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建築を考える時には都市と環境についてまず考える。(建築設計事務所を運営している僕が設計において意識している3つのこと、その1:都市、環境に密着した設計)
本記事では建築設計事務所を運営している僕が、建築プロジェクトを進めて行くうえで方針としていること、つまり設計の哲学について掲載したいと思います。本記事はその1。
僕の設計の方針としては、次の3つあります。
①都市、環境に密着した設計
②素材を活用すること
③最新コンピューター技術を活かした設計
本記事ではまず①について説明していきます。
①都市、環境に密着した設計
建築プロジェクトを始める際に、僕はまずその建築と敷地が周囲の都市や環境とどのような関係性を持ちうるかを考えます。
というのも建築は常に周辺環境から影響を与えられるし、それ自身が立ち上がった後は周辺環境に対しても影響を与えてしまうからです。
皆様がご存じのように東京をはじめとする大都市圏は土地が狭く、住宅を中心とする建築プロジェクトは常に”狭さ”や周囲の都市の状況と向き合う必要があります。
例えば、住宅をある敷地に立てる際は前面道路がどこにあるか、隣の建物がどの方位にあって、どのくらいの高さや住宅までの距離があるかで、その住宅の日当たり環境はずいぶん影響を受けてしまいます。
また今日では地球温暖化や環境破壊が世界的に進んでいることもあって、消費エネルギーへの配慮があらゆる分野で求められています。建築分野もその例に漏れず、建設前から建設中~建設後~リサイクル使用(あるいは破壊時)までの消費エネルギーの低減プロセスについて評価したライフサイクルコスト(LCCとも専門用語で呼ばれます、格安航空サービスのことではないです)という概念もあるくらいです。
建築は一度経ってしまうと基本的には何十年もその土地に存在することになります。したがって消費エネルギーの観点から見ると建物内の省エネに配慮することで、長期的な消費エネルギーコストを下げることにつながります。
これは住んでいる人の光熱費の低減や温度変化を抑えた住みやすさにも直結します。
この長期的消費エネルギーの低減ではよく省エネ設備(全館空調や全熱交換機等)の導入が住宅メーカーの宣伝で謳われています。しかしそれだけでは不十分で、建物そのものが日当たりや通風を取り込めるか、周囲の自然環境を活かせるか等が消費エネルギー低減の重要な要素となります。
例えば住宅を設計する際に、上手に南側から真夏の直達日射を避けながら、中間期(春、秋)や冬に日光を取り込めるようにすることで、日中の照明の使用量や暖房費を抑えることができます。
もし東側に大きな公園などの緑地があって、秋に季節風が東から西へ吹くと、家の中に快適な温度の新鮮空気が通気として取りやすくなります。
これらの例は決して最近出てきた技術や学術の話ではなく、はるか昔から人々がこの日本列島で住みやすいように蓄積してきた知恵そのもので、基本的な建物の設計の考え方なのです。
この日当たりや通風、周囲の自然環境というのは最初にあげた都市の状況に極めて左右される要素です。
したがって環境を考えるというのは、周辺の都市の状況を読み解いてその状況に適応させるということであり、それはすなわち都市を考えるということになります。
自分の設計の経験に基づいて、以前担当した長崎の環境住宅について例として説明します。(冒頭の写真の住宅です。)
この住宅の敷地は北側と西側に道路が通る角地にあり、丘状の住宅地の頂上付近にあったため南側から日光を取り込むには絶好の場所でした。
そこで一階部分の南側にリビングやダイニング、二階に子供スペースと吹抜けを設けて、南側ほぼ全面をアルミ複合樹脂サッシの二重ガラスの開口としました。また庇とバルコニーを1m幅で設けました。
このことで真夏の九州の強烈な直達日射を抑えながら、中間期や冬にはたくさんの光を取り込み、日中はほとんど照明をつける必要のない空間とすることができました。
(一階のダイニング空間:吹き抜けからも光が柔らかく入り込みます。2019年11月撮影)
(二階の子供スペースと吹抜け:午後遅くの光の様子、2019年11月撮影)
人通りがある程度多い西側は、通りからの視線を遮った方が良いです。さらに室内に強い暑さを生み出す西日を避けると室内の温熱環境には有利に働きます。そのためこの住宅の西面は開口を玄関ドアのみとしています。
また北側は前面道路より高い位置にあるため、外からの視線を気にすることなく、安定した採光を取り込めるように内部プラン(キッチンや階段室など)に応じて開口部を設けています。
住宅はとても繊細な建築で、周辺の都市環境が内部のプランニングや人々の振る舞いに大きな影響を与えてしまいます。そしてそれが日当たりや通風などの環境エネルギー要素に影響を与えてしまうのです。
したがって設計を進めて行く上では、どうしても都市や環境というのは考える要素としては切っても切れない関係なのです。
この長崎の住宅で上げたように、僕が設計する際には建物単体だけでなく、プロジェクトの初期段階から常にこの都市と環境の関係について考えるようにしています。
(その2に続く)