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まずはじめに:水循環の研究紹介

何が問題?:乾燥地での水資源

世界各国において水資源の枯渇・共同体間の配分、安全な水の供給等の水資源問題が大きな社会問題になっています。 特に乾燥・半乾燥地域においては、地表水(河川水、湖水等)が不足しているため、生活・農業・工業用としての水資源を地下水に依存している場合が多く、 無計画な過剰揚水によって地下水位の急激な低下がおこる例が後を絶たちません。雨や川が地下水になって貯留されることを「涵養」といいますが、その地下水涵養が少ない場合・遠い場所から流動してきている場合が多いのも乾燥地の流動の特徴です。

たとえば、アメリカハイプレーンズ、中国華北平原、インド北西部パンジャブ地域等が挙げられ、 地下水に支えられてきた灌漑農業の生産量の低下はもとより、地下水の資源が枯渇してしまったり、 周辺の河川が干上がったり、乾燥化を引き起こします。沙漠化などの環境変化や、生物生態系にも多大な影響を及ぼしています。これらの水資源問題は1990年代には、レスターブラウンの著書(「だれが中国を養うのか?」,1995)をはじめとする多くの書籍などで警鐘は鳴らされていましたが、2020年を過ぎた今でも根本的な解決には至っていません。

世界の人口が膨張し続ける状況下において、安定的な水・食糧供給を維持するためには、 地下水涵養・流動プロセスを含めた水循環システムを十分に把握し、 持続可能な水資源利用システムの構築することが不可欠、かつ急務であると考えています。

難しく表現していますが、水の流動や使用を家計のお金と考えた場合、家計の支出入や貯金額をしっかり把握しないとだめですよね、ということです。 地下水涵養が少ない乾燥地、つまり収入か少ない家計で、ちゃんと考えようよ、ということです。 ちなみに、乾燥地の地下水の流れ方はけっこう複雑な場合が多い、 つまり家計の財布の中でも使途不明金が多かったりいろいろ事情が多い状況です。使途不明金がどういう流れをしているかを、 ちゃんと把握する必要がありますよね。

大袈裟ですが、世界の水資源問題の解決に少しでも貢献したい、が私の研究する原動力でした。

私の研究は、半乾燥地において地下水がどのように涵養されて、流動しているのかを、水質・同位体成分を手掛かりに把握する、自然科学研究でした。家計の例でいえば収入と貯金の正確な把握がミッションということですが、地下水は見えないのでわからないことだらけです。だから研究する必要があるのです。

地下水はどうできて、流れるのか

ここでは一般的な地下水の広域流動について説明します。

雨が降り、土層を降下浸透した水が地下水となり、地層中を流動し、河川水や湧水として流出する一連の流れの場を、「地下水流動系」と言います。降水や地表水などが地下水面に到達して、地下水になることを涵養(recharge)といい、一般に降水量が多い上流域や山岳地域などが「涵養域」と呼ばれ、ここが地下水流動系の入口となります。日本のような多雨地域に住んでいるとどこに居ても雨は降りますので、涵養域は少しあいまいですが、乾燥地域ではハッキリ地下水の涵養域と利用する場所(都市部や農地)が分かれている場合が多くあります。また、地下水が湧水や河川水として地表面に現れる地域を「流出域」と呼びます。

地下水が流動する時間を滞留時間(residence time)として表しますが、数年から数万年と幅が広く、速さにすると、速くても1日に 10m~100m 程度、土壌や地質条件によっては1日に 1m 未満の場合もあります。ちなみに川など地表水の流れる速さは、1日に 1km~数十 km 程度で、まったくケタ違いに速いのです。この速さの違いが、人間活動に大きく影響します。例えば、地下水は遅いですが貯留量が多いので水資源をしては安定的ですが、使い過ぎてしまうと元に戻るのに時間がかかります。一方、河川水はどんどん流れるのでダムでも作らないと貯めておくには不利ですが、河川周辺で使いやすい反面、洪水などのリスクもありますね。

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地下水の流動

地下水資源の利用と更新性

乾燥地では、地表水が少ないことから、地下水が主要な水資源として利用されることが多いくあります。しかし、地球上の地下水資源量は空間的に偏在しており、かつ個々の地下水帯水層によってどうやって流れる貯留し流出するかは大きく異なります。はるか遠くの山地で涵養された地下水や、太古の湿潤期の雨水で涵養され貯留した地下水を利用している場合も多くあります。このような地下水には「更新性」が極めて低い、つまり収入のない家計です。

地下水を安定的に使い続けるには、涵養量や貯留量、滞留時間、利用量などの水収支を流動する資源としてとらえ、把握し、持続性を保つ適切な利用計画のもと活用していくことが非常に重要です。

日本でもあります 森林での水問題

国内では、荒廃の進む森林域での森林整備前後で水土砂流出がどのように変化するのかを課題とした森林水文研究に従事しました。

飛行機の窓から見える日本の山々と森の緑の美しさが好きです。日本は国土面積の65%を森林が占め、水を貯留する「緑のダム」としての機能も健全な状態を保っていました。さまざまな微生物やミミズなどの小動物が活動している土の中にたくさんの穴や隙間を作り、その隙間がふかふかのスポンジのような働きをすることで森に降った雨水が素早く浸み込み、たっぷりと蓄えられるのです。こうして森の土壌に浸み込んだ雨水は地中深く流れ、きれいな湧水・地下水になります。

しかし、林業の衰退とともに管理されなくなった森林は、その水源涵養力を失っていきます。適切な管理が行われずに樹木の密度が高くなり過ぎた森林では、生い茂る木の葉に阻まれて太陽の光がほとんど地面に届かず、下草が少ないため地面の浸透能(土が水を浸透させる能力)が低下して、ふかふかの土壌が流れ去ってしまいます。これでは森の「緑のダム」としての機能は著しく低下し、「緑の砂漠」と化してしまいます。

荒廃した森林による水循環の影響

森林整備が水循環に与える影響

このように森林の手入れ遅れなどにより林床の下層植生が衰退した森林においては、水源涵養機能の低下による地下水貯水量の低下や、豪雨に伴う洪水の増加、土壌侵食・流出、土砂崩れなどの災害リスクが高くなることが指摘され、社会問題となっています。多くの企業や自治体で森林環境を保全するための整備が行われる中で、サントリーや神奈川県は、森林整備が森林環境や水循環に与える影響・効果の調査研究に力を入れている珍しい企業/自治体です。CSR活動として、パフォーマンスで環境活動をやっているわけではないのです。そんな本気の研究活動に短いながらも従事できた経験はなかなか得難いものです。

詳しくは各研究のページをご覧ください。