「わからなさ」の中で見つけた2人の音楽 - コライト・キャンプ in 糸島市
Ai KakihiraとVUIZEが4日間のコライト・キャンプを行った福岡県糸島市は、福岡空港から車で40 分の距離にある。美しい海と緑豊かな山々に囲まれる糸島は、県内外から多くの人が訪れる人気のエリアだ。
観光客で賑わうエリアから少し離れた場所に、2人が滞在するゲストハウスはあった。ふだんは、都市部である東京と台北で制作活動を行う2人。四方を自然に囲まれた環境で何を感じ、何を語り、どのように曲を作っていったのか。
2人のインタビューと共に、コライト・キャンプ in 糸島の様子をお届けする。
2組のアーティストと主催者のNAMYがCo-Write Dayを振り返ったトークセッションのレポートも合わせてご覧ください。
VUIZE
糸島は本当に素晴らしい場所で、初めて訪れた場所なのに懐かしく感じる場所でした。
滞在したゲストハウスも、近くに住んでいる素敵な家族も、散歩をしていたときに出会った人たちも。誰もがあたたかくて、自分がここに迎え入れられていると感じて嬉しく思いました。
Ai Kakihira
東京で糸島のことを調べながら、デモ曲を作って持ってきていたんです。でも、この場所に立って感じたリズムはデモ曲では表現できていないし、ここのリズムとは合わないなって思って。VUIZEに「ゼロから一緒に作りたい」と相談しました。
VUIZE
Aiちゃんに相談された時はちょっと驚きました。「そのほうが面白いと思う」という Aiちゃんの気持ちも理解できたし、僕もこの環境はきっと素晴らしいものを与えてくれると思っていました。だから、「ここで本当に面白いと思えることをやってみよう」と伝えました。
Ai Kakihira
私がつたない英語で伝えることを、VUIZEは一生懸命理解しようとしてくれる。彼の理解する力、感じる力は本当に素晴らしいなと思いました。
言葉が通じないことに最初は戸惑っていましたが、VUIZEはわかりやすい言葉でゆっくりゆっくり伝えてくれるんですよ。だからすぐに戸惑いや不安はなくなりました。彼の優しさに救われることも多かったですね。
VUIZE
2人とも英語が得意ではないからこそ、非言語のコミュニケーションを大事にすることができました。お互いが発した言葉の音を聞いて、それを音楽に落としていったのですが、そのプロセスが新鮮で素晴らしい体験でした。
言葉が伝わらないことは確かにあったけど、僕たちは共感しあうことができていたと思います。
Ai Kakihira
言葉が通じない中でも、本当にいろいろな会話をしました。翻訳ツールを使っても日本語を話す者同士の会話よりは時間はかかるので、いつもより時間をかけて丁寧に会話ができたようにも思います。
お互いに英語が得意だったら、もっと的確な言葉のやりとりもできたと思うのですが、不自由だったからこそ、気持ちを交換できたんじゃないかなって。
VUIZE
曲作りの最初の一歩目から時間と場所を共有していたことと、制作の過程で言葉に頼りすぎなかったことで、いつも以上にお互いの音楽をブレンドできたと感じています。
楽曲の最初のトラックから一緒に作り始めたのは僕も初めてで、コライト・キャンプならではの体験でした。
朝起きたときに目に入ったのは、リビングに差し込む光と、窓いっぱいに広がる木々の景色。それが最高に気持ちよくて、ギターが弾きたくなりました。
僕はただただギターで遊んでいるだけだったのですが、聞いていたAiちゃんがそれを録音をしていたんです。
録音した音の中から彼女が気に入ったフレーズを切り取ったものが、今回の曲の始まりになりました。 Aiちゃんのセンスは素晴らしいです!
偶然から生まれた曲だけど、それがすごくうまくいったのは、ちょっとカッコいいですよね?(笑)。
Ai Kakihira
素晴らしい曲になったのは、VUIZEの力が9割だと思います(笑)。
そして、土地が持つ特有の雰囲気、力みたいなものの影響も感じています。環境が与える感覚が楽曲に影響するって、本当にあるんですね。久しぶりに東京以外の場所で制作をしてみて、すごく実感しました。
VUIZE
環境は多くの影響を与えると思います。都会にいるのか糸島にいるのか、雨の日か晴れの日か、車がたくさん走っているのか静かなのか。どういった環境かで感じることが違うから、作るものも違ってきますよね。
Ai Kakihira
私は今回、「もう十分なんだな」という気持ちが湧く体験がありました。もうすでに満たされているというか。「あれも欲しい、これも欲しい」と思っていたはずなのに、「もう十分持っているんだ」と感じていたんです。VUIZEも同じように感じていたようで、「私たちはもう十分なんだね」って話をしていました。
それで、この場所で作る曲のアレンジは、本当にシンプルにしようと決めたんです。
それは私にとって大きなチャレンジでした。
Ai Kakihira
ふだんアレンジしていると「この音じゃ足りないかも」とか「もっと音を足さないと聞いた人が物足りなく感じるんじゃないか」と考え出すと、ぐるぐるしちゃうことがあるんですよ。今回は、「十分なんだ」とわかっていたからか、迷うことなくすごくシンプルなアレンジができました。
今まで作ったことがない曲に仕上がってきているので、発表するのが楽しみなんです。
この島で感じたことは絶対に東京での制作や活動にも繋がっていく。もし忘れかけても、曲を聞いたらここの感覚に戻れるような気がするんですよね。
VUIZE
この曲の制作過程について、言葉にするのは難しいです。自分の気持ちを言葉ではうまく表現できないこともあるし、言葉ですべてを伝え切ることはできないですよね。
僕たちはお互いに言葉が不自由だったから、いろいろなことを感じているのに、それをうまく説明できない状況でした。だから、曲を作るときはAiちゃんと「言葉にできないたくさんの感情」について共有しながら進めていきました。
歌詞にも今回の体験を書いてみたけど、歌詞だけでは伝えきれていないかもしれない。
でも、僕の声を聞けばきっと、僕が体験した素晴らしい魔法のような時間を感じてもらえると思っています。
(取材・文)栗原京子/コルクラボギルド
(写真撮影)D.(Daisuke Takanashi)
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