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#2-6 ニードルズの人(ニードルズではない)

 ──2022年9月25日、台風も去った連休最後の日曜日。久々の快晴に、練馬駅前の通りには多くの人がいた。この日は久しぶりに朝から山谷に写真を撮りに行こうとしたが、寝坊してしまった。昼過ぎ、家を出て駅前の「ラーメン見田家」で一杯650円のラーメンと無料のライスを食べた。チャーシューをサービスしてくれた。お腹いっぱいで店をでると少し傾きかけた日差しが眩しい。満腹の眠気と想像以上の暑さで家に帰りたくなったが、なんとか気を奮い立たせ駅へ向かう。駅の改札までわずか30mほど。この所しばらくおじいちゃんの写真は撮っていなかった──

 10mほど歩いたところで飲み屋街前の交差点にぶつかる。練馬駅前で一番人が行き交うスポットだ。昼下がりのこの時間は多くの人が飲み屋街ではなく反対側のセイユーのほうへ流れていった。セイユーに流れる一群の中で一際目立つファッションをしたおじいちゃんがいた。久しぶりに声をかけようか。そう思ったもののなかなか癖が強そうな服装だったので躊躇してしまう。しかし、こういった小さな諦めが怠惰に繋がるのだ。ここでも自分を奮い立たせ思い切って声をかけてみた。

YT「あッ、すみません、あの、いきなりすみません。ぼくカメラマンしてるんですけれど年配の方のファッションをテーマに写真撮ってまして、すごくシャツとか帽子の組み合わせカッコイイと思ったんですけれど……。よかったら写真1枚とらせてもらえないですか?」

OJ「えー!?そんな、こんな格好でいいの?なんもかっこよくないじゃない」

 思ったより反応が良くて安心した。いかにおじいちゃんのファッションがカッコ良いかを熱弁し撮影を了承してくれた。

YT「このズボンとかもニードルズっぽくてかっこいいです!」

OJ「ニードルズ?」

YT「あ、はい!そういうブランドです。これはどこで買われたんですか?」

OJ「覚えてないなあ。家にあっただけ。」

YT「じゃあこのシャツはどこで?」

OJ「これもわからんなあ〜。もうむかーしから着てるから。」

YT「靴はどうですか?」

OJ「これもわからんな〜。うちのが買ってくるからなあ。」

 割とこだわりがありそうなファッションだったがなんとも執着していないらしい。なんとなくキャップは愛着がありそうな感じがしたので最後に聞いてみた。

YT「このキャップはどうですか?年季入ってますね!」

OJ「これも本当に覚えてないな〜。服なんて全部家にあって洗濯してないの着てるだけやから──」

YT「Final Answer?」

OJ「ファイナルアンサー。」

 Oh my god!  このおじいちゃんは本当に無欲で服を選んでいるらしい。たまに奥さんのチョイスで全身コーデのおじいちゃんを見かけたりするがそういった人々はどこか品のある服装に落ち着く。この86歳のおじいちゃんのように一見ファンキーなファッションで無欲な人は珍しい。ファンキーな人はどこかしらこだわりがあったり、昔に買った服のことも覚えていたりする。このおじいちゃんのファンキーさは、ただ、洗濯干し中以外の服から適当に選ぶという天文学的なパターンのチョイスから弾き出された奇跡のコーデなのだ。しかもASAP Rockyとおそろのニードルズのズボンも履いているというhip hopさ。(ニードルズではない)

 最近よく考えていた。究極的には「装い」という概念を一切放棄して、衣・食・住の人間の必要最低限度の生活を保つ条件としての「衣」を纏う。そのような無我の境地の中で服を見に纏うことで表れる独特な着こなしや組み合わせが僕の追い求めるファッションなんじゃないかと。突き詰めると狩猟時代の原始人のファッションだろうか──。いや、彼らにも本能的に異性へのアピールとしての装飾の欲望があったのだろうか──。練馬のおじいちゃんから原始時代へと思いを馳せた3連休の最終日。


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練馬のニードルズ(ニードルズではない)


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ASAP Rockyとおそろのズボン(ニードルズではない)


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家にあったボディバッグ

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