新千歳空港での大雪イレギュラーの話
2月某日。某空港から新千歳空港へ向かって飛行中。僕はチーフパーサーとして乗務していました。
この日のポイントは新千歳空港の天候でした。夕方から明日にかけて雪の予報がでており、我々が降りる時間帯にかぶってきそうな感じでした。雪が降ると遅延しやすいため、なるべく早めに新千歳に降り、早々に次の目的地である羽田空港へと出発したいところでした。
18時頃、新千歳空港へ着陸。お客様が降りてから次便の出発準備をしていると、窓の外にはすでに雪がチラホラ。「う〜ん、間に合わなかったか。でもこの程度の雪なら…」と様子を見つつ作業を進めます。しかし恐るべきは北の大地・北海道。またたく間に雪の勢いが強まっていき、作業が完了するころには本格的な大雪になってしまったのでした。
実はこの日、北海道の石狩湾で活発な雪雲が発生しており、この雪は雪雲が東進して千歳地方に流れ込んできたことによるものでした。北海道内でもニュースになるほどの積雪量をもたらした大雪だったのです。
急ぎお客様の搭乗を開始。プッシュバックの前に「デアイシング」という作業を行います。これは飛行機に積もった雪を溶かし、さらに胴体や翼に雪が積もらないようにするための特殊な液体を散布する作業です。主翼に雪が積もっている状態では離陸できません。主翼の形状が雪によって変形し、離陸滑走時に十分な揚力が発生しなくなる危険があるからです。これは1982年にワシントンで発生したエア・フロリダ航空90便墜落事故の教訓でもあります。
デアイシングを終え、プッシュバックしてエンジンを始動させ離陸滑走路に向かいます。新千歳空港は北風運用で離陸滑走路はRwy01L。ターミナルからは2km以上離れています。窓の外はすさまじい大雪。「離陸できるかな?」と不安がよぎります。雪国ではデアイシングを行ったとしても、その効力を上回るほどの雪が降ることもあるからです。ぜひ離陸して欲しいところですが、ダメだったときのケースを想定し準備を進めておきます。
滑走路前まで到着。ここでパイロットが1名キャビンに出て、窓から主翼を目視点検します。主翼に雪が積もっていたら離陸できません。副操縦士が確認後コックピットへ戻り、ほどなくして機長より連絡。
「離陸できない。GTBする」
「GTB(Ground Turn Back)」とは、出発した飛行機が離陸前に駐機場に引き返す運航のことです。GTBが決定し飛行機は駐機場へ向かって走行を開始。僕はすかさず準備していたアナウンスをかけます。イレギュラー時ですので、より丁寧に伝わりやすいアナウンスを意識します。
急な大雪で除雪作業もまだ行われていないのでしょう。誘導路の路面に雪が積もっているのが飛行機の振動から伝わってきます。パイロットはエンジン出力をコントロールしながら慎重に機を走行させています。車と同じように雪でスリップしたりスタックしてしまっては大変です。
駐機場へ到着。
コックピットでは今後の運航について機長がカンパニー(会社のオペレーション統括部署)と協議に入ります。今後の運航方針が決まっていないためお客様は降ろせません。機内では少しでも快適性を維持すべくCAがお客様対応を行っており、僕も対応しつつ逐次状況についてアナウンスを行います。「何が起きているかわからない」という状況はお客様にとって強いストレスになるからですね。
また機側のGSさんともブリーフィングをして他社機の状況なども聞きます。我々が飛べないということは、その時間帯に出発しようとしている他社の飛行機も似たような状況になっているということです。出発機が離陸できないと空港内の駐機場がいっぱいになってしまい、着陸機も降りてくることができなくなります。新千歳の雪が起因となって全国的にフライトが乱れるのは、大抵こういう状態のときです。
さて、協議の結果、当便はもう1度出発し離陸を試みることが決定しました。機長の指示を受け、キャビンも即座に準備に取り掛かります。とにかくポイントはデアイシングしてから離陸滑走路に到達するまでの時間です。路面が積雪しているうえ他社の出発機で誘導路が混雑している状況ですが、方針が決まった以上は最善を尽くすのみです。すでに大幅に遅延しています。飛行機が動き出す以上お客様も離陸できると期待されるはず。こうなれば、なんとしても離陸したい!
滑走路に到着。再び副操縦士が主翼の点検を行いました。「どうだ…!?」祈るような思いで待機。機長から連絡!
「やはり離陸できない。GTBする」
ダメだったか!
再びお客様にお詫びのアナウンス。アナウンス時は特にお客様からは声は上がらなかったものの、無言のメッセージが以心伝心でビシバシ伝わってきます。申し訳ない想いでいっぱいになりながら、またまた駐機場へ。
ここでついに、欠航が決定してしまったのでした。
GSさんの負担を減らすため、機長と僕から謝罪と理由のアナウンス。窓の外で吹雪くすさまじい雪を見て、少しでもご了承いただければ幸いでした。お客様が飛行機を降りる際にお言葉もいただきましたが、こればかりは仕方ありません。天候のせいとはいえ2度も期待させたあげくの欠航となればお怒りも当然です。労いの言葉もいただいてしまい感謝と申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
そしてクルーも新千歳で臨時宿泊が決定。
その後、僕はレポート作成業務に追われたのでした。
北の大地・北海道の雄大なる大自然の力には勝てません。
今年は平和な冬であってほしいものです。
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