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新千歳空港便でATB

2月。某空港から新千歳空港に向ってフライト中。

すでに19時を過ぎ、窓の外には名前のない様々な色が織りなす美しいグラデーションに彩られた空と、煌びやかな都市の夜景が広がっています。この仕事をしていると実感しますが、1日の「始まり」と「終わり」は毎日とても感動的です。

さて、目的地の新千歳空港では雪の予報が出ており、すでに降り始めていました。雪が降ると滑走路の除雪作業などが入るため一時的に離着陸が制限され、誘導路や上空が混雑してきます。そして以前投稿した記事のように、雪が空港の除雪機能やデアイシングの効力を上回る強さになると、出発機が離陸できなくなって空港がパンク状態になり離着陸が制限され、全国的に運航が乱れます。

我々の便は混雑に巻き込まれる可能性が高かったため、機長は1時間ほどホールド(上空待機)できる量の燃料を搭載する決断をしていました。また北海道の広い範囲で天候が良くなかったため、もし新千歳に着陸できなかった場合は函館や旭川など道内の空港へのダイバート(目的変更)ではなく、出発空港へATB(引き返し)するプランでした。

何事もない平穏なフライトでしたが、クルーは目的地の状況を知ってるので緊張感がありました。新千歳空港は北風運用。着陸滑走路Rwy01Rです。

本州を北に向かって飛行を続け青森上空へ。本来ならこのまま降下を続けながらまっすぐアプローチできるのですが、程なくして機長より連絡。「もしかして?」と思ったら案の定、管制官よりホールドの指示を受けたとのことでした。

機は津軽海峡の上空で周回経路へ入りホールディングを始めました。とはいえ燃料はたっぷり積んであります。「降りられないことはないだろう」と考え、我々CAは長時間のホールドや遅延にどう対応するかを検討していました。

ところが、どれだけ待っても旋回が続くばかりで進入がはじまりません。そしてついには、ホールド開始から1時間が経とうかという状況になってしまいました。出発空港にはカーフュー(滑走路の運用時間制限)があるので、これで引き返したらおそらく当便は欠航となるでしょう。

コックピットから連絡は来ません。飛行機のコントロールや管制との交信、今後の運航に関するマネジメントや意思決定、カンパニーとのコミュニケーションなど機長・副操縦士のタスクがかなり多くなっている状態なのだと予想されました。パイロットのワークロードを察して、チーフパーサーはコンタクトを最低限に控えています。

そして数分後。突如エンジンがゴオッ!と唸りをあげ機首が上がり、機が上昇を開始したのでした。周回経路を離脱して進路を南へ向けます。

ATB決定です。残念ですが自然には勝てませんでした。

さあ、頭を切り替えて新千歳空港→某空港への便として運航します。このATBで問題だったのは、このフライトに「条件」がついていなかったことでした。「新千歳空港が雪のため、着陸できない場合は◯◯空港に引き返します」と事前に条件がついた運航であればお客様はある程度は覚悟した上でご搭乗されますが、条件が無い運航での唐突な引き返しとなると「え?どういうこと?」となりますよね。

お客様は、まさか北海道に降りられず引き返すとは思っていません。予定やスケジュールの大幅変更を強いられ、さらに今回の機材は機内でWi-Fiが使えないため連絡もとれません。当然、ご立腹の方も出てきますので我々はそこそこのお客様対応に追われることになるワケです。

さらには払い戻しや別便への振替などの搭乗券に関する質問、空港到着後の交通機関やホテルなど関する質問、到着ターミナルで空いてるレストランに関する質問、機内サービスのオーダーなどなど、この時のATBはとにかくお客様対応に追われました。

バッタバタのキャビンでCA全員が必死こいて働いてるうちに当機は出発空港へ降下開始。無事着陸して駐機場へ到着したのち、機長とGSさんより当便が欠航となったことが知らされたのでした。

お客様対応や降機準備、レポート制作などの事後処理に追われてヘロヘロになって勤務を終えたあと、なんとなくTwitterで僕のエアラインをエゴサしたら当便に乗っていたであろうお客様の「2度と乗らない」とのTweetが。

こうした評価をいただくのは当然です。
とはいえ「自分に任された職務を果たせたかな」と、帰宅後に風呂に入りながら1人自分の働きを労ったのでした。皆様、お疲れさまでした。

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