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なぜ人はフォトリアルなCGを求めるのか

私は仕事でCGでフォトリアルな建築のイメージをつくっています。

年々依頼件数も増えてきており、需要の高まりを感じています。

フォトリアルなCGは建築以外の分野ではゲーム、映画、広告などで広く扱われています。

(むしろ建築分野以外のCGの方が最先端を行っていると言えます)

フォトリアルなCGは、見る者を圧倒し、その世界に引き込む力を持っています。

その力の源について考えてみたいと思います。



リアルさの探求の歴史

なぜ人はフォトリアルなCGに魅せられるのでしょうか?

そもそも、人間は「現実の再現」という行為そのものに価値を感じるものだと思います。

太古の昔より、人々は何かを描くことで情報を伝えることを試みてきました。

記録の限りではラスコー洞窟の壁画に始まり、現在に至るまで人々は何かを描き続けてきています。

絵画の歴史を見てみると、ルネサンス以降の美術は現実をそのまま表現することを目指してきました。

特に19世紀中頃、フランスを中心に文学や美術の分野で盛んになった芸術様式に写実主義(リアリズム)と呼ばれるものがあります。

それまでの新古典主義やロマン主義の反発として、現実をより忠実に捉え表現するというムーブメントです。

写実主義が多くの人々を惹きつけたように、現実を忠実に描写することは、芸術の重要なテーマの一つとなっていたのです。

CGが登場するよりもはるか昔から、現実を模倣し表現することへの欲求があり、また、それは称賛されるべきものだったと言えると思います。

フォトリアルなCGは、人間が持つ根本的な欲求の延長線上にあると言えます。


フォトリアルなCGの魅力と役割

フォトリアルなCGの一番の魅力は、何と言ってもその"現実感をつくりだす"ことでしょう。

CGが現実と見間違うほど精密に描かれている場合、それ自体が驚きと感動を引き起こします。

この点はファンタジー作品と非常に相性が良いと言えます。

例えば1993年に公開された『ジュラシック・パーク』はフォトリアルなCGで観客を沸かせた作品です。

本物のように見える恐竜の姿はフォトリアルなCGを見慣れていなかった当時の人々の度肝を抜いたことでしょう。

私自身も物心がついたころに金曜ロードショーで見たジュラシック・パークはCGと意識させない映像に驚いたことを覚えています。

CG技術はそれ以前から映画の中で使われてきましたが、この作品が一つの転換点になっていると言われています。

ゲーム業界においても、フォトリアルへの探求は行われていたと思います。

特に1997年に発売された『FINAL FANTASY VII』の中に収録されたプリレンダリングされたムービーはドット絵が主流だった当時のゲーム界に衝撃を与えたことは有名な話です。

その後FINAL FANTASY 8, 9, 10とシリーズが続く中で、グラフィックはどんどん高精細に進化していき、多くのプレイヤーを魅了しています。

もちろん、私もそのうちの一人で、FINAL FANTASYが描く世界の大ファンです。

フォトリアルなCGは単に見た目のリアルさだけをつくっているわけではありません。

それは、観客やプレイヤーにそこに存在しているという感覚を与え、没入感を高めることにもなります。

この没入感は、物語の中で起こっていることへの説得力を補強し、感情移入やストーリーテリングの効果を飛躍的に向上させるのです。


フォトリアルな建築CGがもたらした意外な効果

前述したように、フォトリアルなCGは現実感をつくりだし画面内への没入感を高めることで、人々を魅了していることがわかりました。

建築CGにおいては、それ以外にも意外な恩恵があると思います。

それは、クライアントの判断の負担を減らすことです。

建築設計の現場では、クライアントに設計の意図を伝達し、承認を得て仕事を進める必要があります。

クライアントに確認すべきことは多岐にわたり、クライアントは相当な量の情報を判断する必要に迫られます。

クライアントに設計の内容を伝える手段は様々ですが、これまで設計者は設計図面や建築模型、そして手描きのパース(透視図)を使って伝えてきました。

しかし、これらの媒体は専門性が高く、読み解くのに一定の知識や訓練が必要なものです。

例えば間取りを示す平面図と呼ばれる図面は、建物を階ごとに真上から見下ろした図になるため、壁面の情報は無くなります。

壁面の情報は展開図と呼ばれる壁だけを取り出した図面に記載されるので、図面を見る人は、図面間の情報を頭で補完しながら読み解く必要があるのです。

これは建築設計を仕事にしている人でも、経験が浅い人の中には図面の読み描きの能力が不十分な人もいるくらい難しいものなのです。

一方で、フォトリアルなCGは実際に建ったときの姿を描くものです。

そのため、見ただけで直感的にできあがる空間がどんなものかを理解することができます。

もちろん、必要な情報を余すことなくすべて載せる必要があるので、その分制作難易度は高いのですが、クライアントへ情報を伝える力は群を抜いています。


まとめ

フォトリアルなCGは人間の根源的な欲求を刺激しているものだとわかりました。

ということは、今後もフォトリアルなCGが必要な場面は無くならないと考えられます。

それをつくる手段が3DCGによるレンダリングなのか生成AIによるものなのかは定かではありませんが、間違いなく需要は増えていくと思います。

今後もグラフィックの進化から目が離せません。

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堀江優太|Yuta Horie
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