みなし物権について
最近携わった法改正で、新しくみなし物権を作りました。
その時に物権やみなし物権について色々考えたことなどを備忘録的にまとめておきます。
1 そもそも、物権とは?
・民法(財産法)において、私権(私人間の権利)は物権と債権に分けられています。
・物権は、物に対する権利。債権は人に対する権利だと言われます。
・物権として民法に定めがあるものは、所有権、地上権、地役権、永小作権、入会権、先取特権、留置権、質権、抵当権です。
・債権の発生原因は、契約、事務管理、不当利得、不法行為等です。
・物権は、法律に定めがなければ創設することができません(民法第175条)。
・物権は、直接的、絶対的、排他的支配権だと言われます。
・たとえば、債権の場合には、売買契約の買主は、売主の行為を介在して目的物を引き渡してもらうことになりますが、物権は他人を介することなく、直接にその物を支配可能です。このため、直接的支配権だと言われます。
・また、物権は何人に対しても主張可能です。債権は、契約の相手方等一定の者にしか主張できません。このため、絶対的支配権だと言われます。
・同じ物の上には、同内容の物権は成立しません。債権は、同内容の債権であっても成立しうるものです。このため、排他的支配権だと言われます。
・しかし、物権自体は目に見えないため、取引安全のため、公示(不動産であれば不動産登記)がない限り排他性を第三者に対して主張できないとされています。
2 みなし物権とは?
・一部の法律には、「~権は、物権とみなし~に関する規定を準用する」という規定が置かれています。この規定により物権とみなされる権利のことを「みなし物権」と通称しています。
・みなし物権としては、鉱業権、漁業権、ダム使用権、公共施設等運営権、樹木採取権(私の担当した法律で創設)が挙げられます。
・これまでに存在するみなし物権は全て用益物権ですが、担保物権をみなし物権として成立させることも理論上は排除されないと思われます。しかし、担保を設定するのに行政庁を関与させる積極的な理由がなく、みなし物権とする必要がないために存在していないのだと思われます。
3 物権とみなし物権との違いとは?
・物権は、私人間の契約等により設定されるものですが、みなし物権は、いずれも行政庁による行政行為(許可、免許、設定等)により設定されるものです。
4 なぜ「みなす」のか?
・みなし物権は、いずれも行政行為により設定されるものですが、行政行為により私人に与えられる地位は、いわばお上から与えられるもので、公法上の地位であり公権です。これを対等な私人間で生じる私権たる物権とみなす必要があるため、物権と「みなす」こととされています。
5 なぜ「~に関する規定を準用する」のか?
・たとえば鉱業権等であれば、不動産に関する規定を準用し、漁業権であれば土地に関する規定を準用することとされています。
・これは、たとえば公示方法や民事執行の手続が不動産と動産で異なっていることから、こうした法令について、どの規定が対象となるのかを明らかにするために「~に関する規定を準用する」こととされています。
・~に関する規定については、現在土地と不動産の二つがありますが、この違いがどこにあるのかはよくわからないところです(おそらく実質的な違いはない)。
・具体的にどの規定が準用対象となるのかは、PFI法に公共施設等運営権が創設されるときの検討である程度整理されたようです。
6 どのような場合に(みなし)物権をつくれるのか?
・まず、物権であることから、完全な物権である所有権の一部を切り出したもの、すなわち物の使用収益処分権能のいずれかとなることが必要です。
・しかし、使用収益処分権能の一部であったとしても、当然に物権となるわけではありません。これまでに成立したみなし物権や物権であっても、たとえば地上権であれば賃借権類似のものですし、鉱業権は売買契約で、公共施設等運営権であれば委託契約で代替可能のようにも思えます。
・そのうえで、債権ではなく、物権とする積極的な理由が必要となるため、結局、債権と物権との何が違うのか?ということになります。
・債権と物権の大きな違いとしては、物権は
①排他性(対抗力)を有する
②絶対性(物権的請求権)を有する
③抵当権設定が可能
・しかし、不動産賃借権のように公示方法を備え、対抗力を有する債権も存在します。
・また、人格権に基づく妨害排除請求や、不正競争防止法に基づく差止請求権など、物権でなければ物権的請求権類似の請求ができないというわけでもないところです。
・また、権利質が存在する以上、債権に対する抵当権設定も理論的には排除されないような気もしますが、これまでに例がなく、民事基本法制に関する大きな改正となるため、なかなか容易ではなさそうです。(そもそも、権利質と何が違うのかよくわからない。)
・以上のことから考えると、債権として構成したうえで、物権化を図るための関係規定を全て書き下すことも理論的に排除されるわけではなさそうですが、そのような規定を全て書き下すよりも、物権としたうえで、~に関する規定を準用するとしたほうが、条文経済上都合が良いということになるため、物権とするということになりそうです。
・当然、物権とするからには、対抗力、物権的請求権等を有する強力な権利となるので、そのような権利とする社会的必要性があることが前提ではありますが。(近年成立した(みなし)物権はいずれも国有ないし公有財産に設定されるもので、民間の取引社会に直接的に影響があるものではなかったため、創設が認められやすかったようです。鉱業権や漁業権のような民間の取引社会にモロに影響がある権利を創設するのは、法務省、内閣法制局との関係でかなりハードルが高そうです。)
7 なぜみなし物権には登録制度が必要になるのか
・みなし物権では、いずれにおいても、登記のような公示方法を備えるため、政令、省令で登録制度を設けることとなっています。
・これは、物権としての性質を有するため、公示方法を作ることが必要になるが、純然たる私権ではなく、不動産登記法には位置づけられないためだと思われます。(しかし、不動産登記法には、私権でなければ登記対象権利にできないという制限はされていないので、もしかしたら理論的には位置づけが可能なのかもしれない。だが、位置づけると法務省の登記システムの改修や登記官等に対する研修等莫大な費用がかかるので、現実的にはかなりハードルが高いと思われる。)
・このように不動産登記と各みなし物権の登録制度は別の制度となっているため、鉱業権と土地に共同抵当を設定することは可能ですが、登記実務上公示方法が存在しないこととなっています。
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