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速く描くには、速く描こうとしてはいけない。

21時43分…やっと坊ちゃんが寝ました。
今日は…なかなか長かった…。

今日は寝る前に「14ひきのさむいふゆ」を読みました。
最近ひらがなを読めるようになってきた坊ちゃんは、自分で読めるところを自分で読みたがります。
タイトルコールで14秒かかった気がします。
絵本一冊…長い戦いだったぜ…。

◆理由は多々あれ、みんな速く描きたいよね◆

ところで、僕は以前インターネットでデジタル背景画の教室をしていましたが、多くの生徒が「速く描くこと」について知りたがっていました。

理由はそれぞれでしたが、僕も望んだ経緯があったので(軽くトラウマですが)、速く描くことについて僕がどう捉えているかと、習得するためのコツを描いてみたいと思います。

筆が速い人が絵を描いているところを、見たことがありますでしょうか?
「背景 アナログ 描き方」で検索すると、いい感じの動画があって勉強になりますので、見たことが無い方はぜひ見てみてください。

とても運が良いことに、僕はプロの背景描きの方に、目の前で解説してもらいながら描いてもらったことがあります。
まず思ったのは、思ったより手はゆっくり動いていること。
そして、迷いがないこと。ついでに、無駄がないこと。
速い秘訣は、手のスピードではなく、迷ったり描きなおしたりといった無駄がないという感じでした。

◆①迷わない◆

まず、迷いのなさ。
圧倒的な経験値を感じました。

「この絵は、勝負どころがシルエット。構図が必殺すぎてどう描いても良くなる。」「この絵は、レイアウトがつまらない分、色の組み合わせで面白く見せたい。」などなど、過去に描いた経験から引用して絵を描いているような感じでした。

◆②無駄がない◆

そして、無駄のなさ。
描く前から完成像が見えている感じでした。

絵の完成をはっきりとイメージして、使う色を描き始める前に決めてるようでした。
そして、描き始めると手が止まらないわけです。
「まず全体の進捗を上げていく」「細かいところは後から調整」そんな感じの描き進め方をしていました。

◆なぜそんなことができるのか…◆

僕に描き方を見せてくれた方を、僕は師匠のような存在だと勝手にお慕いしておりますが、おそらくその方はそう書かれることが嫌だと思いますので、この場ではとりあえずABさんと記載しておこうと思います。

ABさんは、もともとアニメ背景の現場で働いていて、ゲーム業界に転職してきた方です。
絵具で絵を描いていた経験を活かして、デジタルの絵を描いていました。
ABさんの絵を見ると、絵具とデジタルの違いは道具の違いでしかないと思えるほど、描き方も考え方もまるで同じだと思いました。

「画力は頭だ!」という専門学校の先生の教えを、目の当たりにできました。

と言いつつ、実はかくいう僕もアナログ画材で絵を描くのが好きでした。
「鉛筆」「木炭」「透明水彩」「ポスターカラー」「アクリルガッシュ」「油彩」「コピック」などを使ったことがあり、中でも一番好きだったのは透明水彩です。
アナログ画材については、プロのレベルとは全然言えませんが、使ってみたことによる経験値はあります。

◆デジタルとアナログ◆

絵具で描いたことがある人には分かると思うのですが、お手本とする絵をしっかり見て、パレットの上でその絵の色を再現することには、なかなかの練習が必要です。
しかも、パレットから絵具を筆にとって紙に描いてみると、なんかちょっと色が違って見えたりします。
特に透明水彩は、色を重ねる順序を気にしなければならず、最も明るい色は塗り残した紙の色を利用します。
色を使うことに、大変な気を遣うのです。

それに対してデジタルは、とにかくストレスフリーです。
色は無限に重ねられ、不透明にも半透明にも扱えます。
スポイトツールを使うと簡単に使いたい色を絵からとれます。
さらに、ショートカットキーを使うと神速です。
スポイトツール×ショートカットキーのコンボは、特に色を作った経験も知識も必要とせず、一瞬で絵から色をとることをやってのけるのです。

