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その話、相手に伝わってる?難しいことでもわかりやすくする"伝え方のデザイン"

私は現実に建つ建築のデザイナーを10年ほどやっていますが、デザイナーにとって最も重要な能力は何だと思いますか?

奇抜な発想?
圧倒的なセンス?
妥協しないメンタル?

デザイナーによって考えは違うと思いますが、私は考えを人に伝える能力だと思います。

デザイナーは基本的にはクライアントワークなので、最終的にクライアントが首を縦に振らなければ、どんなに良いデザインであっても実現しないのです。

だから良いものをつくる能力も大事なのですが、良いものを他人にも良いと感じてもらえるような伝え方ができることの方が重要なのです。


今ではデザイナーとして、大学の非常勤講師として、それなりにやれていますが、実は働き始めて2年くらいは考えを伝えるのがとても苦手でした。

話し方が下手だったこともあり、クライアントに「何を言ってるかわからない」と、言われたこともあるくらいです。

今でも妻と会話しているときに油断して適当な伝え方になってしまい、誤解を生んでケンカの元になってしまうなんてことも…

そんな私ですが、今では大きな問題を起こさず仕事ができる程度には人に考えを伝えることができるようになってきたと思いますし、少なくとも「何を言っているかわからない」と言われることは無くなりました。

なぜ考えをスムーズに伝えることできるようになったかと言うと、あるコツを掴んだからに他なりません。

そのコツとは…




「型にはめる」ことです。




・・・これだけだと意味不明ですね。笑

いわば説明のためのテンプレートを持とう、ということなのですが、もう少し言葉の解像度を上げてみたいと思います。


デザインには一定の構造がある(と思っている)のですが、その構造に沿って話を組み立てると、一気に理解がスムーズになるということを必死で働いた中で見いだしました。

その構造とは

  1. 構想(Concept)

  2. 構成(Composition)

  3. 計画(Planning)

  4. 詳細(Detail)

  5. 仕上げ(Finish)

です。
この1~5の順番で説明していくことを一つの「型」とすることで、デザインの意図が相手に伝わりやすいと思います。


言葉だけ聞いても実感が無いと思うので、ここからは私が友人とともに設計した福山市の中央公園に建つガーデンレストラン Enleeを題材に実演してみたいと思います。




瀬川翠/Studio Tokyo Westとの共同設計  写真:内田伸一郎


― 構想(Concept) ―
福山市の中央公園の中に建つレストランを設計しました。
公園の延長で訪れた人がゆったりできる明るく開放的なレストランを目指します。


― 構成(Composition) ―
そのために、公園の中にそっと置かれるパーゴラのような建築を考えました。


― 計画(Planning) ―
建物は公園内のまちに近い位置に配置し、客席のエリアと厨房のエリアを分けることで建物が大きな塊になることを避け、周辺の建物の大きさに馴染ませています。
さらに、公園の広場に向かって開くように屋根を架けることで、公園とつながる開放的な客席を生み出しています。

その空間を支える柱は木造で経済的につくれる大きさである3.6m間隔ですべて配置し、ノイズの少ない端正な佇まいとなるように計画しました。

また、公園側の柱の間にはガラス戸を設けて内外を仕切りつつも公園との一体感を残しています
春や秋など過ごしやすい季節は開け放つことで内外を一体的に利用できるようにしています。

公園側の建具を開け放った様子  写真:内田伸一郎


― 詳細(Detail) ―
柱は通常よりも一回り細い90mm角の材を使用し、構造壁をバランス良く入れることで、最小限の構造体で十分な強度を確保しました。

窓はスチールサッシとすることで極力窓枠を細くつくっています。

柱や窓などの部材を普通の建物よりも一回り細くつくることで極力存在感を減らし、利用者の意識が公園に向くようにしています。


― 仕上げ(Finish) ―
壁や天井は存在を感じさせないような明るいグレーに、構造材は木の質感が浮かび上がる染色系の塗装を施し、耐久性を確保しつつも、パーゴラのフレームを強調するような仕上げにしています。

さらに、客席の床には屋外でも使われる真砂土舗装とすることで、見た目や質感からも公園の上にいる感覚を生み出しています。




いかがでしょうか?
このような流れで聞くと、どんな考え方でデザインをしたのかが伝わってくれていると思います。

逆に言うと、説明が伝わらないときは、この順序がおかしなことになっていると思います。

そして勘が良い人は気付いたと思いますが、説明は抽象的な内容からどんどん具体的な内容に進みますが、一貫して構想(Concept)につながる話をしているのです。



具体例だけだと応用が効かないと思うので、1~5の内容を定義してみたいと思います。

1. 構想(Concept)

構想(Concept)とは、提案において最も重要な概念のことです。
背景(前提条件、問題点など)と目指したいゴールのセットで語る構想で、ここでは具体的な形を持ちません。
キャッチコピーのようなものと考えて良いと思います。


2. 構成(Composition)

構成(Composition)とは、コンセプトを実現するための筋書きのことを指しています。
構想(Concept)は形を指定しないものでしたが、構成(Composition)は少しだけ具体性を帯びてきます。

例えば「~のような空間である」と、いう感じで何かに例えられるものがこの構成だと思います。


3. 計画(Planning)

計画(Planning)は構成を成立させるための骨子となる具体的な計画のことです。
コンセプトや構成を実現しつつ、前提条件やクライアントの要望に基づいてどこに何を置くのかなど、具体的に決めたことを指します。

建築の場合であれば、建物内の部屋の配置や動線の考え方などを指します。
グラフィックの場合であればトンマナの決定、文字や写真をどこに配置するのかというのがこの段階です。


4. 詳細(Detail)

詳細(Detail)とは、計画を実現するための詳細な「仕様」や「納まり」を指します。

建築の場合であれば、柱や窓枠などの意図した寸法に着目した内容になります。
グラフィックの場合であれば文字にはどのフォントを使うか、図版の角を丸めるか尖らせるか、などの具体的な形状に言及していくことになると思います。


5. 仕上げ(Finish)

仕上げ(Finish)は、1~4で伝えた内容が最終的にどのように見えてくるかを指します。

建築で言えば床/壁/天井の素材、塗装の色や種類、素材の肌理などを決めることと同義です。
グラフィックの場合だと印刷物の紙をどうするかや最終的な文字詰めを確認することなどが該当します。



私はいつもこのような「型」をつかって説明の方法を考えます。
一つでも「型」があれば、悩んだ時は「型」にはめれば良いし、慣れてきたら「型」を破って新しい説明方法を編み出しても良いと思います。

もしデザイナーを目指している、またはデザイナーだけどうまく人に説明ができない、という方は、何か「型」を見つけるときっと良くなると思います。

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堀江優太|Yuta Horie
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