眠剤遊びと血液採取失敗

覚えていること

私は睡眠薬を2錠、ナイフで砕いていました。
ピルクラッシャーがないので。
ぴょんぴょんと跳ね落ちては拾って
とっても綺麗に粉々にすることができました。

錠剤について

私は薬剤師ではありませんが
その辺の凡人でも分かる知識くらいはあります。

錠剤は大抵糖衣錠です。
お薬本来の苦みを感じさせないように
糖の衣で覆ってあります。

薬の効き目の違いもこの糖衣錠の違いによるものだったりします。
(ジェネリックと先発品とかね)

だから砕くとどうなるか。
そんなことは薬剤師に聞いてください。

覚えていること 続き

私は綺麗に砕けたことが嬉しくて
抗不安剤をもう2錠、粉砕しました。
なんだかこういうのって楽しいですよね。

子どものころ、石を粉砕して遊んだりしませんでした?

石粉砕、意志粉砕。

私はその怪しい白い粉を
黒いタンブラーに入った液体に入れました。
ロックアイスの上のそれは
冬の山のようで綺麗でした。

私は使い捨ての木のスプーンを開封して
タンブラーの底のロックアイスをひっかくように押し上げました。
コークの炭酸ができるだけ抜けないように。

お酒の混ぜ方

シェイクとステアの2種類があることは
誰だってご存じのことかと思います。

炭酸が入ったロングカクテルなんて
振ったら爆発しちゃうからね。

基本ステア。

ステアの方が難しくて
修行中のバーテンダーはシェイクから覚えることが多い
気がします。わからないけどね。

バーテンダーをしていた元カレは
やっぱりシェイクカクテルから練習させられていて
向上心があった彼は実家でも自主練習をしていたよ。

私もそのくらい必死になれる何かがあったら
もう少し違ったと思う?

覚えていること まだある

そして私はそれをゆっくり、飲みました。
あくまで私の中での、ゆっくり。

そのとき飲み物をこぼしたのだけど
これはあまり覚えていなくて
あるのはびしょびしょになって渇いた大切なノートでした。

飲み干したあとはタンブラーの壁面に粉がついていて
「もったいないな」と思った私は水を入れて
ゆっくり回しながら飲みました。

まるで赤ワインの香りを楽しむかのようにね。

覚えていること 思い出したくないこと

ここからは本当に曖昧。

私は自傷行為用に購入した
ビクトリノックスのマルチツールをいじっていた。
お気に入りの刃は一番短いナイフで
それは自分に当てたときに一番力を入れやすいからだったんだけど
何せ切れ味が悪い。

バカと刃物は使いようって?

刺してみたり押したり引いたりしてみたけど
可愛い切り傷はできなくて
私は手芸用に買った黒い鋏を手に取ったと思う。
それは安物だけど、スマートな見た目をしていて気に入っているんだ。

切るところは一応決めていて
手首の橈骨動脈のところ、2cmくらいだけ。
そこは時計のベルトで隠れる位置だし
もし、たまたまとても深く切れたときに
もしかしたら救済が来るかもしれないから
そこに決めているんだけどね。
そこをつまんで、スマートな鋏でチョキンと切った。

いつもよりたくさん血が出ていた気がする。
直径2㎝くらいの丸いクリアケースに血を溜めた。
押し出しては溜めて、繰り返した。
固まってほしくなかったからクエン酸ナトリウムを
少量入れた気がするんだよ。
クエン酸ナトリウムを入れると血液凝固が阻害されるなんて
どんな調べ方をしても出てこないけれど
私はこれをこの前鬱っぽくなったときに購入しておいたの。
どうせまた気分が落ち込んで
自分を傷つけたい気持ちになる日がくるってわかっていたからね。

そのあとにレジンも入れた。
あとで球体にして固めて大切な人にあげようと思ってるんだ。
固めたら腐らないでしょう?

だけどどうしても血液の量が気に入らなくて
私は洗面所に置いてある医療用ニードルを持ってきたと思う。
これは本当にただ、ピアスを増やしたくなったときの為のもので。
瀉血に使おうだとか、自分で静脈血を採ろうなんて
思って買ったものではなかったのだけどね。
とにかく私はその直径2㎝しかない小さな透明の器を
自分の血でいっぱいにしたかったんだ。

だけどどこを刺したって素人が
血管を刺し当てることなんてできなくて
左の手首と肘の裏のところが痛いだけ。

残ったのは痛みだけってこと。


覚えていること もうない

寒くて起きたらそこは私のデスクの下だった。
着ていたトレーナーを脱いでいて裸だった。
薄いタオルケットに包まっていた。
トレーナーはその辺にほっぽってあった。

私は何が何だか分からなくてとりあえず服を着た。

デスクの上には真っ赤なおつまみのカスが残った
透明のガラス皿があって、飲みかけの水があった。

何時から飲み始めていたのかわからないけど
起きたのは深夜1時で、いろんな人に連絡をしたから
これはちゃんと合っている。

「ぶっ倒れてたわ~」って送ったら
みんな「大丈夫?」って聞く。当然。
大丈夫かどうか私も良くわからなかったけど
別にどこか痛いわけではなかったし
少し寒いだけだったから寝る準備をしてまたすぐに寝た。

今痛いところ

心の痛みは少しマシになった。
心臓に痛覚はありませんからね。
だけど嫌なことを思い出したとき
心臓がキューって締め付けられたりしませんか?
私は久々にその感覚に陥ってとてもとても苦しかった。
締め付けられたあとは全身から血の気が引いていく。
気持ち悪い感覚。

あれ、思春期の頃はずーっとあったんだよね。

それで思春期の頃のこと少しだけ思い出したんだよ。
アイツのこと。
20代後半にもなるようないい歳した大人の男。
まだ中学生の私を呼び出そうとしていたあの男のこと
思い出したの。

あ、ここか、私の触れられたくない部分。

気づきました。
気づいてから少しの間は苦しいのが続いたけど
今は少し落ち着いています。
思い出せたことが一歩前進。
向かい合うのはまた今度。

左腕は肘と手首が痛くて
ついでになぜか左足も歩くと鈍痛がある。
手首はニードルで2回くらい刺した痕があった。
どう考えても採血なんてできなそうな位置に穴があった。
本当に酔っぱらうと人ってバカだね。

そうそう、ワイヤーも出してあったんだよ。
細いワイヤー。
私はそれで腕を縛り付けて血管を浮き出させようと思っていた。
だけど準備している間にそんなことはすっかり忘れて
身体を刺すことをとても楽しんでいたように思う。
刺したくて仕方がなくて腕を縛るのを忘れたとしか思えないんだもん。

自傷行為ってそもそも楽しむものなのかな?

でも結果として心臓がきゅっとするのも
血の気がさっと引くのもなくなったよ。

だから今とても気分がいい。

でも大切な人にはしばらく会えないね。
だって私の傷を見るとものすごい悲しそうな顔をするんだもん。
見てられないよ、あんなの。
あなたのせいではないのにどうしてそんな顔をするの?

あと、あいつにもしばらく会わない方がいいかもね。
私の傷を見るとなんだか気持ちが萎えちゃうみたい。
私も向き合ってないけど、彼も向き合う気はなさそう。
だって別に大切ではないものね。
だけど無視できないんだね。
優しさなんて感じないし悲しみも感じない。

「理解できない」っていう視線だけ向けられるんだから
たまったものじゃないんだよ。
私は理解して欲しいなんて一度も頼んでいないわけだから。
それで勝手に見て勝手に萎えるんだよ。
私には理解できないね、そっちの方が。




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