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建築設計のプロセスから考える、難題解決のための仕組み
私は10年ほど建築の意匠設計(デザイン)に携わってきましたが、建物を建てるという行為は、難易度の高いパズルを解くことに似ていると感じます。
一つひとつの要素が全体の調和に影響を与え、どこかでバランスを崩せば全体が成り立たなくなる可能性があるからです。
例えば、デザインの美しさや機能性を追求しながら、予算や環境への配慮、法規制なども考慮しなければなりません。
このように、多くの要素が複雑に絡み合う課題に対し、設計者は解決策を導き出す必要があります。
どんな建物でも、建物を建てるということは、非常に複雑で大きな課題を解決していくことに他なりません。
建物を建てる際にはどの時期にどんな内容を検討し解決するか、業務上の流れが存在します。
と、いうことは、建物が建つまでの流れに沿っていけば、それ以外の難しい課題の解決方法につながるのではないでしょうか。
この記事では、建築設計のプロセスを参照しながら、問題解決のための適切な仕組みについて考えてみたいと思います。
建築が建つまでの4つの段階
1つの建築が建つまでには大きく分けて4つの段階があります。
1. 基本構想
こちらは設計者が検討を行うこともありますが、どちらかというとクライアントとデベロッパーや不動産事業者が行うことの方が多い内容です。
この段階ではクライアントが建物を建てることで獲得したいゴールを設定する段階です。
建物のおおよその規模や用途、必要な部屋や満たすべき性能、それらをつくることでどんな生活や活動をしたいかなどの要件を定義します。
ここでは具体的なかたちは決めません。
設計を発注する前の仕様書をつくる段階と言うとイメージがしやすいかもしれません。
この基本構想でまとめた仕様書を元に、プロポーザルやコンペや指名で設計者を選定します。
2. 基本設計
設計者が決まったら、いよいよ設計が始まります。
基本設計では、基本構想で決定した要件を叶えるような建物の空間構成を具体化なかたちに落とし込んでいきます。
設計者は敷地がもつ地理的な条件や関わってくる法律の整理をするほか、部屋の使い勝手や生活スタイルなど、利用者の具体的な要望をヒアリングします。
そして、上記の整理した内容を元に、平面図や断面図といった図面や模型、3Dモデルを利用して、建物全体のかたちや部屋の位置や大きさを定めながらデザインの方向性を固めていきます。
デザインの方向性を決めると同時に、建物に必要な性能やデザインの方向性に沿った構造や設備のおおまかな方針もここで決めていきます。
3. 実施設計
実施設計は、基本設計を基にさらに細部まで具体化する段階です。
この段階では、建物を実際に建設するための詳細な設計図書を作成します。
例えば、コンセントの位置や個数、屋根や壁の下地材から仕上材までの構成や防水材料の隙間の塞ぎ方など、建築を建てるために必要な材料や寸法をすべて決定し、設計図面としてまとめていきます。
また、構造設計や設備設計もこのフェーズで最終的な形にまとめられます。
構造設計の場合は構造部材の材料や必要な強度、そして施工方法も含めて検討して図面にまとめていきます。
設備設計は配管配線を通す場所や各機器の必要な能力の算定、そして具体的な機器の選定などを行い、図面にまとめます。
この実施設計でまとめた図面を施工業者に渡して、工事にかかる金額やスケジュールを見積もってもらいながら、施工業者を決定していきます。
実施設計で書く図面は、施工業者が設計意図を正確に理解でき、適正な金額が算出できることを求められます。
また、この段階で設計している建物が法律上問題ないかの確認を専門の機関が審査を行います。
ここで施工業者が決定し、法律上建てても問題がないことが審査によって確認されれば、次はいよいよ工事が始まります。
4. 工事
工事は施工業者が主体となって進めていきます。
設計者は施工が設計図通りに進んでいるかを確認し、必要に応じて調整を行う役割を担います。
例えば、現場の状況や予期せぬ課題に対応しながら、クライアントや施工業者と設計者は密に連携し課題を解決していきます。
この段階では、設計の完成度をさらに高めるための最終的な調整が行われ、最終的に建物が完成します。
建物が建つまでの流れから見えること
建物を建てる際には、4つの段階に分けて考えることで非常に複雑で大きな課題を解決しながら完成に向かっていることがわかったと思います。
まとめてみると
【基本構想】では要件の定義を行います。
【基本設計】では要件を解決するようなかたちのコンセプトとそれを実現するための大まかな戦略を決める段階です。
【実施設計】では基本設計で決めた大まかな戦略を実現するために、より具体的な作戦をたてるイメージです。
【工事】では実施設計で立てた作戦を実行しつつ、問題が起これば他者と連携して解決しながら完成を目指すことを行っています。
建物を建てる一連の行程で、大きなな視点から物事をとらえながら、順を追って細かい部分まで掘り下げながら解決しているのです。
これは別の分野の問題にも応用できるのではないでしょうか。
例えば、プロジェクトの企画や組織運営などの分野でこのアプローチを活用する場合を考えてみます。
基本構想にあたる段階で目標や制約条件を整理し、実現すべき成果を定義します。
そして基本設計に該当する計画段階で、全体のスケジュールや必要な資源を明確化し、関係者との連携方法を設計します。
実施設計にあたる段階では、具体的なタスクを割り振り、進捗を管理するための仕組みを整えます。
そして最終段階では、プロジェクトを実行しつつ問題が発生した場合に迅速に対応し、成果物を完成させます。
このように考えると、解決の糸口がつかめる気がしてきませんか?
建築設計で行われている4段階に倣ってプロジェクトを分解してみると、一見手が出せないような複雑で難解な課題状況も少しずつ解決に向かっていけるのではないでしょうか。
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