本当にお手軽です。僕も多用していました。
しかしこれが、大きな落とし穴にもなるのです。

◆デジタル作画の落とし穴◆

まず、色を意識的に見ません。
スポイトした色を使うからです。
絵具のように、しっかり見てパレットに色を作る…という、頭と手を働かせる動作をショートカットしてしまうため、それは仕方がありません。
便利すぎて、ついつい経験値がたまりにくい描き方をしてしまうんです。

次に、色を大事に使いません。
手軽さゆえに、スポイトツールの使用を連発してしまうんですね。
絵具の場合は、作った色を作り直すのが大変なので、作った色で描けるところを全体的に描きます
ところが、デジタルの場合は色を作るのが一瞬なので、今描いているところに必要な色をパッパッと変えながら描きます。
さらにまずいことに、これが部分的に描き進めてしまう理由にもなってしまいます。
(実はさらにまずいことに、部分的に描いてしまうことで、リズム良く描くという必殺技を習得できない理由にもなってしまいますが、それは別の機会に。)

もうお分かりだと思うのですが、これが結果的にスピードの大きな無駄につながるんですね。

◆速く描くには、速く描こうとしてはいけない◆

皮肉なことに、デジタルツールのスピーディさは、結果的に絵を描くスピードを落としてしまう。

…とまでハッキリは言えませんが、経験値を得にくいのは本当です。
そもそも、絵具をお金を払って画材屋で買う…というところから色の意識が違います。
青という色ひとつとっても「セルリアンブルー」「ブルーセレスト」「プルシャンブルー」などなど、アナログ絵描きの方々は名前とセットで色を記憶しています。

色の経験値をためるべく、デジタル絵描きはツールを使って、やれることはやってやろうじゃあないですか。

絵を描く前に、絵具では当たり前にやることを、デジタルでもやるんです。
それは、使う色をパレットに乗せるということです。
「今から描く絵にどんな色を使おうかな…」とまずはイメージして、画面の端っこに色を置いてみてください。
そこからスポイトして色を使ってやれば、色の経験値をためていくきっかけになります。

結局のところ、速く絵を描くには、しっかりとした絵を描くことができる基盤があることが前提です。
デジタルのデメリットを知った上で、アナログのメリットを上手いこと取り入れてやりましょう。
ABさんは、上手くアナログの技術をデジタルに持ち込んで絵を描いていました。

エソラ流は、描く手間と工夫を楽しむお絵かき流派。
ちょっとした工夫を、どうか忘れずに。

◆届かない叫び◆

僕よ…昔の僕よ…読んでいるか?
専門学校の先生に、しっかり目に怒られたな?
「お前さんは、何のプロを目指しているんだ?」と。

そりゃそうだろう。
周りの友達が3Dモデル作ってるときに、透明水彩で絵を描いているんだ。
先生も心配になるだろう。
今からでも進路をしっかり考えるんだ。

学生気分で好きな絵ばっかり描いていたことを悔いているかもしれないが、その経験は後々で大きな資産になってくる。
3Dも絵も、デジタルもアナログも、全部の経験が不思議と繋がってくる。
経験した者だけがわかる「知見」ってやつになる。
先生の話を、しっかり聞いておくんだ。

画力は頭だ。

・・・・・・

余談ですが、デジタルにも、アナログにないメリットがたくさんあります。
その中でも、僕が一番すごいと思ってるのは、完成度をどこまでも追求できることです。

絵具で描いた絵は、失敗をキレイに描きなおすことができません。
色が濁ったり、やりすぎると紙が破れたりします。
アドバイスをもらっても、活かせるのは次の絵です。

デジタルの絵は違います。
ダイレクトに、上から何度でも描いていけます。
納得いくまで描けるんです。

僕がデジタルという画材を選んでいるのは、この良さがあるからです。
でも、とても惜しいことに、アナログ画材の経験がないデジタル絵描きさんは、この良さに気付きにくいみたいです。
隣の芝は青い問題は、いろんなところで起きますね。

それと、当時怒ってくれた(Dr.くれはソックリな)先生…本当にありがとうございました。
おかげで、ゲーム会社に入って(やめちゃったけど)、今の僕があります。
「画力は頭だ!」
なるほど…と分かったような顔しながら、当時は何を言ってるんだと思っておりましたが、今となっては僕の絵の中心にその教えがあります。
大変感謝しています。

ではまた!

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