ヒクドラ3公開に際していろいろ思うこと。

僕の身の上としては、アニメファンであり映画ファンである。ゲームも好き。ただ映画コミュニティには全くなじめていない。映画関連で同好の士はいるが、公衆の面前では明確に自分を蚊帳の外に置いてくる。まあアルファの人とやりあっちゃったので、その対面もあるのだろう。裏では仲良くって中学生の集まりかと。

TIFFの予定を9/26にチェックしたら、喜ばしいことに「ヒックとドラゴン」シリーズ最新作「聖地への冒険」の国内プレミアが決定していた。
ついでに「1」「2」の劇場上映も行われるとのこと。「2」はBDソースの土佐廻だけだったので、めでたい話ではある。

が、この映画を取り巻く話題が少々もにょるんですよねえ。個人的に。

「2」日本公開のめどが立たずに映画クラスタのアルファツイッタラーの方が署名運動を起こしてたり、
「3」公開に際しても似たような運動を別の人が起こしてたりしたわけです。
運動に関しては文句とかないです。憲法にのっとった権利の行使です。100人中100人に肯定されるべき自由です。

でまあそれはいいんですがね。

「1」の公開が2010年8月だったんです。シネコン数百館規模で、
当時ドリームワークスアニメの配給を受け持っていたパラマウントジャパンによるTOHOシネマズチェーンでの大規模公開だったんです。

ですが、知るかぎり細田守監督や岸本斉史先生・暁月あきら先生(めだかボックスの作画担当)・奥浩也先生・虚淵玄先生・桂千穂先生など
創作界隈のそうそうたるメンバーが絶賛していたにもかかわらず、映画ファン層にはリーチせず、
夏の大作としては「2」の公開を見送りにせざるをえない成績で終了しました。

で、当時の映画ファンが何をやっていたかというと。

まず当時のトレンドが、
「トイ・ストーリー3」
「インセプション」
「踊る大捜査線3」
「借りぐらしのアリエッティ」
「BECK」
「ザ・コーブ」(おまえらこのタイトル忘れてただろ)
あたりでした。

映画ファン・クラスタもこの辺の話題でもちきりでした。
もちろん、「トイ3」「インセプション」は絶賛
「踊る3」「アリエッティ」「BECK」は当時最盛期であったラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」の熱気も相まってみんなDISに夢中でした。
BECKに至っては映画秘宝詩で「BECKに絶句!」なる1ページ特集まで組まれ、
オーケン他数名のミュージシャンに自腹切らせてDISらせるというページもありました。
(当時映画ファン最大の敵に設定されていたのが堤幸彦とテレビ局だった。町山智浩氏への忖度もあって加熱化していた)

でまあ話題のウエイトとしては、「踊る3」「アリエッティ」「BECK」DISが圧倒的に勝っておりました。

さらに「ザ・コーブ」が捕鯨をテーマにしたドキュメンタリー映画であったため、
日本DIS→「右翼による公開差し止めが示唆される!表現の危機!」→公開を求める運動が発生
とかありました。映画ファンのみなさまがたはそういったところに夢中でした。

じゃあ「ヒクドラ」はどうなの?……まあこれだけの運動が起きていれば相手にされるはずもなく。
一部の聡いマニアは取りこぼさずに済んでます。僕は3D版を5回見た。前売りも買っていたので、特典のストラップ(ヤフオクで5000円くらいしてた)持ってます。

ヒクドラの特集組んでた雑誌は少なく、キネマ旬報の桂千穂先生のロングレビューと
“あの”はやりものしか追いかけないような映画ファンから嫌われているCUTがインタビュー掲載した程度。ちなみにメインは『けいおん!』特集だった。
CUTは当時から嫌われていたけど、ここでは誰に恥じ入ることのない仕事をしていたのである。えらいと思った。

ちなみに映画秘宝は上述の怒りをあおる運動に夢中だったため、当時はヒクドラのヒの字を出すこともなく2010年を終えました。
あと宇多丸氏が注目していましたが、レビューは映画公開終了間際。彼も秘宝の側の人間だったので仕方なし。

当然、興行収益は期待ほどの数字に届かず。この「無視」のつけは、「2」の未公開になってヒクドラのファンに帰ってきます。


2012年ごろ、「2」公開の知らせを聞いてファンは沸き立ちましたが、
一向にプロモーションが始まらない危機感を募らせていた人も少なくはありません。私もその一人でした。
そして時がだんだん立って、2014年。北米公開になっても日本公開が決まらない。
ドリームワークスアニメの権利はこの間に20世紀フォックスに委譲しておりました。

そこである日、映画ファンの一人が署名運動を蜂起。
千人単位のtwitterフォロワーを持つアルファの方であり、
運動の機運が高まると取材を受けた際に実名と職業がデザイナーであることを公表。
ヒーローとして名を遺すところです
署名運動には、主催も含めて多くの人が「公開当時劇場で見逃したので」と書いておりました。

