一般財源と特定財源 ~京都市は臨時交付金がなくても黒字を維持できるか~
はじめに
コロナ禍と物価高騰という大変厳しい経済環境ゆえに、地方創生臨時交付金という多額の補助金が国からもらえたのですが、これが結果的に京都市の財政破綻危機の回避に少なからず貢献をしました。
自治体の財源には、一般財源と特定財源の2種類があります。一般財源と特定財源の違いを理解していただくとともに、臨時交付金がなくなった時に京都市財政は引き続き黒字を維持し、財政健全化に向けて進んでいけるのかを知って頂きたいと思います。
特定財源とは
特定財源とは、自治体が受け取る時点で使い道が決まっている財源を指します。最も典型的なのが、国庫補助金や国庫負担金と地方債(赤字地方債を除く)です。
国庫補助金は、国が推進する施策を自治体が取り組むともらえる補助金です。例えば、耐震基準を満たしていない公共施設の耐震化工事をする、小中学校の子どもたちに1人1台のタブレット端末を配る等の事業が該当します。
国庫負担金は、生活保護費の給付のように国と自治体が共同で行う事業の国の負担分を指します。
地方債に関しては、自治体では、赤字地方債は極めて限定的な場面でしか発行できませんので、ほとんどの地方債が建設地方債となります。つまり、公共工事にしか使うことが出来ません。
他には、使用料収入や手数料収入が特定財源になります。例えば、京都市は、ごみ袋を有料で販売しておりますが、ごみ袋の販売で得た財源は、ごみ処理関連の歳出にしか使うことができません。
一般財源とは
一般財源は、各自治体が自由に使える財源です。典型例が、地方税、地方消費税交付金、地方交付税(+臨時財政対策債)となります。
地方税は、都道府県と市町村で税目が異なりますが、京都市では、個人市民税、法人市民税、固定資産税、都市計画税などが金額の大きい税目となります。地方消費税交付金も、消費税のうちの取り分ですので、地方税と同様の性格と言えます。
宿泊税のように、法定外新税と呼ばれる独自に設定する税目は、制度設計の際に、特定財源となる法定外目的税とすることも、一般財源となる法定外普通税とすることも可能です。多くの自治体では法定外普通税としています。
地方交付税は少し理解しにくいかもしれません。この自治体なら運営にこれくらいの予算が必要だと国が計算した金額を、基準財政需要額と言いますが、この基準財政需要額と比べて地方税収入では足りない分を地方交付税として国から支給されます。
更に、国の財源不足から、十分な地方交付税を渡すことが出来ないということが慢性的に続いており、本来もらえるはずの地方交付税と実際にもらう地方交付税の差額が赤字地方債である臨時財政対策債で穴埋めされています。そのため、臨時財政対策債は地方交付税と同様の扱いとなります。
一般財源がなぜ重要か
ここまで、特定財源と一般財源の違いを説明してきましたが、少し見方を変えれば、特定財源から支払えないものは、一般財源から支払わないといけないということになります。
例えば、職員の人件費や地方債の返済にあたる公債費などは、そのほとんどが一般財源から捻出しなければいけません。そのため、財政の収支を見る時は、総額ではなく、歳入も歳出も一般財源の部分だけを取り出して確認します。
京都市は財政破綻の危機が取り沙汰されましたが、行政にとっての黒字・赤字とは、一般財源の黒字・赤字を指します。一般財源の資金繰りがまわらなくなれば財政破綻となるのです。
行政が予算を組む時の考え方
行政が予算を組む時は、一般財源からの支出をいかに少なく抑えるかに腐心します。そこで、重要になるが、補助率(国庫補助金の割合)、起債充当率(地方債が発行できる割合)、交付税措置率(地方債返済の補助割合)の3つの数字です。
例えば、100億円の公共工事をするとします。先ず、国庫補助金を活用します。補助率50%であれば、50億円が国の負担となり、50億円が自治体の負担となります。
起債充当率が90%であれば、50億円のうち45億円を地方債の発行でまかない、5億円が一般財源からの支出となります。住宅ローンを組む時の頭金が一般財源、ローン部分が地方債というイメージです。
自治体は、45億円の地方債は30年かけて「一般財源」から返済することになりますが、交付税措置率が22.2%(交付税措置率は起債額のうちの割合。図の全体事業費の10%に合わせているので、中途半端な数字になっている)であれば、返済時に10億円分は国が地方交付税を増額して、事実上負担してくれます。従って、自治体側は35億円を30分割で毎年負担すれば良いということになります。
つまり、100億円の公共工事をするに当たり、初年度は5億円の投資的経費(工事のこと)を、翌年度以降は年間1億1,600万円の公債費(地方債の返還)を30年間支出することとなります。(トータルで40億円)
補助率、起債充当率、交付税措置率が高ければ高いほど、一般財源の負担は少なくて済みます。とりわけ、補助率、起債充当率が高ければ、目の前で必要な一般財源からのキャッシュは少なくて済む訳です。
地方創生臨時交付金
コロナ禍及び物価高騰を背景に、令和2年度以降現在に至るまで、多額の地方創生臨時交付金が国から自治体におりてきています。
この臨時交付金は、コロナ禍対策や物価高騰対策という性質上、特定財源ではあるものの、通常の国庫補助金や地方債に比べると使途の自由度が格段に高いことが特徴です。
そのため、本来であれば一般財源から支出すべき通常の支払いも、臨時交付金からの支払いに付け替えることが出来てきたわけです。しかし、臨時交付金は、あくまで臨時のものですから、無くなった場合は一般財源からの支出に戻ります。
国の審議会においても、「地方創生臨時交付金の活用により、結果として一般財源が節約された」「これまでのような国からの特例的な財政支援が行われることを前提とせずに、(中 略)財政運営の持続可能性の確保に十分配意する必要がある。」と指摘されています。
京都市は令和4年度の決算は、22年ぶりの黒字決算となっており、黒字額は77億円となっています。令和4年度に京都市が受け取った臨時交付金は約40億円です。当然、一般財源から臨時交付金に付け替えたものは40億円の一部ですので、黒字自体を覆すものではありませんが、臨時交付金廃止後に少なからずの影響があることは注視しなければなりません。
まとめ
特定財源は、使途が特定されている財源で、国庫補助金や地方債などが該当する
一般財源は、自治体が自由に使途を決められる財源で、地方税や地方交付税が該当する。
自治体の黒字・赤字とは、一般財源の黒字・赤字であり、一般財源が枯渇して資金繰りがまわらなくなると財政破綻となる
自治体は、支出する時に、出来るだけ特定財源を使うことで、一般財源を節約する工夫をしている
コロナ禍・物価高騰対策の地方創生臨時交付金は、特定財源なのに使途が広く、本来であれば一般財源から支出するはずの通常経費の一部が、臨時交付金からの支出に付け替えられている。