いろはな防災 ~イニシエ少女の災活~ シーズン2 第04話
第04話 川遊びのイロハ
「いち、にの、さん!」
勢いよくバスのステップから飛び降りる少女。
その名は「コザクラ_アカネ」
宮花家のお召しにより、町バス乗って只今参上。
これに乗るのにも慣れてきた。
田舎の乗客はいつもの人が多いので、顔見知りもポツポツいます。
「ばいばーい♡」
知り合いさんの「行ってらっしゃい」に、大きな声で手を振りご返事。
町中だけの生活では味わえない出会いがあります。
今日のお召しの内容は、数日前の花ちゃんの電話から始まります。
☆ホワワワわーん(回想開始!)
チリリリリーん スマホが鳴った、相手は花ちゃんなんだろうな。
「桜、まだ起きてた?」
「起きてるから電話に出たんだよ♡」
そりゃそうだ。
「ねえねえ、今度の土曜日空いてる?」
「土曜日?ええっと待っててね」
記憶でメモ帳をめくります。
「その日は総理大臣と懇親会あって、その後アメリカ行って大統領候補とゴルフの約束あるけど、キャンセルするから大丈夫、何?」
桜のボケにも慣れてるから、無視のスルーで続けます。
「そろそろお庭がジャングル気味だから、草刈りしようと思ってるの。
その後お弁当買って仁淀川で水遊びしない?
オトン様からのご提案」
「行く行く!川遊びなんて幼稚園以来。
浮き輪にボートにサメちゃん持って参ります」
桜の頭の中では水遊びがもう開始。
「海じゃないんだから、そんなに持って行っても仕方ないよ〜」
現実的な花ちゃんです。
「川はチョット上流行って、ついでに《仁淀ブルー》も見に行かない?
天気も太平洋高気圧がチャンピオンクラスだから心配ないと思うよ」
「おー高気圧!こないだ勉強しましたな。
あと、仁淀ブルー!直に見たことナイ」
おりこう桜は頭の中で以前のオベンキョ、反芻してます。
「じゃあ、ご両親に許可を貰って、当日は草刈りできる格好でね。
あと、水着と川遊びできる装備をお願いシヤス。
ライフジャケット持ってたら、それもお願い。
無くてもウチにあるから心配しなくてイイよ。
最悪身一つで来てくれたら、何とかなるからね」
花ちゃんの優しいコトバが身にしみる。
「パンツは履いててもイイの?」
「身一つって言ってもハダカって意味ではございません」
新たなボケには突っ込む優しい花ちゃん。
って事がありました。
☆ホワワワーン(回想から戻る音)
01【草刈りミッションSTART!】
いつもの小道を花ちゃんに向かっていると、何やら甲高いエンジン音。
坂を上がって花ちゃん家に近づきます。
謎の機械を肩からかけた花ちゃんの姿が。
「花ちゃんおはよう!何その機械?」
「桜、おはよう!コレは《刈払機》といって、草刈りミッションの最終兵器だよ」
体の近くにあるエンジン部から長く伸びたアームの先には高速回転しているギザギザの丸い刃。
見るからに凶悪なお姿。
「危なくないの?チョー怖そう」
恐る恐るの桜に対して、
「ルール守れば大丈夫!便利だよ」
「ルールって……」
「1.機械が動いている間は近づかない。
2.呼ぶ時は離れた所から大きな声で呼ぶ。
3.近づく時は機械が止まって振り向いてから。
4.作業は離れてする。
5.刃は左に回転しているから、できるだけ左側には居ないコト。
石が飛んできたりするからね。
だね。
刈払機持ってる人はエンジン音で周りの事が分かりづらいから、
最優先で作業をさせるコト」
「ふーん、そう聞くと安心してきちゃった。
さすが花ちゃん」
「それよりも、その格好なに?」
笑いをこらえた花ちゃんさん。
「えーお母さんが草刈りの正装だからコレ着てけって」
下はモンペで上は作業用かっぽうぎ、おまけに花柄、昭和感丸出しです。
「でも、よく見るとチョット可愛い♡
昭和のデザイン、イイかも」
さっきまで笑っていた花ちゃんですが、Z世代に刺さりまくり。
