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2025年1月に読んで面白かった本5選

マイケル・ライアン、メリッサ・レノス『映像分析入門』フィルムアート社

凄く面白い。「映画がなんとなく好きなんだけどもっと深く考えてみたい」と思ったことがある人は絶対に読んだら面白い。技術的な分析と批評的な分析の2部構成になっていて、どっちからでも、目次を読んで関心のあるところから読んでも面白い。

例えば自分が好きな映画の1つに「マージン・コール」というのがある。この映画で不良債権の大量保有が発覚し、その対処についてエレベーターの中で2人の行員が議論するシーンがある。なんとこのシーン、議論する2人の間にオフィス清掃員が立っている。他の階で降りるオフィスワーカーに聞こえないよう注意する一方、清掃員の存在には目もくれない。この本を読めばそれを構図・カメラワークといった技巧から分析したり、イデオロギー的にも、政治的にも批評できるようになる。

ただ一点、院の授業で「映像論」なる授業を取ったものの期末レポートの提出日を間違えて単位を落としたのを思い出すことになった。

谷頭和希『ニセコ化するニッポン』KADOKAWA

正直、読む前は帯の面々がそれで良いのかは非常に疑問だったが、読んだ後にこの本だからこそこの帯のメンバーになるんだということを実感する。シンプルかつ雑に言ってしまえば表題の時点でオチがついてしまっていると言っていいくらいに内容が薄い。これだったらもっとニセコに住んでみたり、そうでなくともそれなりの期間滞在するなりした方が中身のある本になったと思う。

それでも面白いと思ったのは、この「ニセコ化」という概念を今後どのように取り扱うのか、それ次第では大いに面白い分析の出発点になりえる本だからだ。この本を読んだだけでは「ニセコ化」がショッピングモーラザイゼーション(ショッピングモール化)、指導教員は「都市の埼玉化」と呼んでいる現象とどう異なっているのかが分からない。つまり「ニセコ化」の独自性の輪郭がかなりぼやけている。

本のそでの部分にあるプロフィールを見ると筆者は早稲田の院で何かしらのトレーニングを受けた「都市ジャーナリスト」であるということで今後に期待。

ジェームズ・ホフマン『最高に美味しいコーヒーの淹れ方』SBクリエイティブ

最高過ぎた。この本を読む前と後では全く違うコーヒーを家で飲んでいる。

この本は何と言っても装丁がかなり良い。持っていたくなるし、定期的に読み返したくなる。写真もきれいでもちろんカラーなので単純に眺めているだけでも満足感がある。

そして何と言ってもレシピ通りに淹れたコーヒーが美味しい!これ以上のことはない。色んな本で美味しいコーヒーのレシピは出ているし、大差はないが装丁とページデザインの2点でこれに秀でるのはないと思う。

佐々木隆治『なぜ働いても豊かになれないのか』KADOKAWA

タイトルに妙な聞き覚えがあるが、わざわざ触れるような野暮なことはしない。が、おそらく意識したであろう「新書」よりも現代社会批判の根は深く深く、より理論的に展開されている(何と言ってもマルクス本だし!)。

数多のマルクス解説書との違いは働いても豊かになれないという現代の労働者の多くが実を持って感じている疑問に沿った形で論が展開されている点にあると思う。かなりマルクス入門者を意識して平易な表現や記述になっていることもあってかなり読みやすい。

1つだけ注文をつけるなら、結論部がそりゃそうだろうという落ち着き方に留まっている点ではないだろうか。とは言えどこぞの東大准教授様と違ってラディカルな(非現実的な!)解に振り切らなかったのには実際に苦しむ労働者に寄り添うものであるような気もした。

マイケル・サンデル、トマ・ピケティ『平等について、いま話したいこと』早川書房

サンデルってこんな奴だったっけ…?となってしまった。正直、『公共哲学』ほどのインパクトは(やや当然ながら)なかった。とは言え、ピケティとの対話を通して両者の主張、立場の相違点が分かるということ、そもそも「平等」をどう考えるべきか、その材料が揃うという点では面白かった。改めてピケティを読み直すか…という気にさせられたのでその一点だけとっても読む価値のある1冊。あと結構薄い。


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