続けているということとなる。

 もっとも、7月26日、青潮会は訴外有村へメールを送信し、「記者会見室への入室はできませんので、庁舎管理の観点からも、配慮ある対応を賜りますよう、ご理解のほど、宜しくお願い申し上げます」と、自分たちに庁舎管理権があるかのような言い方をしている(乙6の2)。このような考え違いが被告らを本件妨害行為へ走らせたことは疑いない。

乙6の2

 フリーランスの訴外有村や訴外畠山理仁は青潮会の姿勢に反発し、これをネットで批判し続けた(甲59の1~8、甲60の1~25)。その結果、ネットでは、有村や畠山に同調し、青潮会を批判する投稿があふれ、「炎上」と呼ばれる状態となった(甲9の2は、『炎上』が発生したさい、経緯がわかるよう第三者が作成する『まとめサイト』と呼ばれるもの)。批判の中には、朝日新聞社サンフランシスコ支局長(当時)の尾形聡彦氏、新聞記者の湊日和(ペンネーム)氏、NHK記者の籏智広太氏など、青潮会の「身内」といえる者からのものも多かった(甲61甲62の1~4、甲63の1~2)。

 7月21日、青潮会は急きょ総会を開き、「青潮会主催の記者会見に関する規約」を改正し、フリーランスの質問を認めることとした。本件妨害行為のさい、被告前田は「今回の話し合いでも、『(フリーランスを記者会見に)入れない』っていうことを主張した会社は、どこもないです。ちゃんと手続きをとってもらえるなら、(記者会見を)オープンにして、(フリーランスにも記者会見に)入ってもらおうと。質問をしてもらおうって、やってるんですよ」と発言している(「原告ら準備書面(3)」7~8ページ)。しかし、実情は、新知事に就任する塩田氏と鹿児島県が「記者会見でフリーランスの質問を認める」としているにもかかわらず、「認めない」とする青潮会の姿勢がネットで批判されて炎上し、それらの批判の中には、「身内」といえる者からのものも多かったため、もはや、「フリーランスを記者会見に入れない。質問させない」などと主張できる会社が1社もなかったということである。なお、韓国で記者クラブが廃止されたときも、ネット上の批判が重要な役割を果たしている(甲25)

 従前、見下してきたフリーランスにより規約の改正へ追い込まれた被告前田、同久納ら青潮会会員社の記者たちが強い屈辱感を味わい、フリーランスへの憎悪をつのらせたのは想像にかたくない。

(3)被告らの憎悪がいちばん向けられたのは訴外有村である。2011年11月以降、有村のおかげで、鹿児島県知事の記者会見にフリーランスを参加させなかったり、参加させても質問させなかったりしている自分たちの言動がつまびらかにされて、ついには上記のような屈辱的な事態へ追い込まれたからだ。

 そこで、被告らは「青潮会主催の記者会見に関する規約」を改正するさい、旧規約(乙2)に以下の文言をつけ加えた。

「申請の都度、青潮会への記事の写しの提出を求めるものとする」(乙4)

乙2
乙4

 これは、訴外有村が、日本新聞協会会員社などが発行する媒体に、過去半年以内に2回の署名記事を提供していないことを見越し、有村を新知事の就任記者会見から排除するためにつけ加えられたものである。原告らは中央省庁や地方公共団体の記者会見に参加しているが、以前、初回参加時に役所や記者クラブへ記事の写しを提出することはあったものの、毎回提出を求められたことなどない。前出の東京新聞記者の望月衣塑子氏も、「鹿児島の県政記者クラブは規約の見直しを行い、フリーランスの質問を認めることに。首相や官房長官会見でも、民主党政権時にできた基準『半年以内に加盟社媒体に2本以上の記事掲載』という前近代的な中味を見直すよう、内閣記者会が総会で話し合うべきだろう」と批判した(甲64)

(4)(1)から(3)までの事情を踏まえれば、被告らがフリーランスなり原告らなりに悪意を持っていたことは明白であり、本件妨害行為は当初から原告らに不利益を与える(塩田知事の記者会見を取材・報道させない)目的でなされたものである。目的が不正である以上、いかなる理由をつけても本件妨害行為が正当化されることはない。

【4】結語

 2020年7月24日、ノンフィクション作家の立石泰則氏はツイッターへ以下の投稿をしている。

「フリー記者の有村さんと鹿児島の県政記者クラブ(青潮会)との会見出席をめぐるやりとりから分かるのは、大手メディアが国民の知る権利、つまり『報道の自由』を守る気はさらさらないということだ。あるのは自分たちの既得権益(県政との癒着による利益)の死守である。記者クラブは公害でしかない」(甲65)

 明治23年(1890年)に創設された記者クラブ制度は、そもそも、戦後に制定された憲法の「国民主権」「基本的人権の尊重」の原則とあいいれない。それが如実にあらわれたのが本件妨害行為である。

 裁判所は本件妨害行為の違憲性を判示し、時計の針を何十年か進める責務を負っている。

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寺澤有
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