「糸」(松井努句集『手拭の糸』を読む)
「糸」(松井努句集『手拭の糸』を読む)
日本手拭を沢山持っていて日常使いをしている。
手拭は縁取りをしていないので、使い始めは端の糸が解けてくる。カッチリとしたモノを好む現代の人間には考えられないかもしれないが、これは決して不良品ではなく手拭とは「そういうもの」であり、ブチブチと手で千切ってしまえば良いのだ。使ううちにそれも落ち着いてきて、良い風合いになってくる。ぼくはここに短詩や絵画、演芸などを包含する日本文化の特徴「見切り」の端緒を見つける。松井努氏の初句集のタイトル『手拭の糸』を見た時、ほう!と目を丸くしたのはこの為だ。
食パンの耳を取り合ふ端午の日
指先の微かに動く昼寝かな
大皿に西瓜を運ぶ寝巻きの子
当たり前のことだが手拭は縦糸と横糸で成り立っている。手拭の解れる糸は決まって横糸であり、家族が長年の生活の中で見切ってゆく「厄」や「不運」などの不純物を象徴するのかもしれない。そして縦糸である家族はより堅固に、そして良い風合いとなってゆくのだ。作者の句はこの一冊の中でも進化している。
一生の句作の集大成として句集を作る者も居るが、作者のようにある種のファミリーヒストリーとして句集を編み、次へ向かう道標とするのもアリなのかもしれない。
里俳句会・屍派 叶裕
#松井努 #俳句