「Co-Write Day」で生まれたたくさんのストーリーを、音楽と一緒に届けていきたい理由
9月29日、30日に福岡で開催された「Co-Write Day FUKUOKA」。日本とアジア3カ国のミュージシャンが参加したショーケース・ライブでは、「コライト・キャンプ」で制作したばかりの楽曲も披露された。
イベントを主催するNamy& Inc. の高波由多加氏は、前回のインタビューで「コライト・キャンプでは、何気ない暮らしの中で楽曲が生まれる体験を作りたい」と語っていた。コライト・キャンプで楽曲制作をするミュージシャンの姿を見守った高波氏は、「Co-Write Day」にどのような可能性を感じたのか。改めて話を聞いた。
ストーリーのある曲は心にヒットする
「Co-Write Day」で作られた楽曲が、もう、めちゃくちゃ良かったんですよ。
ミュージシャンが生活を共にしながら楽曲制作をしたら、おもしろい化学反応が起こるだろうと予想していましたが、裏切られましたね。いい意味で。
まだ未完成な状態だったけど、すごく心が揺さぶられました。聴いたことがありそうなのに、聴いたことがないジャンルで……。不思議でかっこよくて素敵な楽曲なんです。「これは売れる」と感じたし、ヒットするイメージがわきました。
一般的に「売れた」と認識されるのは、ストリームの再生数が1000万再生とか1億再生を超えた時。再生数がミュージックビジネスでも目標とされ、A&R(Artists and Repertoire)の指標にもなっています。再生数が楽曲の一つの価値として捉えられるので、それを目標とする意味を、僕ももちろん理解しています。
だけど、僕が「売れる」ということを考えるときは、歌詞とかメロディーとか、楽曲が生まれたストーリーなどに心が打たれる体験、「心にヒットする」体験を大事にしていきたいんです。
自分の心にヒットした曲を誰かにシェアしたくなって、シェアした先の誰かの心にまたヒットして・・・みたいに、ヒットが連鎖していったら嬉しいですよね。そのほうがインスタントじゃないし、意味があると思っていて。
SNSマーケティングを通して広がっていくのとは違う、ちょっとアナログ的な広がりなのかもしれないけど、「Co-Write Day」ならそうしたヒット曲を作れるんじゃないかと感じました。
新しいジャンルの曲を生み出す可能性が「Co-Write Day」にはある
音楽はすでにいろいろなジャンルや音がありすぎて、新しいジャンルの曲と出会うのは難しい。でも、「Co-Write Day」なら、まだ聴いたことがなかった新しい曲を作れる可能性がある。世界中の人に「なにこの曲!」という、驚きとワクワクと感動を届けられるイメージができるんです。
それは、参加するミュージシャンが、普段の活動ではできないことにチャレンジしたり、国や言語や文化も違う者同士が、体験を共有をしたりしながら楽曲を作るからです。
実際に、9月のコライト・キャンプでは、「まだまだこんな面白い音楽が作れるんだ!」という感動がありました。
シンガポールのYAØと日本のChocoholicは、どちらもR&Bが好きなミュージシャンということでみれば、同じルーツを持つミュージシャンになります。でも、影響を受けた音楽を深掘りしてみると、一方はオーバーグラウンドで一方はアンダーグラウンドだったりする。お互いに同じジャンルの音楽を作っているように感じていても、実は違うんです。育った国の文化や日常の暮らしも違うから、「そうだよな」と思うかもしれませんが、ふだんの制作ではその違いを意識することはあまり多くありません。
お互いのことを知り、ほんの少しの違いを意識したり、今までとは違った方法で楽曲制作をしてみようとミュージシャンが思ったりすることがコライト・キャンプの面白いところなんですよね。
台湾のVUIZEと日本のAi Kakihiraも、言葉の違いを超えてマジカルな化学反応を起こしていました。そのマジカルな楽曲制作のプロセスを間近で見てしまったので、「Co-Write Day」なら、国も言葉も文化も超えた、新しいジャンルの音楽が作れるという可能性を感じずにはいられません。
「新たなジャンル」とまではいかなくても、「聴いたことがあるようでないエッセンス」を含んだ楽曲が生まれるんじゃないかな。
国も文化も言葉も違えば、お互いにわかり合えないこともあるから、楽曲が完成しないリスクもあります。でも、それも人間なんですよ。話し合ってみてどうなるかわからないのは、恋愛と一緒かもしれないですね(笑)。
「Co-Write Day」では、わかり合えないことはわかり合えないんだと受け入れながら、ミュージシャンがふだんの活動ではできないことに取り組める機会になればいいなと思っています。全部がハッピーエンドじゃないかもしれないけど、偶然の出会いから生まれる面白さに繋がる可能性を大事にしたいと思います。
ミュージシャンの出会いのきっかけになれば嬉しい
今回は、少しでもライブに集客できるよう、国内アーティストの数を多くしていましたが、次にもし開催するとしたら、シンガポール、マレーシア、タイなどアジアのアーティストの出演を増やして開催するほうが振り切れていいのかなと思っています。
共作する相手と、より良いパートナーシップを作っていきたいと思うアーティストが集まる場作りをしていきたいです。海外のミュージシャンとコライトできる場があって、声をかけてくれる人がいる。何より音楽を通して海外にも友だちができる流れがいいなと思っていて。