公開が一向に決まらないので、署名運動に参加した人たちは20世紀フォックスジャパンのバッシングを始めました。
そして、2014年のアカデミー長編アニメーション映画賞発表時、ビデオスルーが決定。
署名運動に参加した人たちは、20世紀フォックスジャパンのtwitter担当にに「恥を知れ!」などのリプライで暴言を浴びせました。
まさしく怒りのバーゲンセールです。「踊る3」「アリエッティ」「BECK」「ザ・コーブ」で暴れまわって
「1」を未公開に追い込んだ人たちのオアシスが完成しました。

そこに映画秘宝も参戦。「1」公開当時無視し続けたにもかかわらず言うに事欠いて「日本未公開に怒りの鉄拳!」だそうです。
(もっとも、映画秘宝には「スターウォーズ/エピソード1」の情報リークで試写室を出入り禁止にされた怨恨がある。
 叩けるチャンスができてよかったですねえ、と当時冷笑したものである)

ちなみに大量の署名を集めながら未公開に至った理由は素人でも推察できて、
当然ながら「1」公開当時に、ほかの映画にかまけて劇場に足を運ばなかった人たちがメイン層を占める。
署名運動では、この人たちが10回どころか1回だって見てくれる確証が持てない。アルファ様に忖度しただけの可能性だってある。
おまけに「2」を公開に持って行けたとしても、
だれかの鶴の一声でほかの映画に話題が移っていれば、そっちに客が流れるのは火を見るよりも明らかである。
そんな負け分の多い博打、打てるわけがない。不義理な人間のためになんで腹を切らねばならないのか。

それでもソフトリリースキャンペーンに際し、別部署のホームエンタテイメント部門が
全国の公民館を間借りして土佐廻で上映会をやってくれたというのは、もう心意気だろう。聖人だろう。
なにもフォックスを持ち上げるわけじゃないけど、コケさせてしまった時の配給はパラマウントだったし、
それを無視してフォックスを攻め続けた署名運動参加者(ファンというにはちょっとはばかる)に
正直ドン引きしたところはある。

僕はヒクドラシリーズのファンなので、一部の映画雑誌だとかアルファだとかの特権階級に怒りをあおる道具にされたのが心底悲しかった。

正直こういう流行りとかイデオロギーを映画より大事にしてるようなどうしようもない人たちに支持されてもうれしくない。
こういう人たちに、このシリーズは殺されたのだ。
映画は喜びを与えるもの――ヒクドラも例外ではない――なのに外野の怒りに食い尽くされてしまった。
ちょっと嘆きたいので思ったまま書いてしまった。

TIFFのチケット(場合によっては特に「2」)はおそらく早々に売り切れるだろうけど
こういう人たちにチケが渡るぐらいならまだ転売ヤーに買われたほうがましかなと思う。

ちなみに僕は「2」は署名以前に日本でまともに見るのは無理とさとって輸入盤で鑑賞。
届いたその日に夜更かしして見て、突込みどころはあっても裏切られた感覚はなく
とても面白かったのを覚えています。「1」でヒックがやったことを逆転させたストーリー構造が素晴らしかった。

時は流れて「3」。公開延期とかいろいろあって、北米では2019年2月に公開。いまのとこ完結編。
当時の署名運動で暴れまわっていた人たちが嘘のように閑散としてて(MTYMさんと一緒にガチの政治系に行った可能性はある)
あまり話題になっていない。そんな中無事に公開が決まってよかったと思う。
ムビチケの販売もオンライン限定でひっそりはじまってたりして、自分もだいぶ遅れて知ることになった。
twitterは作品個別アカウントもなくドリームワークス公式が2000人集めてる程度。
ユニバーサルジャパン・GAGA主導とのことですが、大企業としてはあまり多くない数字。

おまけに最大の懸案事項が、日本の一般公開日が「スターウォーズ/エピソード9」とかぶっているのである。
ここで3DとDOLBY ATMOS劇場の確保がかなり困難となるという……。本当に薄幸のシリーズである。

しかしながら、テレビシリーズがテレビ東京の夕方枠で放送されたりとかもあったり、明光はなくもない。
これが最後というなら、成功してほしいんだけど……

……正直、「エンドゲーム」ヒット後アメコミファン(ここも「2」の署名運動層とかぶる)が
「今までの世界に取り残された馬鹿な日本人がやっと世界のトレンドに気が付いたんだよ!」
などとほざける世の中、ファン層の気質が被ったこのシリーズも例外ではないだろう。

「2」の一件でヒクドラが無意味におたくコンテンツ化した今、
「3」ではじめて触れたファンが何のしがらみもなくこの映画を楽しむことはできるのだろうか。
特に映画クラスタ界隈も選民意識がめちゃくちゃ強い(たとえばtwitterのフォローを返さない=フォローを養分化する/格差を明示するとか)ので、
もうこの段階でリスクをはらんでしまっている。どうか幸あれ。

あと、TIFFのチケが余分に取れた時にそうした普段選民意識が強い層が乞食にやってくるかもしれないが、
チケットや運だけを搾取だけされて使い捨ての踏み台にされるので相手にしてはいけない。
幸あれかし。

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