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No.09:運動中の脳活動の左右類似性|今週の論文

はじめに

 私たちの手足の運動は運動野という脳部位からの指令によって起こります。右側の運動野は左半身を、左側は右半身を支配しており、手足に伝わるまでの経路の間で交叉が起きていると言われています。
 つまり、右手を動かしている時は左側の運動野が活性化し、左手を動かしている時は右の運動野が活性化します。

 しかし近年、対側(脳と逆側)の運動中だけではなく、同側(脳と同じ側)の運動中にも活性化することが明らかになってきました。

 今回の論文ではその同側の脳活動の機能的役割を明らかにすることを目的とし、機械学習を用いて、同側と対側で脳波のどの周波数帯が運動に影響しているかを明らかにしました


ヒト皮質脳波の高周波帯における対側および同側運動間の神経パターン類似性

Neural pattern similarity between contra- and ipsilateral movements in high-frequency band of human electrocorticograms
(Yusuke Fujiwara, Riki Matsumoto, Takuro Nakae, Kiyohide Usami, Masao Matsuhashi, Takayuki Kikuchi, Kazumichi Yoshida, Takeharu Kunieda, Susumu Miyamoto, Tatsuya Mima, Akio Ikeda, Rieko Osu, 2017)


【Introduction】
 Precentral motor cortexは脳梁を介して相互に結合しており、対側運動だけでなく同側運動に関連すると考えられている。
しかし、これまでの研究では同側と対側の神経表現に関する類似点や相違点は明らかになっていなかった。

 そこで本研究では、同側運動はprecentral motor cortexの対側運動と同様のメカニズムでコード化されるという仮説を立て、それをクロスデコーディング技術で検証をおこなった。

 具体的には、先行研究から運動に関連する脳波は周波数帯によって異なる挙動を示すことが明らかになっているため、本研究ではどの周波数帯が対側と同側で同じようなパターンを示すのかどうかを検証した。


【Method】
 実験では「手首を伸展」「肩の外転」「足首の背屈」を含む手足の運動を10秒間自分のペースで100セットおこなった。
 被験者は全部で3人おり、被験者1は手首と肩、被験者2は肩と足首、被験者3は3つ全ての運動をおこなった。
 運動中の脳活動はECoGを用いて計測し、運動開始のタイミングはEMGで計測した。

 計測したデータを元に、時間周波数解析(FFT)をおこない、高周波(64〜120Hz)中周波(14〜40Hz)低周波(2〜8Hz)に分類した。
 また、デコーディングには運動開始から0〜0.5秒の時間を使用し、L1-正則化SVMを用いて各被験者ごとに運動カテゴリーの分類をおこない、検証にはnested cross validationと呼ばれる交差検証法を用いた。


【Result】
 全ての周波数帯のデータを合わせてデコーディングをおこなった結果は以下の通りだった。

(本文 Fig4から引用)

 図Aはトレーニングもテストも対側どうし(Contra)、もしくは同側どうし(Ipsi)でおこなったものである。
また、図Bはクロスデコーディングをおこなったもので、同側でトレーニングし対側でテストしたもの(Ipsi>Contra)と、対側でトレーニングし同側でテストしたもの(Contra>Ipsi)の結果である。
 Contra内、Ipsi内のデコーディングはもちろん、精度は落ちるものの、クロスデコーディングの結果も有意にチャンスレベルを超えた精度を持っていた。
 このことから、運動のカテゴリーによって運動野に違いが生じ、それぞれ対側でも同側でも類似した脳活動が起こることが明らかになった。

 また、どの周波数帯が影響しているのかを明らかにするために、同様の解析を周波数帯ごとにおこなった。
 その結果、どの組み合わせでも高周波数帯において最も精度が高く、対側でも同側でも高周波帯が運動パターンの違いを表していることが明らかになった。

(本文 Fig6から引用:帯域別クロスデコーディング結果)


【Discussion】
 今回の研究から、運動のカテゴリーはprecentral motor area とS1 において高周波帯にあらわれており、対側と同側で類似した神経活動が起きていることが明らかになった。つまり、両側間運動野の神経活動パターンは類似していると考えられる。

 過去の研究から、同側の脳活動は対側の活動の力制御やタイミングの制御等精度を高める効果があると考えられている。しかし、その抑制機能と両側間運動野の神経活動のパターンは明らかになっていない。
 それを明らかにするために、片側半球内で対側および同側の活動の混在パターンを分離する、より高度なデータ分析が必要だと考えられる。


おわりに

 今回の論文は以上です。

この論文で明らかになったこと
・運動野において同側と対側で類似した神経活動が起きている。
・運動の種類の違いをより顕著に表しているのは高周波数帯である。

 今後の課題として、同側と対側の類似性がどのような役割を持っているのかを明らかにする必要があると書かれていました。

 これを明らかにすることで脳の疾患により運動に障害を抱えている患者さんに対する、新しい治療法やリハビリテーションの方法の発見に繋がるかもしれません。


*最後までお付き合いいただきありがとうございました。
*もしおかしな解釈等ありましたら教えていただけると助かります。


 


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