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2024年11月に読んで面白かった本10選

読書の秋、面白い本が豊作すぎた。どうにか「5選」でやろうと思っていたのに早速2倍にしてしまった…

先月、10月の5選はこちら


人文書

ジョン・ロールズ『正義論』紀伊國屋書店

言わずと知れた現代哲学・倫理学の名著。正義とはなにか?について考えるあらゆる本や論文で絶対に参照されていると言っても過言ではない。そしてこのロールズを批判的に引き継いだのがみんな大好きマイケル・サンデル。正直サンデルよりもロールズの方が本としては面白い気がする。

いったん愛しはじめると、私たちは傷つきやすくなる。愛すべきかどうかと考える心積もりを持ちながら愛することはできないー言えることはそれだけにとどまる。そして、いちばん心が痛まないような愛は最善の愛ではない。

ジョン・ロールズ『正義論』紀伊國屋書店 p.754

斎藤環『イルカと否定神学』医学書院

「対話ごときでなぜ回復が起こるのか?」と聞かれたら読みたくなってしまう!そしてラカンやベイトソンといった、門外漢からは「ごちゃごちゃ哲学してた人たち」が参照されながら、精神分析の奥地に踏み入っていく感覚が面白かった。「主体性の(再)獲得」がキーのような気もするけど、(確か)フーコーは主体性とは何かに従属することだと言っていた気がしており、すると何に従属することになるんだろうとは思った。ただし、本当にそうなのかは全く判断できなかったのでそこは勉強が足りなかった。精神分析、精神医療には継続的に関心を持ってるので12月はもう少し勉強しようと思う。

小西雅子『気候変動政策をメディア議論に』ミネルヴァ書房

なんでもっと早く読まなかったんだ!という一冊。そしておそらく博論本なのだけど、この著者の経歴がすごい。実践の現場とアカデミアを往復しながら練られた実践知でもあり、アカデミアで脈々と積まれている集積知でもあり、非常に面白かった。自分の研究に引きつけると、国際NGOでさえ、かなりメディアアジェンダ設定に苦労している中で、より規模が小さいNPOがむしろ、既存メディアと距離を取っている感覚が気になっている。取材はぜひしてほしいけど、その感情は一筋縄ではいかないような。自分の研究も進めてくれたので大感謝。

近藤絢子『就職氷河期世代』中央公論新社

何かと議論になる「就職氷河期世代」の実相を様々なデータをもとに素描していくという本。就職氷河期をトリガーに少子化が起きたというのはかなりの確度で謬説という。雇用の不安定化はその個人の子どもを持つ/持たないの選択に影響していたとしても、それは世代に一貫して言えることでは必ずしもないということ。未婚率についても、より詳細な検討が必要であることが述べられているので、経験に基づく世代論とか、あるいはそれを政策にまで上げるというのはやはり危険で、足元でこういった地道な検証を進めていった上で色々と決めていかないといけないよねぇと。

佐藤郁哉『リサーチ・クエスチョンとは何か?』筑摩書房

名著!名著!名著!質的研究の大家、佐藤郁哉先生の入門書。これは卒論書く学部生から院生、ビジネスパーソンまで展開できるんじゃなかろうか。問いの立て方系統では、『リサーチのはじめかた』(筑摩書房)、『リサーチクエスチョンの作り方と育て方』(白桃書房)などがあるけど、それよりも手前で読める一冊。

田野大輔『愛と欲望のナチズム』講談社

『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波書店)や、『ファシズムの教室』(大月書店)でも知られる田野大輔先生の本の増補版。埼玉県の公営プールの水着撮影会が中止になった出来事とか、もっとダイレクトには政治家が子どもを産めと言ってみたり、そういう一見ただの問題発言に見えるものも、よく見てみるとナチズムへと道が続いているというように見えた。これぞまさしく「性権力」だなぁと。

文芸書

村上春樹編訳『恋しくて』中央公論新社

良い。11月じゃなくて12月に読んでも良かったかもしれない。村上春樹が選んだ海外の短編を自分で訳したアンソロジー。 (心が)疲れた日の夜に読むと心穏やかに、快適に眠れる。

サイエンス

リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』紀伊國屋書店

もっと早く読めば良かった!生物は遺伝子の乗り物であると考えたときに、社会性昆虫などに見られる利他的行動は遺伝子を残すための利己的な行動と読めるという、ダーウィンを継承しているらしい。相当分厚い本だけど、具体的なエピソードで説明がされていたり、かなり読みやすい。半年後くらいにもう一回読みたい。

リチャード・ランガム『善と悪のパラドックス』NTT出版

ヒトラーは愛犬家で犬が死んだときに触れられないくらい泣いていた話から、人間の善性と悪性のパラドックスを自己家畜化をキーワードに読み解いていく一冊。結局ちゃんと自己家畜化を勉強してなかったのでそこは積み残しだなと思いつつ、かなり面白かった。単に進化生物学的にどうかって話も大事なのだけど、toxic masculinityをどう解毒していくのかっていうことももっと考えないとこの構造は変わらないんだろうなと思う。

森山徹『ダンゴムシに心はあるのか』山と渓谷社

これも面白かった!心はあるらしい。そしてこの本を買った本屋の人の話によると、著者の森山さんは今、モノに心があるという仮説を検証しているらしい。心を機能として捉えるとこういう論の立て方になるんだろうなと思った。ただ、そこまで無機的に心って定義できるんだろうか…とも思うわけで。ただ人間とその他の種の決定的な違いに高度な言語コミュニケーションがあると仮定すると、心とはなんぞやとぐじゃぐじゃ言ってるだけなのかもなと思ったり。いずれにしても、こういうあり方で「心」を定義するといわゆる動物倫理学の議論とも接続されていくんだろうなーと思った。

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