マドレーヌといぬ
街に出た妻が
マドレーヌを買って帰ってきた
洋菓子屋の袋の中から
ひとつひとつとり出される
黄金色の貝殻は
目にまぶしい
ダイニングで
夕食の後に
コーヒーを飲みながら
マドレーヌを食べていると
我が家の犬が
足元にすり寄ってくる
我が家の愚犬は
食べ物にいやしく
私が台所に立ち
鯵の刺身でもつくろうとすると
足元にすり寄ってきて
尻尾を振りながら
「おこぼれをくださいよ」
みたいな顔をして
見上げてくる
実際
魚の切り落としを
餌入れに放り込むので
犬の主張は
間違いではないのだが
台所に立つたび
後をついてくると
食い意地が貼っているとしか思えない
今回も
足元で
「ワタシの分はないですか?」
という顔つきで
尻尾を振る
食べているこちらも
じっと犬に見られたままでは
いささか食べづらいので
ほんのひと欠片
餌入れに放り込んでやる
ひとくちでぺろりとたいらげた犬は
もう一度リビングのテーブルの下で
尻尾を振りはじめる
マドレーヌを食べながら
この犬に
もうひと欠片
あげるかどうか
考えてるうちに
秋は更けてゆく
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