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「胡蝶の夢」のような話

私は今、ブルターニュのPassilléという小さな村にあるコテージにいる。以下の施設に宿泊中だ。

フランス語の情報しかないので、一応ブッキングドットコムのリンクも掲載しておく。

馬、山羊、羊、牛がそこらじゅうで放牧されている一方で、見渡す限り「お店」と呼べそうなものは何もない。家もぽつん、ぽつん、とあるだけだ。人々がどうやって生活しているのか、皆目見当もつかない。遠くまで日々働きにいっているわけではなさそうだ。かといって自給自足でももちろんないだろう。都会の生活に染まりきってしまった私には想像できない。


Rennes駅から車で1時間ほど走らせたところにこの村はある。降りしきる雨の中、夕方ごろに到着、一仕事とゴールデンレトリバーのKikoと仲良くなった後に、ガレットを食べて11時過ぎに就寝した。

パリに到着した12時間後にRennes行きの電車に乗っていたこともあり、時差ボケを抱えた私はすぐに深い眠りに落ちた。服を買う夢を見たことをうっすらと覚えている。同じ形だが、コットン、リネン、シルクでできたものがあり、それぞれ値段が全く異なる。それはちょうどその時私たちが取り組んでいた仕事とリンクする内容だった。


朝4時に目が覚めた。十分な睡眠がとれたとは言い難かったが、いつもの習慣でnoteの記事を書くことにした。

外はまだ真っ暗だった。

しばらく執筆したところで、ふと、星を見にいきたくなった。もし晴れていたら、こんなに田舎なのだから綺麗な星空が広がっているはず。現在時刻は4時半、日の出までは2時間ある。

5月中旬のブルターニュは寒暖差が大きい。外の気温は10度を下回っていた。私は持ってきた服で最大限の厚着をして外に出た。


そこに広がる星空に息をのむまでに少し時間がかかったのは、目が暗闇に慣れる必要があったからだ。最初は「綺麗な星空だなぁ」程度にしか感じなかったが、次第に星と星の間にある、肉眼でははっきりとは星だと認識できないものまでもが“見える”ことに気づいた。それによって、宇宙の広がりが(少なくとも)3次元であることが、ようやくわかった。

北斗七星とカシオペア座はすぐに見つかったが、それ以外の星座は、あまりにも星が多すぎて形を判別することが難しかった。

佐賀県の全寮制の学校に通っていた際、夜中に寮を抜け出して見にいった星空も、ブルターニュのそれには全く敵わなかった。「暗闇の濃さ」が全く異なる。光の侵入を防ぐ“厚み”のようなものを兼ね備えているように思われた。


コテージの後ろにある森から、獣のものなのか鳥のものなのかわからない、不思議な鳴き声が聞こえる。少し間延びした一定のリズムで刻まれたその音は、だんだんと私に「早くコテージに戻る方が身のためだ」と語りかけているように感じられた。怖くなった私は、そそくさとコテージに逃げ帰った。

外にいた時間は3分ほどだったと思う。今思い返しても、何か不思議な夢を見ていたような感覚になる。この世とは違う場所に飛ばされていたような気分だった。

または、私が認識している「この世」こそが幻想で、ブルターニュの星空こそが本来の「この世」であるとも考えられる。きっとそうだ、昔はこの星空と森から聞こえてくる忠告が当たり前のものだった。そこに私たちは夢を抱き、様々なものを作り上げた。その結果、いつしか星空と森からの忠告を失っていたのだろう。

「胡蝶の夢」のような話だ。


都会の生活の中で、すっかり忘れていた何かが、ここにはきちんとある。それを取り戻すことはもうできないのかもしれないが、折に触れて思い出すことならできるし、それはもしかしたらとても価値のあることなのかもしれない。

あるいは、それを「価値の有無」という尺度で測ってしまっている時点で、私はもうすでに“手遅れ”だともいえるだろう。そう考えると、なんだか急に寂しさを覚えた。


それでも私は、またこうやって本当の「この世」の姿に触れたいと思う。いつかそれは、「価値」という尺度を超えて、私に語りかけてくるかもしれないから。


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