#2-9 カスタムする人
──2022年11月2日、この日はとあるファッションブランドの撮影のため6日間の休みを取っていた。ぶっちゃけ撮影自体は2日有れば大丈夫だが、冬の鋭い光が差す晴れの日に撮りたかったので天候の予備日も考慮しての6日間だ。
有難いことにこの日は快晴。最高気温も22°といい撮影日和だ。正午、ぼくは池袋にいた。ほんとはもっと早くから撮影したかったが寝坊してしまった。ファッションブランドの撮影ではおじいちゃんをモデルに撮ることになっていたのでおじいちゃんを探しにここ池袋a.k.aアンダーグラウンドに来たのだ。素人のおじいちゃんに街中で声をかけてブランドの服を着てもらって撮影したことがなかったので受けてくれるか一抹の不安はあった。世田谷や江東区のような落ち着いた街ではなんとなく難しい気がした。もっと雑多で人がゴミゴミしていて人々の警戒心が麻痺した街──。かつ渋谷や新宿よりは年齢層が高い街……。
──様々な思考を巡らし、最終的に蒲田と池袋がロケハントーナメント最終候補に残った結果、人の多さからここ、池袋a.k.aアンダーグラウンドに軍配が上がった。
仕事なのでいつも以上に気を引き締め、まずは池袋ウエストゲートパークへ向かった。カーブ上の長いベンチにはアングラ感漂うおじいちゃん達が談笑していた。モデル的には相応しいが、輪の中に入っていく勇気はない。遠目で辺りを見渡しながらモデルハンティングをしているとバス停の方にアウラを感じるおじいちゃんが1人、ぽつんと立っていた。とりあえず声をかけに行ってみる。
YT「すみませーん、ぼくカメラマンしてるんですが、ファッションブランドの撮影をしていまして、年配の方をモデルに探してるんですね。それですごい服装かっこいいなと思いまして、ブランドの洋服と組み合わせて撮影したいんですけれどよかったら撮らせてもらえませんか?」
OJ「え、撮影!?おもしろそうじゃない!母さーん!撮影だって!」
玉砕覚悟だったが思いのほか好感触だった。おじいさんは遠くの方にいた奥さんを呼び出し撮影だって、お金もらえるよ、と話している。しばらく話した後おじいちゃんは快く了承してくれた。まさか1人目でOKをもらえるとは!
OJ「いいよ!場所はどこ?ここ?ここで着替えたらいいのね。」
上着を脱いでTシャツを着てもらい、15分ほど広場で撮影した。時折、こう?こうかな?とポーズやキメ顔もとってくれ、かなりノリノリだった。
YT「オッケーです!ありがとうございました!」
OJ「いえいえ、こちらこそ。」
撮影も終わり、元の服に着替えてもらって色々と話しをした。聞くとおじいちゃんは洋服が好きなようで、現在71歳だが歳を取る毎にもっと派手になりたいとのことだった。アメリカに憧れがあるらしい。
YT「てかこのジャケットカッコいいですね!これどこで買ったんですか?」
OJ「これは近所のスポーツ屋で買った。」
YT「半袖のジャケットて珍しいですね。」
OJ「これは元々長袖やったけど、ある日洗濯機入れたら袖がビリビリなってね。お気に入りやったから買った店で半袖にリメイクしてもろたんや。」
YT「かっけぇ!」
ストイックすぎるSDGs精神に心を打たれた。半袖のナイロン製スポーツジャケットという非常に着用シーズンが難しいアイテムだが、それでもお気に入りだから着たいという思いで魔改造を施したのだ。おじいちゃん、その心意気こそが究極のファッションです。
YT「このタオルはなんですか?」
OJ「これはジャイアンツのサイン入りタオル。友人からもらったんや。最近勝ってないけどな!」
YT「いいですね!この首のチェーンもカッコいいですね!高そうですね。」
OJ「いやあ、安もんよ。これ本物じゃなくて磁気やから。これやったら磁気に見えへんしかっこいいやろ。」
YT「そなんすね!かっこいいっす!このポロシャツはどこで買ったんですか?」
OJ「これはリサイクルストアで買ったわ。やっすいよ。そんでこれは夏場とか前だけじゃなくて後ろにもラインが入っとるやろ。それがお気に入りやねん。派手でええやろ。」
チープなアイテムながらおじいちゃんなりの拘りがあって話しを聞いていて楽しかった。ポロシャツなんかは僕から見たらなんてことないデザインだったがおじいちゃんの解説を聞いてなるほど、そういう捉え方もあるなと思った。アートだった。
YT「ちょっと私服もかっこいいんで撮らせて貰ってもいいですか?」
OJ「あ、いいですよ!」
──撮影が終わりしばらくすると、おじいちゃんは広場の木陰にシートを引き数人の老男女と酒盛りを始めた。また、この場所に来ればあのおじいちゃんに会えるな。他の服も見てみたい。半袖が長袖に変わる季節、僕はまたこの場所に来よう──