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海岸林の防災機能

海岸林と防災の専門家コメント:平塚海岸林は防災機能に長けた保全すべき樹林

海岸砂防林、保全業務、詳しくはこちら
神奈川県
砂防林 藤沢土木事務所 - 神奈川県ホームページ (pref.kanagawa.jp)

2019年、平塚市は、龍城ヶ丘プール跡地整備計画の設計図案を公表した。
市民要望のあったプール跡地だけでなく、要望にはなかった隣接する海岸林が開発対象に含まれていた。
設計は、積水ハウスによる。

龍城ヶ丘の海岸林は、海岸砂防林の機能を担っている。
湘南海岸林の西部に位置し、日常的に相模湾からの強い南西風を遮ることで後背地の生活の安定を守っている。

2022年8月には見直しが一部行われたものの、海岸砂防林機能の心臓ともいえる多様性に富む中央部をより広く伐採する計画案となっており、一瞥すれば、海岸林の防災機能や風環境の維持が損ねられることは容易に類推された。

神奈川県は、開発に対し、「住民の生活に影響が生じないこと」を重要視するとコメントしている。
海岸砂防林が消えるようなことになれば、相模湾の強風を直接受け、後背地の住民生活が大きく影響を受けることは自明である。

龍城ヶ丘東側樹林帯。四角で囲んだ部分が伐採される
(龍城ヶ丘及び袖ヶ浜南部)

平塚市から生活安全に関する丁寧な説明がないまま、Park-PFI制度を使った民間設計による公園開発には16億円の予算がついた。平塚市及び設計担当の積水ハウスは、海岸林の防災機能を損ねる開発後の現地の暮らしに関して安全性を予測した資料を示すことはなかった。
市民団体らは専門家を招聘して、現地の海岸樹林帯を詳細に観察し、そのうえで平塚市の開発案による影響項目の抽出を行った。

龍城ヶ丘東側樹林帯の視察に訪れた海岸林と防災の専門家
  藤原 一繪 氏 (横浜国立大学名誉教授)
  鈴木 清 氏 (神奈川県森林研究所 元研究部長)
  桑子 敏雄 氏 (東京工業大学名誉教授)
  竹内 進 氏 (元千葉県森林研究センター長)

各氏は折に触れて、現地視察、意見交換、シンポジウムに出席し、平塚市の開発計画に対して防災の観点から数回に及び専門的知見を述べ続けた。以下に、代表的なコメントを抜粋した。


藤原 一繪 氏:厳しい海岸の環境に適応し密植された混交林は津波の減災効果がある


藤原 一繪 氏

長洲県知事の時に県民が築いた「命を守る湘南の松林の再生」が、災害に弱い公園化にさらされています。公園樹木のように根が切られた樹木植栽地の防災力は極めて弱いです。防塩、防砂能力も格段に低いです。平塚市の現在の公園計画を進めることは、市民の生活や市民の為の生物多様性をも犠牲にすることにつながります。市民の命や生活を守れません。

藤原 一繪 氏
横浜国立大学名誉教授

平塚の樹林帯は厳しい海岸の環境に適応した密植された混交林であり、起伏のある砂丘の地形と相まって、津波の減災効果がある。

藤原 一繪 氏
横浜国立大学名誉教授
2020年7月12日、樹林帯観察会


鈴木 清 氏:膨大な量の飛砂への対応力をもつ海岸林


鈴木 清 氏

事業者は袖ケ浜に膨大な量の飛砂がある実態を無視して、実情と乖離した対応をしようとしている。

鈴木 清 氏
神奈川県森林研究所 元研究部長
2021年10月、ひらつか海岸新聞5号

平塚市の整備計画の完成図では、犠牲林が少しあるだけ。
後背地の砂・塩・風の害を防げる新しい技術があるのかと思ったら、どうやらそうではないようだ。

(注釈:犠牲林:海岸樹林帯の海側、海風に煽られて直立で育つことができない低木の風除け役を担う樹木のこと、最大樹高4メートルに満たない)

鈴木 清 氏
神奈川県森林研究所 元研究部長
2022年5月3日、シンポジウム、於平塚ラスカホール

民間事業者によるこの開発が実施されると、前例ができてしまう。
日本中の海岸林が民間の開発によって歯抜けになることを懸念する。

鈴木 清 氏
神奈川県森林研究所 元研究部長
2022年11月27日、花水公民館ホール、住民説明会



桑子 敏雄 氏:レベル2津波に対応できる海岸林

(略歴)
静岡県による清水港江尻・日の出地区津波防護施設整備計画検討委員会委員長、農林水産省東北農政局による東日本大震災と農村復興・振興に関する検討委員会委員長等を歴任。
津波関連の組織のトップを務め、津波への言及には専門性が高く鋭い。

国が進めるグリーンインフラ整備の取り組みに逆行する計画である。
レベル2津波(平塚では9.6メートル)に対応する海岸林を切ることは、平塚市民の生命と財産に関わる問題である。
海岸林が伐採されると、大津波によって第一次緊急輸送道路である134号線が被災し、災害対応に支障をきたす可能性が大きい。

桑子 敏雄 氏
東京工業大学名誉教授
2022年6月29日、袖ヶ浜自治会長小原氏・住民有志との懇談会、於袖ケ浜自治会館



竹内 進 氏:海岸植樹は日本における伝統的営み


竹内 進 氏

日本は何百年も前から営々と海岸に松を植えてきた 。
樹木は切ってしまうとすぐに戻らない。
まず、森林は人にとって良いものであることを忘れずに。

竹内 進 氏
元千葉県森林研究センター長
2022年5月3日、シンポジウム、於平塚ラスカホール



平塚の海岸林は風・塩の害を軽減する

住民による風環境の調査結果を公表

市民団体らは、2021年4月から5月にかけて飛来塩分調査および風速調査を実施した。その結果、海岸林が後背地への塩害と強風の被害を減衰させる機能を有していることが明らかとなった。

