夜の996

夜、ぬるい空気が立ち込める部屋に居てもたってもいられなくなり、僕は外へ駆け出すことにした。
勢いはさながら家出のようであった。
坂口健太郎に憧れ上京して初めて買ったニューバランス996は靴底がすり減り、もはやアンバランスになっているが、今日はこれからマラソンをするのではなくほんの少し走る程度なので、これくらい足に馴染んだ形状の方が楽でいい。でもそろそろ新しいのも欲しいなあ。
夜は人が少なく、空気も静まっている。
呼吸とアスファルトを踏む音だけが鮮明に聞こえ、
まるで音楽のようだと思って歌詞を考えてみたりする。
しかし考えている間にすぐ息は上がり不規則なリズムになってしまった為、結局完成しないまま僕は信号に捕まった。
ひんやりとした風がやけに気持ちよかった。
4月もあと少し。ちゃんと生きようと思った。