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ボーイング767のここがカッコいい

旅客機界のオールラウンダーは?

と聞かれたら、皆様どの機種を思い浮かべますか?どのような路線や旅客数の便に投入しても安定した成果を発揮できる飛行機。「この飛行機のまかせておけば間違いはない」といわれるような飛行機。皆様のなかで、そんな飛行機はいますでしょうか? 今回は、私個人が思う旅客機界の名オールラウンダー「ボーイング767」について語っていきたいと思います。

ボーイング767

アメリカのボーイング社が開発した双発中型ジェット旅客機。 兄弟機となるボーイング757と共同で開発されました。-200から-400までのサイズバリエーションがあり、航続距離を伸ばしたERタイプや貨物型のフレイタータイプ、また軍用の警戒管制機であるE-767や空中給油機KC-767など、オールラウンドな性能を活かして豊富な派生型が開発されています。

外見状の特徴は2対2の4輪からなるランディングギア。 丸みをもった円錐状の機尾。 そして機首・機尾にある2つのエントリードアと2つの小さな翼上非常口というドア構成でしょうか。ランディングギアに関しては、飛行時には進行方向側の車輪が下にさがっているのも767の大きな特徴ですね。

初飛行は1981年9月26日。
1982年、初期モデルのボーイング767-200がユナイテッド航空に導入されました。日本ではANAが1983年、JALが85年に導入。 また1998年にスカイマークが導入し、今現在はJAL、ANA、AIRDOが-300を運用しています。ちなみにJALは-300のローンチカスタマーです。

ボーイング767は「セミ・ワイドボディ機」と呼ばれています。「Semi」とは「半分、やや」といった意味合いの単語です。767がリリースされた時期に活躍していたワイドボディ機は「LD3」という大型サイズの貨物コンテナを2つ並列(横並び)で搭載できました。ところが、胴体が細い767は「LD3」コンテナを1列分しか搭載できなかったためです。これは後述のリリース当初に受注が低迷した要因の1つともいわれています。

歴史

時は1970年代。

第二次世界大戦終結から25年。世界情勢は「冷戦」と呼ばれる状態が継続していました。長年続くベトナム戦争のような代理戦争や軍事競争に対する民衆からの不満が高まっていました。そんな中、1972年に米ソ間で戦略核兵器制限交渉「SALT」によって保有する核兵器削減の合意が発表され、1974年には約20年続いたベトナム戦争が終結。冷戦は「デタント」と呼ばれる状態へと移行していきます。

航空史においては1970年にパンナムにて、のちに時代を変えた偉大なる名機ボーイング747の運用が開始されました。また翌年71年にはダグラスDC10が就航、74年には世界初のワイドボディ双発機エアバスA300が就航、さらに76年には超音速旅客機コンコルドが就航するなど、冷戦による軍事競争によって飛躍した航空技術の民生利用も相まってジェット旅客機による大量輸送時代の幕開けを迎えていました。

日本では1970年に「42-47体制」と呼ばれる政策が施行され、これまで国内線しか飛べなかったANAがチャーターによる国際線に進出。のちの1986年に始まる国際線定期便就航への実績を積み重ねるなか、JALはボーイング747を新たなフラッグシップとして世界を相手に発展を続けていました。

一方で、1970年にはJAL315便(ボーイング727 羽田→福岡)が日本赤軍によってハイジャックされ北朝鮮への亡命に利用された事件、通称「よど号ハイジャック事件」が発生。この後の70年代では、このように旅客機をねらった政治目的のハイジャックなどのテロ行為が世界各地では数多く発生し、国際線を運航していたJALも幾度も標的となりました。当時JALで飛んでいたスチュワーデスさんが仰っていた当時の教訓「食べれるときに、食べておけ」は「いつハイジャックされて何十時間も飲まず食わずになってもおかしくないぞ」という、ハイジャックが今よりもずっと身近にあった時代で緊迫した情勢下のなか国際線を飛んでいた方々にとって身近で大事な教訓だったのです。

1976年には、かの有名な「ロッキード事件」が発生。翌年77年にはスペインのテネリフェ空港にて航空史上最大の犠牲者数を出した航空事故、KLMオランダ航空とパンナムのボーイング747が滑走路上で衝突するという大事故「テネリフェの悲劇」が発生するなど、激しい変化が続く時代でした。

のちにボーイング767として完結するボーイング社の新型機開発計画は、こんな時代のなかで進んでいったのでした。

開発

1970年代。
747をリリースしたボーイング社では「ボーイング737では小さすぎるが、747では大きすぎる」という座席数250~350クラスで中~長距離線に投入できる新型旅客機の開発計画が進められていました。当時はまだ後述のETOPSがなかったため、国際線を飛ばしている大手キャリアからは洋上路線に投入するため、3発機を要求する声もあったそうですが、結果としてそうはなりませんでした。そこには1970年代の時代背景が大きく影響していたのでした。

