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取説の取説
大学を出て最初の仕事はエンジニアだった。
電機メーカの通信部門で、人工衛星や携帯電話システム開発など、かなり本気のエンジニアモードだった。
会社(部門?)の新人育成ルールに「教えない教育」というものがあった。これは読んで字のごとしで、分からないことがあっても教えず、その代わりに考え方のヒントや調べ方を教えてくれるのだ。
最初のうちは「なんだよ! ケチ!」と思ったけど、先輩方がその姿勢を貫いてくれたおかげで、そもそも聞かなくなっていくし、自力で調べるコツを身に付けたり、情報を取りに行くようになった。
今思うと、これは僕の人格形成に大きく役立つ経験だったと思う。
実家には80歳になった父がいるのだが、とにかく何でもすぐに聞いてくる。スマホの使い方
各種アプリの使い方
カーナビの使い方
キャッシュレスの使い方
etc
年が年なので僕も一度で覚えてくれることは期待しないが、教えても教えても覚えてくれない。
離れて住んでいて四六時中教えられる訳ではないので、自分で調べる方法を身に付けて欲しく「分からないことがあったら何でもGoogleで調べると分かるよ」とIPadやiPhoneで何十回教えても、自分で調べることができない。
これが年寄りだけかと思うと、仕事仲間にもかなりすぐに聞いてくれる人は多い。
魚をあげるか釣りを教えるかではないが、"教えて教えて君"は底を打つことがなく無限なので、どうしたもんかと思ってしまう。
また、あるときラジオを聞いていたら「取り扱い説明書を読むのがとにかく苦手」と言う人がいて、聞き手も「分かります〜」なんて合いの手。
父の話に戻るが、人生で買い残したクルマがあったようで最近年齢の割には大きなクルマを買ったのだが、運転機能しか使っていない。自動運転も、カーナビも、AirPlayも、何も使っていない。
しかし、グローブボックスには説明書が入っている。
分からないことは、自分で調べる。
買ったものの価値を余すところ使うには、説明書を読む。
これは特殊スキルなのだろうか。
知らない人は、損をする。
知っている人は、得をする。
この明確な事実がある中で、自分で調べない・手元にある情報さえインプットしないというのは不思議でならない。