もしもSNSがなかったら
mixiがまだ招待制だったころ、僕は京都にいたんです。
当時名古屋に住んでいた僕は、中学時代の友人が、京都の大学に進学して一人暮らしをはじめたから、夏休みを利用して遊びにいったときの話。友人がゼミに出席している間、はげしく揺れるバスに乗って、観光名所を回りながら、時間を潰していました。
「aoi」
正しくは、「アオイさん」だったかな…。当時、僕のマイミク(今でいうフォロワーみたいなもの)さんの中で、唯一リアルな友人じゃない子がその人でした。京都在住の作家志望の同じ歳の女の子。
「京都に来ている」とメールで伝えると、すぐに返信がきた。メールには、
「奇跡おこしちゃう?^^」
当時、オフ会なんて言葉もなく、ネット上で知り合った人とリアルで会うなんてことが、良い事なのか、悪い事なのか、わからないなか、顔も知らない女の子のことを考えながら、知らない街の知らない待ち合わせ場所に向かう。すれ違う女性が、彼女なんじゃないかと、ドキドキしながら、進む。
もしもSNSがなかったら、きっとこんなドキドキする出会い方も、なかったと思うし、全然知らない女の子に会うなんて大胆な自分がいることにも気づかなかったと思う。
お互い顔を知らないから、なんどもすれ違い、待ち合わせ時間から、20分ぐらいかけて、なんとか横断歩道の上で出会った。髪が茶髪のウェーブがかかってて、僕の胸あたりの身長。顔は恥ずかしくてあまり見れなかったなあ。そのまま知らない居酒屋に行って、たくさん話した気がする。進路のことや、相手の彼氏のこととか、好きな本のこととか…。
で、気づけば終電が終わってて、歩いて帰ることに。知らない街の中を彼女が僕の友人の家まで送ってくれることに。京都は碁盤目だから、わかりやすいらしい。
もしもSNSがなかったら、終電が終わった夜に、知らない街で、知らない女の子と、川沿いの道を歩くなんて経験、しなかったと思う。
送ってもらった後、ひとりで彼女が歩いて帰ることを負い目に思いながら、なんとかお礼をしたくて、鞄の中にあった、すっかり冷めてしまったペットボトルの午後の紅茶を渡したのを、なぜか覚えてる。
友人宅について、今日の出来事を話しているんだけど、夢のような現実が、現実のような夢にすり替わっていくような気がどことなくしてくる。だって、もう会う予定がないんだから。
SNS展に行かなければ、彼女のことを思い出さなかったし、noteも書こうと思わなかった。きっと僕は期待しているだと思う。SNSの可能性に。
あなたをことを覚えていることを、あなたに届かないかな…って。
そして、僕は、ほんの少し後悔するんだ。
もしもSNSがなかったら、当時の僕が、男子としての振る舞いがお粗末だったことを、思いださなくて済むのに…って。