当時、世界は「オイルショック」
1973年に第四次中東戦争が勃発。エジプト・シリア・イラク・ヨルダンからなるアラブ諸国とイスラエルの戦争が発生し、これを受けてペルシア湾岸に面する6つの産油国が原油価格の大幅な引き上げを発表。さらに「アラブ石油輸出機構」はイスラエルを支援するアメリカをはじめとした国家への石油禁輸を表明したのでした。さらに6年後の1979年にはイラン革命発生をきっかけとして、再び原油価格が高騰。この2度のオイルショックによって、燃料がなければ商売ができないエアラインは大打撃を受けました。

多くのエアラインの経営が悪化。そのあおりを受けボーイング社も飛行機が売れず経営不振に陥りました。燃費が悪かったコンコルドが、オイルショックを受けて需要が激減し退役が加速してしまったのも悲しい事実ですね。

原油価格の変動という経営におけるイベントリスク対策の重要性を知ったエアラインには「経済性の良い飛行機」の需要が高まりました。そのため、燃費効率が良いとはいえない3発機や超音速機ではなく「経済性のいい双発機の開発」という構想が優先されました。

結果として、好調な売れ行きだったボーイング727の後継機となる短・中距離用ナローボディ双発機として「ボーイング757」。中・長距離用ワイドボディ双発機として「ボーイング767」を共同で開発することが決定しました。

ただ、もしオイルショックが無ければ「3発機のボーイング767」が誕生していたのかと思うと、それはそれで非常に見てみたかったと思うのは、私だけでないですよね同志諸君?

運航開始

そんな経緯を経て1982年についにリリースされたボーイング767ですが、当初は売り上げが伸び悩んでいました。特にアメリカ最大手の航空会社だったパンアメリカン航空が767ではなく、競合機種であったエアバスA300導入したことも話題となりました。これには767がセミワイドボディ機だったことが影響していたそうです。ボーイング社は767-200の航続距離延長タイプである-200ERの開発を進めるなど、767の長所を進展させ受注増を図っていきます。

しかし、ここで時代の変化が徐々に追い風となっていきます。

この時期より進んでいった双発機の飛行制限の緩和(後述のETOPS)により、双発機を投入できる路線が徐々に拡大していきました。これまでボーイング747やDC10のような3~4発機しか投入できなかった路線に、燃費が良い双発機でありキャパシティもある767を飛ばせるようになってきたのです。

さらにアメリカでの航空規制緩和法によって各エアラインの国際線参入が容易になり、767のオールラウンドな輸送力と経済性への需要が徐々に高まっていきました。特にアメリカ大陸とヨーロッパ・中東・アフリカ大陸を結ぶ大西洋横断路線への需要が好調となり-200ERの受注が増加。

さらに1986年にはJALがローンチカスタマーとなった胴体延長型の-300と、その航続距離延伸型の-300ERもリリースされ、その高い航続距離とETOPSを活かして受注数を伸ばしていき、やがては大西洋路線の主力機となっていきました。

こうして時代に求められて誕生し、時代の追い風を受けて市場を開拓した767は中型双発機としての自身の価値を確固たるものとし、今に至るまで第一線で活躍を続けていったのでした。

ここがカッコいい①「魁」

ボーイング767やエアバスA320が誕生した1980年代は、オートパイロットや航法システム、FMSなどのアビオニスクにコンピュータの導入が本格的にはじまった時期です。

ボーイング767と兄弟機757は当時「ハイテク機」とも呼ばれ、コックピットの計器類がブラウン管ディスプレイに表示される仕組みが採用されたほか、システムのハイテク化によって航空機関士を必要としないパイロット2人乗務を採用した飛行機です。

この時期からコンピュータに発展に伴ってオートパイロットをはじめとした各種システムの自動化や精度の向上が、飛躍的に進んでいくことになります。

ちなみに導入当初は航空機関士の雇用維持や、大型旅客機の2人乗務に対する安全性の不安視の声を受け「3人乗務仕様型」も製造されていましたが、徐々に767の安全性が実績と共に認知されてしたがってそういった声も薄れ、2人乗務がスタンダードとなっていまいした。

ボーイング767は、グラス・コックピットや2人乗務、各種システムへのコンピュータの本格導入など、のちのボーイング機の主流となる技術の魁となった飛行機の1機ですね。時代を拓いた飛行機。いやぁカッコいいですよね。

