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建築設計のクオリティを上げる基本設計 ココを押さえることがうまくいく秘訣
先日の記事で、建築設計の流れについて紹介しました。
建築設計には4つの段階があって、抽象的な要望から順を追って具体的なかたちに落とし込んでいくことを紹介しました。
4つとは
1. 基本構想
2. 基本設計
3. 実施設計
4. 工事
の4段階です。
どの段階も非常に重要なのですが、どれか1つ、最も重要な段階を挙げるとすると、2. の基本設計だと私は考えています。
建築設計を10年近くやっていると、うまくいったこともあればうまくいかなかったこともあります。
うまくいかなかったことは、共通して基本設計で検討した内容が検討不足だったり、見当違いだったりしたことに起因しています。
基本設計は設計初期のタイミングですし、後に実施設計を控えているので、ついつい検討不足になりがちです。
ですが、建築を建てるプロセスは大きな枠組みから決めていき、枠組みに沿って詳細な部分を決めていく行為です。
その枠組をおろそかにしてしまう、または間違えてしまうと、後の実施設計時に致命的なミスが発覚することだってあります。
この記事では、その中の基本設計について、どんなことを検討して、どんなことに注意する必要があるのか、掘り下げて考えてみたいと思います。
基本設計で設計する内容
基本設計という名前のイメージから、少しライトな印象を受けるかもしれません。
しかし、設計の骨格を決めるため、ここでの決定が後々の詳細設計やコスト調整に大きな影響を及ぼします。
どのような内容を検討していくかというと、大きく以下の6項目になります。
空間構成
建物の形状と外観
構造と設備の概要
規制や法的要件の確認
環境への配慮
コストと予算
次の章で、それぞれの内容について、見ていきたいと思います。
1.空間構成
基本設計の中心となるのが空間構成の検討です。
これは建物の内部や外部の空間をどのように分割し、配置するかを決定する作業です。
◯ゾーニング
敷地内のどのエリアにどんな機能を配置するかを決めていきます。
例えば、住宅であればリビングルーム、寝室、キッチンなどの位置関係をクライアントの生活スタイルをヒアリングしながら明確にします。
オフィスビルであれば、執務スペース、共有スペース、会議室などを適切に配置することが求められます。
例えば、リビングであれば敷地の南側に配置するのが一般的です。
しかし敷地によっては南側に高い建物が建っている場合もあります。
その場合は南側に庭を設けてそれに面してリビングを配置したり、または上階の北側に寄せて、南からの光を取り入れやすくすることも考えられます。
そういった調整をクライアントの要望と合わせながら計画していきます。
◯動線計画
ゾーニングに似ていますが、ユーザーが建物内でどのように活動するかを考慮しながら廊下や階段、トイレなどの補助的な機能も含めて計画していきます。
効率的な動線は建物の使い勝手を向上させるため、特に重要です。
同じ階の中での平面的な関係性、上下階との断面的な関係性、また不特定多数の人が使う建物であれば、セキュリティ上の関係性などを考慮しながら、丁寧に検討していきます。
2. 建物の形状と外観
建物の形状と外観は、基本設計での大きな決定事項です。
◯全体の形状
建物の高さ、幅、屋根の形状などを決めていきます。
後述する法律による規制を考慮しつつ、周囲の環境との調和がとれるような形状を検討します。
◯外観デザイン
建物の顔となる正面(ファサード)のデザインは、建物の印象を大きく左右します。
この段階では、形状のほか、素材や色、窓の配置などを検討します。
人々の印象に残るような特徴的なかたちとしながらも、周辺環境との調和も同時に満たさねばならないので、意匠設計者の腕の見せどころです。
3. 構造と設備の概要
基本設計では、構造と設備の大枠の考え方を決定します。
◯構造計画
意匠設計者が検討している全体の形状に対して、構造設計者が建物の骨組みとなる部分をどのように設計するかを検討します。
建物のかたちは構造計画の影響がかなり大きいので、構造計画にもエンジニアリングだけではなくデザイン性が重要になります。
どのようなアイディアで構造をデザインするか、構造設計者の腕の見せどころです。
この段階で、建物の構造体を木でつくるのか、鉄でつくるのか、鉄筋コンクリートでつくるのかなど、建物の規模や目的に応じて最適な構造形式を選びます。
仮定断面と呼ばれる、柱や梁などの構造部材の大きさもこの段階で決定します。
◯設備計画
空調、給排水、電気設備などの配置を大まかに決めます。
