非日常の日常(2)

路地裏で拾った少女に手を伸ばしたら、案の定引っ掛かれた。


 黄色い粒子を纏った髪が、湿気交じりの風でふわりと踊る。白くて幼い腕を前に突き出し、小さい両の掌でぱんっと音を出す。この光景を見たのは何度目だろう。それでも口を開けて見入ってしまうのは、起こる筈のない奇跡が、欠伸をするよりも簡単に起こってしまっているからだろう。奇跡だって人を選ぶということだ。俺が掌を叩いたところで奇跡なんて起こらないことは、自分が一番よく知っていた。


 玄関は基本鍵をかけない。不用心だが、取られて困るものは何もない。それになにかと無遠慮な客人が多く、扉が駄目になった数は片手じゃ足りない。俺は鍵をかけるのを諦めた。「ずだだだだだだあ!」ほら、噂をすれば。

「おにいちゃん!きょうもあそびにきたよ、しゃちくごっこしよう!」
 
 しない。どこで覚えた、そんな鬼畜ごっこ。

 玄関を勝手に開け、泥だらけの靴を乱雑に脱ぎ捨てた後、勝手知ったるなんとやらで俺の部屋に騒がしく登場したこの幼女は丹羽日和(にわひより)。先に言っておくが、俺はロリコンではないし、お伝えした通り彼女が勝手に入ってきてるわけで。そのへん、誤解しないでほしい。ロリコンではないので。そのロリが何で勝手に上がり込む美味しい展開になっているのかというと、この家に越して間もない頃のこと。玄関先で困っていたところをお隣さんに助けてもらったことがあった。そのお隣さんが丹羽家。母親も陽気で気さくな人で少々大雑把、俺に懐いて離れない日和をみて「あらあ、随分遊びごたえがありそうなおも……おにいさん見つけたわね。よかったわねえ。」こけけ。じゃないんだよ。あと、おもちゃって言おうとしていたのを、俺は絶対忘れない。

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