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#2-17 赤ピステの人(自主)

 ──2023年5月1日月曜日。
練馬から新宿、新宿から総武線に乗り換えてガタンゴトン、とかれこれ1時間、私は錦糸町にいた──。「錦」は「金」で、総武線、南口のヨドバシカメラ、北口のドンキホーテの「黄」。黄金の町、錦糸町──。
 錦糸町にきた時は必ず立ち寄る場所がある。南口の大道路を渡ったところにある「WINS」だ。いつ行っても紙とペンを持ち、競馬中継を食い入るように眺めるおじいちゃんたちで溢れている。WINSに集まるおじいちゃんは素晴らしいファッションをしているし、何よりフィッシングベスト率が高い。なぜなら大量の馬券と競馬新聞とペンを保管しなければらないから。そういう時には、大量のポケットがついていて且つさっと取り出せるフィッシングベストが役に立つ。都会にはオーバスペックなフィッシングベストもWINSのおじいちゃんたちには大層しっくりくる。これが私が求めるNOT PLASTIC FASHIONなのだ、と思いつつモニターの競馬中継を眺めるおじいちゃんたちの熱気に気圧されて、とても声を掛けられそうになかったのでその場を後にする。


 駅前の南口広場に戻ってきた。二組の若者が路上パフォーマンスをしている。その隣では、円形のベンチでなにやらアジアンテイストなタイ土産のようなものを路上販売している人もいる。さらにその近くでは右翼団体が車両を停めて車上から演説をしている。ケイオスな空間に情報の処理が追いつかぬままに辺りを見廻してみると、化繊の赤い召し物が太陽に照らされキラキラと輝く人物を発見した。その人は手すりに腰掛け広場には背を向けている。午後2時過ぎの黄色い太陽と、化繊の赤色の調和が美しく思わず声をかけてみた。

YT「すみませーん!僕カメラマンしてるんですが、年配の方のファッションをテーマに写真撮ってまして。この赤の色合いがすごいかっこいいなと思ったんですけど良かったら写真撮らしてもらえないですか?」

OJ「え、おお、わしでええの?」

 御年70歳だというおじいさんは照れくさそうに了承してくれた。

YT「今は何をされてたんですか?」

OJ「今は休憩しとったとこ。ここら辺のゴミ掃除しとるんや。」

YT「そうなんですね!お仕事でですか?」

OJ「いや、自主で。」

 このおじいさんは自主的に錦糸町のゴミ拾いをしているらしい。しかもほぼ毎日。確かにまだ5月の頭だというのに赤ピステから見える腕は真っ黒に日焼けしている。これは毎日外に出ていないとだせない黒さだ。服装もシャカシャカの上下にスニーカー、両手をフリーにすることができるウエストポーチと、ゴミ拾いに適した服装をしている。ウエストポーチの中には小さめのゴミ袋も収納されていた。

YT「自主で活動されてるんですか!素晴らしいですね!」

OJ「最近は外人が増えてゴミも多くなったわ。」

YT「そうなんですね。頭につけてるこれはなんですか?」

OJ「これは拾ったんだけど、何かはわからん。まだ使えるのに捨てられてるものも多いからねぇ。」

 おじいさんの赤いキャップにはカチューシャのようなものがついていた。僕はこれが気になって聞いてみたのだが、ゴミ拾い中に発見したものらしい。帽子が脱げないように押さえつけているのだそうだ。だとするとこれもまた体を動かすゴミ拾いに特化したスタイリングだと言えよう。ゴミ拾いで得たものでゴミ拾いをする──。なんともSDGsみを感じる。
 ──錦糸町と地球への愛情は、おじいさんを地球と一体化させる。(おじいさんはPlasticでできた洋服を身に纏っている──)






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