空調機はどんなものを使うのか、給排水はどこを通すか、電気はどこから引き込んで、どこで変換して、どこを通して建物全体に配線するか、など、大枠の計画の考え方を決めておきます。
特に給排水用のPS(パイプスペース)や換気設備用のDS(ダクトスペース)、電気配線用のEPS(電気配線スペース)は想像以上に大きな場所が必要になってくるので、動線計画にも影響が出ます。
この段階で設備の基本的な考え方を明確にしておくことで、後の実施設計がスムーズになります。
4. 規制や法的要件の確認
建物を計画する際には、どんな形でも勝手に建てて良いわけではなく、地域の規制や法的要件を遵守する必要があります。
◯建築基準法の確認
建築基準法にはあらゆる制限が課されます。
特に基本設計の段階では、建物形状に影響のある高さ制限や建ぺい率(敷地に対しての建物外形の大きさの割合)、容積率(敷地面積に対しての延べ床面積の割合)などの規制を確認します。
その他にも、火災に対しての耐久性や防火区画の設定、採光が確保できるかなども確認しておくべきです。
詳細な計算まではしないにしても、意外とこの段階で当たりをつけておかないと後々大変な目にあうことがあります。(経験談)
基本設計終盤には、おおよその法規制に関してはクリアできている状態にしておきます。
◯景観条例など各自治体の条例の確認
地域の景観に配慮したデザインが求められる場合は、条例を反映した設計を行います。
その他にも河川が近い場所などに適用される条例などもあるため、設計が始まったらすぐに各行政庁の担当窓口で必要事項の確認を行うようにします。
5. 環境への配慮
近年の建築設計では、個人住宅であろうと公共建築であろうと、環境への配慮が重要視されています。
◯自然光や適切な外気の取り込み
窓の位置や大きさを検討し、建物内に十分な自然光を取り込む計画を立てます。
また、採光と同時に効率的な換気方法も合わせて検討します。
◯エネルギー効率
断熱性能や省エネルギー化のための設備の採用を検討します。
例えば、外壁の断熱材の種類や太陽光発電パネルの設置場所などが挙げられます。
他にも自然換気のルートを検討をするなど、環境負荷の低い設計を心がける必要があります。
6. コストと予算
基本設計では、クライアントの予算内で実現可能な設計案を作成する必要があります。
◯材料の選定
材料のグレードはコストに直結します。
同じ木の板を使うとしても、樹種によって金額が異なってくるので、美観とコストのバランスを考慮しながら、使用する材料を決定していきます。
高価な素材を選ぶ場合は、他の部分でコストを抑えるなど、工夫が求められます。
◯概算見積もり
設計案に基づいて、大まかな工事費用を算出します。
この段階で予算をオーバーしないよう調整することが重要です。
概算の見積もりは施工者が協力してくれる場合もありますが、設計者が行う場合もあります。
その際は、材料の数量を算定しながら、物価本と呼ばれる材料の単価表を見て金額を積み上げていきます。
概算見積もりをしておくことで、現段階での計画が予算に対してどれくらいの差があるかが見えてきます。
そうすることで、実施設計で時間をかけて検討した内容が予算の関係で無駄になる…という事が未然に防げます。
そして何より、実施設計後の施工者選定の際に予算オーバーになって施工者が決まらなくて工事が始められない…という最悪の事態も避けられます。
建築はとにかく予算ありきなので、早いうちからコストを意識した検討が後々のクオリティの高さを担保する鍵になると思います。
基本設計の重要性
基本設計は、建物の方向性を定める段階であり、その決定が後の設計や施工に大きく影響します。
続く実施設計の期間があるため、人間の本能として基本設計はどうしても検討不足になりがちです。
しかし、この段階で十分に検討を重ねることで、クライアントの要望に応えつつ、高品質な建物を実現することが可能となります。
そのため、設計者だけでなく、クライアントや関係者との綿密な連携が求められます。
たとえば、あなたが意匠設計者で、基本設計の段階で『一般的な大きさから逸脱したサイズの巨大な窓をつくりたい!』と考えたとします。
そうだとすると、基本設計段階から専門業者と打合せを組み、実現可能性や予算を掴んでおく必要があります。
基本設計ではそういった要点をしっかりと押さえることで、後に続く実施設計をスムーズにでき、建築プロジェクト全体を円滑に進めることができるでしょう。
基本設計を制するものが、建築を制すると思います。
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