羨ましそうな目つきに変わってます。
「でも、汚れなくて涼しそう。よく見るとチョットいいかも。
そういえば、お隣のサワちゃんも着てた。
こんど農家専門ショップで買おうかな」
笑いの対象から、ベスト《かっぽうぎ》賞に格上げされた桜ちゃん。
「でもね花ちゃん、刈払機って《よつば》が近づいて来たら危なくない?」
「猫は大きな音嫌いだから近づかないよ〜
ほら、あそこ見て!」
花ちゃんが二階の窓を指差すと、そこに見下ろすよつば様。
「ああやって、私達を監督してくれてるの、飽きるまでは」
「よつばー♡♡♡」
大きく手を振る桜ちゃん。
当のよつばは目もくれません。
「じゃあ始めよう、アタシが草を刈るから桜はそれを集めといて。
草は数日置いて減ったらオトンが草捨て場へ運ぶから」
二人のコンビネーションでサクサク草が無くなります。
あっという間に草刈り終了。
二時間ほどのご奉公、汗だくJk出来上がり。
「二人ともお疲れ様、よく頑張ったね」
オトンからの癒やしのコトバ。
「この後のオベントと川遊びの為ならエンヤコラですよ、ね」
顔を見合わすお二人さん、額の汗が気持ちいい。
「時間もイイし、準備してこのまま行くか!!」
「イエーイ♡」
さっさかさと準備して、オベント買いへレッツゴー。
ちなみにオカンは町のマンガの締め切り前、家に残ってお仕事三昧、合掌。
02【おべんと強奪(ウソ)】
「ねえねえ、オベントどこで買うの?」
大食い桜は気が気じゃありません。
「今日はスーパーやコンビニじゃなく、オベント屋さんで買おうと思ってる」
「どこどこ?知らないトコ?チョー楽しみなんですケド!」
「仁淀川沿いにある《山の紅》さんにしようと思ってるの。
あこ美味しいからスキ♡」
花ちゃんイチオシ、個人店。
推すからには、きっと量も多いはず。
「紅ってすごい名前だね。
手バッテンにしてジャンプしたくなる」
なる。じゃなくて、もうジャンプ!!
「止めなよ〜こんなトコで」
と言いながら、花ちゃんも同じくジャンプ。
車の揺れがエライコト。
「どんなオベントあるのかな?
えーと、あたしは《爆盛!揚げ物、真っ茶色弁当with焼き肉多め》にする!!!!!!!」
「なにそれ桜、そんなオベント聞いた事ないよ〜」
「分からないじゃない、あるかも知れないじゃん、ブー」
大食い桜はブーたれて、おでこに怒りマークが浮かんでます。
「そろそろ着くよ」
オトンの声に二人は元気よく、
「はーい♡♡」
ハモリの声で大合唱。
お店に入ってメニューを見たらビックリです!!
ありました《爆盛!揚げ物、真っ茶色弁当with焼き肉多め》
その名も《ミックスフライ弁当、焼き肉プラス!!》
名前は違えど、見た目は爆盛。
「花ちゃん、あるじゃない(# ゚Д゚)。
アタシ、コレ!!」
びっくり顔の花ちゃんも、
「じゃあ、アタシもコレ!!」
ついでにオトンも、
「わしもコレじゃ!」
爆盛弁当✕3、オトンは老齢、コレ食べれんの?
オベント買って、車に乗り込んで、仁淀川へレッツゴー!!
「このまま仁淀ブルーへ行くの?」
「いや、桜ちゃん、仁淀ブルーの《にこ渕》は入水と飲食禁止だから、近くの遊泳できるとこで遊んでから、見に行こうよ」
「へーそうなんだ。
では、爆食してカロリー使ってからご訪問ですな」
イイこと言ったつもりで、したり顔の桜ちゃん。
「そろそろ着くよ、二人とも」
近くの遊泳場所に着きました。
トイレもあるから安心です。
まずはオベント食べました。
ワイワイ、楽しい時間です。
桜はエビフライ、鼻に突っ込む勢いです。
「ふー食べた、食べた、チョット休憩。
桜は川に遊びに良く来るの?」
「幼稚園で行ったきりかな〜」
「じゃあ、川の危険知ってる?」
「知らない!川って危険なの?」
疑問な顔した桜ちゃん。
花ちゃん、顔はご満悦。
来た来た!説明しちゃうかな?