飛来塩分調査、住民実施、2021年4月12日~29日
出典:ひらつか海と海の森便り 第 9 号、2021年 6月発行

プール跡地(図の下部、黄色く塗られた四角)には海岸林がなく、ここを通って吹き込む風によって、内陸側の塩分濃度が高い(赤みが強い)ことが分かる


風速調査、住民実施、2021年5月2日, 5日平均
龍城ケ丘、袖ケ浜、虹ケ浜
風速、凡例

プール跡地(図の下部、白抜きのエリア)には海岸林がなく、ここを通って吹き込む風の速度は衰えずに内陸へ進入し、国道134号線における計測値地点としては唯一、風速 7.5 ~ 10.0 m/s を記録した(バー:鮮やかな赤色)。その他の国道134号線での計測値は直ちに風速 7.5 ~ 10.0 m/s を示す。そしてその数値は、内陸部に至るまで同程度で推移している。
これらのことから、海岸樹林帯は相模湾からの強風を受け止め、内陸部にわたって風環境を整え、生活への影響を緩和させていることが分かる。



平塚の海岸林は津波・高潮の被害を軽減する


平塚市の津波到達予測

神奈川県平塚市龍城ヶ丘を含む海岸地域では、沿岸およそ600メートルまでの住宅地が津波浸水域とされる。
最大高の津波の場合、地震から6分で第1波の到達が予想されている。
想定外の津波に対する十分な対策が必要である。

津波ハザードマップ、神奈川県平塚市



海岸林は津波の浸水速度を弱め避難時間の確保を容易にする

東日本大震災で千葉県を襲った津波に学ぶ。
豊かな海と暮らす平塚市民の会は、2022年4月17日、東日本大震災で津波被害にあった千葉県旭市と山武市を訪問し、津波の被害とその後の様子について見学した。
記録によると、樹林帯・防波堤のない部分から津波が先行して進入する様子が明瞭に残されている。続けて海水は、樹林帯の中にも次第に広がりいずれ行き渡るが、樹木・下草に邪魔されたぶん水の進入速度が衰えていくことで後背地の住宅に対する破壊力を緩和させられた。
この現象が起きている間、住民の避難時間は十分に確保された。
これが海岸林の津波被害減災効果と呼ばれるものである。

津波が樹林帯・防波堤のない部分から先行して進入する様子(千葉県山武市)
ひらつか海岸新聞第 6 号、2022年 5 月、 発行:豊かな海と暮らす平塚市民の会

海岸林の防災機能について広く市民が知る機会を設ける目的で、2022年5月3日、豊かな海と暮らす平塚市民の会は、袖ケ浜、龍城ケ丘、桃浜町、虹ケ浜東部各自治会の後援を受け、東日本大震災で千葉県を襲った津波と海岸林の関係に関する講演会を開催した(平塚ラスカホール)。
講師には元千葉県森林研究センター長の竹内進氏を招いた。
会場の120名を越す来場者は、千葉県の事例を平塚海岸に置き換えて考えながら講演の内容に熱心に耳を傾けた。

ひらつか海岸新聞第 6 号、2022年 5 月、発行:豊かな海と暮らす平塚市民の会



高潮に対する減弱効果

高潮は、海岸住民にとって最も頻繁に遭遇する自然災害の一つである。大型の台風接近時に限らず爆弾低気圧等の気象急変により容易に起こる自然現象である。海岸林はそのフィルター効果により、海水そのものと干渉し、後背地への海水の進入を減弱させる。

ひらつか海岸新聞 第1号、2019年12月、発行:豊かな海と暮らす平塚市民の会



海岸防砂林として保全し維持することが最良かつ必要

平塚の海岸林は、現状のままで地震災害時の津波被害の減災効果を有していることに加え、恒常的に相模湾からの風の影響を低減させる効果を発揮している。
上記の内容から、海岸砂防林として今後も引き続き保全し、その機能を維持させることが住民の生活にとって最良かつ必要な選択である。

ひらつか海と海の森便り 第 9 号、2021年 6 月、
発行:龍城ケ丘の環境と生活を考える会、袖ケ浜の環境と生活を考える会



平塚市民にできること

市民一人一人ができるアクションを、下記ページにて紹介している。

https://note.com/yutakasea/n/n68105c4efb58

現存の平塚海岸林エリアは、40年前の製塩所閉鎖後に、県による植樹事業を通じて多くの関係者・市民の努力の上に再生された。
周囲一帯の湘南海岸林と同様に機能している海岸防砂林であることは間違いない。
平塚市は、この海岸防砂林を伐採するのであれば、近隣住民の暮らしの安全性に関する情報について明示的に言及する責任がある。

その手段の一つとして、市民団体らが収集・開示している海岸砂防林に関する情報を参考に、住民との対話の実施および市民と平塚市政の共創に向けた計画の軌道修正を視野に入れることが望ましい。


鈴木 清 氏のコメントを再掲する。

民間事業者によるこの開発が実施されると、前例となって日本中の海岸林が民間の開発によって歯抜けになることを懸念する。

鈴木 清 氏
神奈川県森林研究所 元研究部長
2022年11月27日 花水公民館ホール、住民説明会




「龍城ヶ丘プール跡地」だけを整備・整美する。
これを可能にするため、わたくしたちは平塚市と共に創造する方向性を求めて、平塚海岸の樹林帯を伐採しない公園整備の在り方を尊重していきます。




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