ここがカッコいい②「高い航続距離」

かつて「国際線の王者」として君臨したボーイング747。その座を継いだボーイング777。そして今はボーイング787、エアバスA330、エアバスA350が長距離国際線の主力として世界中の空を駆けていますが、実はボーイング767も長距離国際線に投入できるほどの高い航続性能を持っています。例えばデルタ航空はアトランタ↔成田線に767-300ERを投入していましたし、エアカナダはバンクーバー↔成田に投入していましたね。

実は花形路線をも十分に担えるスペックをもっているにも関わらず、飾らずに任された路線を堅実に飛び続ける767が、これまたカッコいいのです。

ここがカッコいい③「ETOPS」

世界で初めてETOPSが承認された機種がボーイング767です。 ETOPSとは「Extended-range Twin-engine Operational Performance Standards」の頭文字をとったワードで、日本語では「双発機による長距離進出運航」といいます。

双発機の場合、もし上空でエンジンが1つ故障してしまうと残り1つのエンジンだけを使ったシングルエンジンの状態、いわゆる片肺飛行状態でただちに緊急着陸をしなければなりません。 そのため1980年代までは双発機にはシングルエンジンになっても確実に空港に着陸できるよう 「常に60分以内に着陸可能な空港がある航路を飛行すること」が義務付けられていました。この制限により双発機は、空港が少ない大洋横断や北極圏などの路線を飛ぶことができませんでした。

しかし技術の発展に伴い旅客機やジェットエンジンの性能や安全性が向上したことで、条件が整った場合のみ、60分以内に着陸可能な空港がない航路での飛行が承認されるようになりました。これまで3~4発機しか飛べなかった路線を、燃費のいい双発機で運航できる。これはエアラインによって大きなメリットとなりました。

767が先頭に立って、このETOPS制度により双発機の運用の可能性を大きく広げたことで、のちに777や787のような双発機が長距離国際線の王者となる時代が来るのです。

「双発機の時代を拓いた」これも767の成し遂げた偉大な成果かもしれません。やっぱカッコよすぎるわ767。

ここがカッコいい④「スタンダード」

「767の外見的な特徴は?」

と聞かれると、実はなかなか答えるのが難しいのではないでしょうか。小さいボディにおにぎり型のエンジンが可愛い737。4つのエンジンとアッパーボディにより唯一無二なシルエットを持つ747。大きなエンジンと6輪の車輪と直角的な機尾を持つ777。しなやかなシルエットやエンジンのシェブロン構造が特徴的な787。前傾姿勢とシャープな機首が凛々しいエアバスA330。曲線的なウイングレットが美しいA350。とにかく大きい総二階建てのA380。

そんな他の旅客機と比較すると、767はある種「没個性的」とも見えるかもしれません。でも私は思います。その一見は尖った印象のないスタンダードなデザインこそが、767の誇る痺れるほどのカッコ良さなのだと。

個性的で華のある飛行機も良いですが、その一方で目立たず驕らず、自身が担う役割を淡々と堅実に確実にこなしていく「職人」のようなカッコ良さ。これは767の大きな魅力だと思います。

ここがカッコいい⑤「エンジン音」

767といえば痺れるほどカッコいい「エンジン音」
ボーイング767はGE製、プラットアンドホイットニー製、ロールスロイス製の3つのメーカーの物を選定でき、現在日本のエアライン3社はGE製のCF6-80型を採用しています。

「キィィン!」という甲高いエンジン音を轟かせて、離陸していく767の姿を見るたび「これぞジェットだ!」と感じずにはいられません。

昨今のエンジンは騒音もかなり抑えられ本当に静かです。飛行機に乗務していると機内に響く音の大きさも全然違います。「フォォン!」という太い音のエンジンが主流となっているなか、767の大きく甲高くダイナミックなエンジン音には、新鋭機にはない古き良きロマンがありますね。

まとめ

「双発機の可能性を世界に示した」という偉業を成したボーイング767。2004年に開発が決定した後継機ボーイング787に時代を託して歴史の舞台から降りるかと思われましたが、787の度重なる開発遅延やバッテリートラブルによる飛行禁止措置やエンジン点検トラブル、さらにコロナ禍などによる航空需要激減などの情勢のなかで、767のオールラウンドな性能は必要とされ続けました。

2024年よりJALが貨物事業にて貨物型767を導入するなど、機数を減らしてはいるものの未だに最前線で活躍しています。この存在感こそが、767のカッコ良さだと本当に思います。

標準、だからこそカッコいい。
尖った個性がない、だからこそカッコいい。
飾らない、だからこそカッコいい。
古さがある、だからこそカッコいい。

こんなカッコいいボーイング767が1日でも長く空を飛んでいてほしい。
そう思います。


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