「危険も危険、大危険だよ。
身近な脅威トップクラス。
毎年夏には大勢の人が犠牲になってる。
危ない所の知識が無いと死んじゃうよ」
そのコトバに《おーこわ桜》出現です。
「帰ろうかな(T_T)」
「教えるよ!食休みがてら聞いていて」
先生花ちゃん出現です。
03【川の脅威】
「川って流れがゆっくりに見えるけど、川幅が広いからそう見えるだけで、実際は結構な速さで流れてる。
また、水面と水中では流れの向きも速さも違ってる場合があるの。
水面では少なくてゆっくり流れてるように見えるケド、中は岩なんかの障害物があると流れが全然違う。
流れは岩に当たると回転運動が生じて、色んな方向に巻き出すの。
それに引き込まれると、なかなか抜け出せなくなって、最悪溺れちゃう」
「こわいね、見た目は大きな水たまりなのに」
「そう、それが怖いんだよ。
都会の子供が田舎に帰省して川で事故に合うのは知識が無いことが原因。
また、今は川で遊ぶ地元の子が少ないから、都会の子に教えてあげたり出来ないんだよ。
ウチのオトンは四万十川で遊んでいたけど、小さい子には上級生が危ない所を教えてくれてたって。
そうやって、代々の教えが繋がって、安全に遊んでたらしい。
それでも、同級生の何人かは亡くなってる」
「へー怖いね。どんなトコが危ないの?」
「よっしや、まずは川の部位を説明するね。
川は幾つかの場所から出来ていて、まずはそれを理解するコトからだね」
待ってましたとばかりに、タブレットを取り出す花ちゃん。
「いつか説明する機会もあると思って作ってたんだ」
シュワン、シュワン、スワイプして、二人で仲良く覗き込みます。
04【川の危険な場所】
1.岩場
岩場とは、岩の多い場所のことで、川岸や川の中に岩がゴツゴツと
立っている。
水に隠れている所は流れの水圧でえぐられ、窪んでいる場合が多く、
そこは流れの速度が速い。
近づくと、体が水圧で岩のくぼみに押し付けられて、動けなくなる。
2.瀬
水深が浅くて流れが速いところ。
流れが速いけど、川底の石が見える位浅いので、歩いて対岸まで渡ろう
と思って進みだすと、川底の石が藻でぬるぬるしていて滑って転び、
そのまま流されてしまう。
また、足が川底の石や流木にはさまってうつ伏せに倒れ、
浅いのに水圧で身動きが取れなくなる。
3.淵
川の流れが緩やかで深みのある場所。
想像以上に深さがあり(10〜20m)、複雑な流れや渦が発生。
渦に巻き込まれて、底まで引きずりこまれちゃう。。
滝がイイ例よね。
「滝に落ちたら上がらないって、時代劇の忍者モノで言ってた。」
桜の合いの手、ナイスチョイス。
4.堰堤(えんてい)、堰(せき)
川の水を農業用水、工業用水、水道用水等として利用するために、
水をせき止め、上流側の水位を上げるための施設。
河川を横断する形で設置され、頭首工(とうしゅこう)、
取水堰(しゅすいぜき)とも呼ばれ、堰堤とは水位を制御する施設。
堰堤を下流側から見ると横長の低い滝のように見える。
そこで水遊びをしたら楽しそうと思う人もいるかも知れないけど、
縦回転の渦(リサーキュレーション(再循環流))が発生していて、
これに巻き込まれると、なかなか脱出出来ない。
5.橋脚
橋を中間で支えている構造物のこと。
脚付近の川底は、水の力によってえぐれて深くなっているから、
複雑な流れや渦が発生している。
橋脚付近の深みにはまり、複雑な流れのために浮上できず溺れるの。
ライフジャケットを着ていても近づかないが吉。
「知らなかった、八天大橋の少し上流に滝みたいなトコロあるよね」
「あれは《八田堰》
江戸時代からあったのを昭和40年に近代改修した姿。
近くに記念碑もあるよ.