もちろん楽曲は制作して、リリースして、お互いの国に広げ合うっていうセールス活動もやっていく。だけど、「Co-Write Day」で出会ったミュージシャン同士が「今度はうちの国にも来て一緒に演奏しようよ」といった声をかけ合ったり、「今度シンガポール行くからご飯食べようよ」と連絡をしてみたり。間に僕がいなくても、そういう繋がりが増えていったら嬉しいですね。それが一番大事なのかな、とも思います。
そうした出会いを作るためにも、「Co-Write Day」を国内外で広く知ってもらわないといけない。そういう意味でも、楽曲をちゃんと世界に発信して、ヒットさせることが大事だと改めて思います。
ミュージシャンがミュージシャンを知るきっかけも、やっぱり音楽だから。僕がAmPmやその他の音楽プロジェクトでやってきたことを知っていて「NAMYが呼んでくれるなら」と参加を決めてくれるミュージシャンもいます。その期待にも応えたいですしね。「Co-Write Day」らしい楽曲の広がりを作っていきたいです。
コライトっていう考え方が今よりもっと当たり前になれば、「Co-Write Day」に参加したいというミュージシャンが順番待ちをしているイベントになるかもしれませんね。
もっともっとThat'sLife.で
「Co-Write Day FUKUOKA」のトークセッションの中で、「That'sLife.だから」という話をしたのですが、それ以降、That'sLife.と口にすることが増えて、より自分の生き方としてしっくりしてきているような気がします。
もともとThat'sLife.な生き方でありたいなと思っていたし、これまでのプロジェクトも基本はThat'sLife.でやってきました。イベントやプロジェクトや契約等の失敗も多く経験してきたけど、自分がやってきたことを信じて、仲間を信じて、それでダメだったときは仕方ないよねって気持ちでずっとやってきてはいるんです。
仲間を裏切らなければより良いものが作れて、みんなハッピーになると信じている。でもその考えが自分のエゴであることもわかっているから、相手に強要するつもりもなくて。僕が仕事をする時の気持ちは、いつも”Namy&FRIENDS”だけど、あくまで僕自身のあり方なので、社名では”Namy&”と表現しています。
自分がその気持ちでいたらいいというスタンスだったのですが、「Co-Write Day FUKUOKA」では、不思議と「ダメならダメでいいんだよ」ということを言葉にして、周囲の人たちに伝えているんですよね。自社事業でやっているから、ダメだったら自分でどうにかすればいいという状況で取り組んでいるからかもしれないんですけど。「わからなさ」とか「想像できていなかったこと」ってミラクルの種だったりもするんですよね。
トラブルやハプニングを起こさないように準備したり対策したりするのも大事だし、自分が想像できる範囲で物事を進めるほうが安心です。そうした安心を求める感覚は僕にもあります。でも、トラブルが起こると大変だけど、楽しいこともたくさん起こる。
トラブルになった時にちゃんと向き合って対応できる懐を持っておければ、That'sLife.でやっていけるんじゃないかなと思っています。
「Co-Write Day」は、会社(Namy&)としては、今のところは投資してるタイミングで一番儲かってないんですけど、一番楽しいです(笑)。
一緒に音楽を作ることは、一緒に平和を作ること
「Co-Write Day」は、自分の家に大好きな人たちを招いて、おもてなしをする気持ちで開催していけたらいいなと思っています。おもてなしといっても、あれこれ準備して完璧なアテンドをするつもりはなくて、近所の美味しいお店を教えたり、近所の友人を紹介したりするくらい。
楽曲制作とショーケースの参加だけは決まっていて、あとは家の中でゆっくり過ごすのも、散歩をするのも、近所の人と一緒に遊ぶのも自由。どんなふうに過ごすかは、ミュージシャン自身にゆだねていきたいと思っています。
そうした時間の使い方ができるコライトは、数時間だけスタジオに集まって制作をして、解散するといった従来のコライトのプロセスとは違うものです。
一緒に生活をして、音楽による交流や対話の時間を過ごしながら制作した楽曲には、ストーリーが生まれます。そのストーリーは時代が変わっても色あせることはなくて、楽曲がヒットすれば歴史に残るストーリーにさえなる気がしています。
多分、今のように音楽の流行りもインスタントになっている時代の後には、もっと本質的な音楽の価値が見直される時代がくる。昔のフォークミュージックが反戦を掲げて世界中に伝播していったようなことが、またおこるかもしれないと個人的には感じています。
政治や戦争を僕たちがコントロールすることはなかなかできないけど、国イコール人ではないということを、僕は忘れずにいたいし、それを伝えていきたい。一緒に音楽を作って、一緒にライブをやったミュージシャンがいる国と、自分の国が争ってしまうことがあったとしても、お互いの国で同じ音楽を流すことができたら、国を超えて繋がっていられると思うんですよ。そこにいる仲間との絆は、国同士の争いで壊れることはないと僕は信じています。
「Co-Write Day FUKUOKA」の経験を通して、僕は音楽事業をしているけれど、事業のためだけに音楽をしているわけではないんだと改めて実感しています。平和に繋がる文化事業だという気持ちも持ちながら、これからもミュージシャンとの出会いを楽しんでいきたいと思います。
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