「またまた知らなかった。
身近にあるのに知らないものイッパイ」
「そうだね、川は水たまりじゃなく、大量の水が見た目以上の速さと圧力で流れている場所だから、自分を過信しないで遊ぶ事が大事」
05【川の危険な形】
「次は川の中のキケン!だね」
「こんな風に川が曲がって流れてるトコあるよね。
これは見た目じゃゆっくり流れているように見えるケド、水面下では崖に当たって巻いている事が多いんだ。
ここにゴムボートとかで行ってしまうと、回転に巻き込まれて抜け出せなくなっちゃう。
オトンが中学生の時、四万十川で泳いでいたら女子高生がゴムボートで流れて来て、ハマって抜け出せなくなった事があったって」
「えー怖い、どうなったの?」
「その時は高校生も居たそうで、
第一声が「助けに行くな!!」だったって。
安易に泳いで助けに行くと、一緒に巻き込まれて溺れるから。
四万十川は川の漁師さんも多いから、みんなで探して漁船で助けに行ってもらったって」
「良かった助かって」
「そう、ボートで沈まないから、落ち着いて対処出来たんだよね」
「次は《水中の障害物》つまり《岩》だね。
顔を出している岩と出してない岩がある。
顔を出している岩で、水しぶきが立っている所は、水の回転運動、つまり《巻いている》、それも結構な勢いで速い。
これに巻き込まれて、水中に引き込まれると自力では中々浮上できない。
水中の岩も同じ。
上からは分からないけど、急激な回転運動が起きている。
つまり、川の中の回転に巻き込まれるとチョー危険ってコト」
「川遊びは危険と紙一重なんだね〜」
「そうそう、桜。
行かないのがイチバンだけど、川遊びも日本の文化だから、キチンと知識を持って、準備するコト。
それと……」
「ライフジャケットだね!」
「そうそう、えらい!!よく覚えてた!!
ワシャワシャ」
花ちゃん、桜を揉みしだく。
「今は海でも川でもライフジャケット必須だよ。
2000円位で命が守れるなら安いもんだね。
ところで、ライフジャケット持ってきた?」
花ちゃんが言い終わるか、終わらないかでジャジャ~ン、ド派手なジャケット取り出す桜。
「可愛いでしょ、家族総出で探したの♡」
花柄、ピンクのジャケットを着込んでポーズの桜さん、ランウェイ気分でポージング。
食休みがてらの解説終わって、いよいよ本番、川遊び。
ライフジャケットは当然です。
水の中では体力消耗が激しいノデ、1時間くらいで切り上げます。
06【仁淀ブルーへ】
片付け終わって車でゴー!
ちゃんとゴミも持ち帰ります。
来た時よりもキレイにします。
そして、仁淀ブルーを見に行きます。
少し上流に移動して、駐車場に向かいます。
ここ《にこ渕》は、
「昔は水神さまの化身の大蛇が住む場所って言われて、誰も近づかない場所だったけど、地元のカメラマンさんが写真を撮り続けた結果、有名な観光スポットになったんだ。
だから、地元の人も大切にしてる場所。
汚したりしたら竜神さまのバチが当たるよ。
汚いの大嫌いだからね、竜神さま。
食べられちゃうかもね」
「うわー、私は汚したりいたしません。
お腹にオベント入っているから、チョッと美味しいかも知れませんが、
食べないで下さい。
ナンマイダ~ナンマイダ~」
桜の合掌面白い、信じてるところが可愛いな~
私も信じているケドネ♡
にこ渕に向かって、駐車場から少し歩いて、
最近整備された階段を下ります。
少し前まで鎖をつたって降りていたので、チョー危険。
いの町頑張り階段作って、観光客の「に倍~!に倍~!」を目論みます。
階段降りたら、眼の前には滝から落ちる清冽な水。
そして、目の覚めるような蒼い姿の《にこ渕》。
幻想的なお姿です。
ベストタイムは正午ごろ。
チョット外した時刻ですが、美しさは変わりません。
「うわーキレイ!
写真では見たことあるけど、実物見たらもっとキレイ♡
他の川の色も似てるトコあるけど、ここの青色凄く明るい」
「それだけ水が綺麗なんだと思うよ。
こんなステキな場所で暮らせて幸せだって感謝しなきゃね」
「うん、ありがとう龍神さま〜
ここに暮らせて幸せだよ〜」
いつもの桜の神頼み、あたしも一緒に叫びます。
「これ、お供えして」
オトンがガバンから取り出したのは、カップのお酒。
一緒に取り出した三方に蓋を開けたお酒をお供えします。
「神さまにはお酒をお供えするのが日本人の礼儀」
お供えを前にして皆んなで一緒に拝みます。
何をお願いしたかはナイショかな?
当然、お酒は持ち帰り。
今夜オカンが飲むはずです。
仁淀川の龍神さま、淵の中から二人を見つめ、優しいい顔してニッコニコ。
帰る姿を見送ります。
(おわり)